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第49話

第49話


キン、キン、キン!


無数の棘が俺たちに向かって飛んでくるのを、レベッカさんは俺を守るために絶えず剣を振るって弾き返している。

レベッカさんがいくら強いとはいえ、体力には限界があるはずだ。


「(早く…!)」


俺はさらに高く持ち上げ、素早く噴射した。

洞窟の中に広がる濃い殺虫剤の匂いを嗅ぎつけたのだろうか。

クイーンアントが発作を起こしたかのように動き始める。

それと同時に、アントウォーカーたちの視線が俺たちに向かう。


「レベッカさん!後ろにアントウォーカーが!」

「くっ…」


レベッカさんが剣を振り回し、何とか俺を守ろうとするが、さすがにこの数のアントを相手にするのは無理があるようだ。


シューッ。


「もう少しだけ、耐えてください…!」


殺虫剤のおかげで、周りにいたアントウォーカーたちが近づいてくる途中で、皆腹を上に向けてぶるぶると震え始めた。

もう少しだけ撒けば、この洞窟全体に広がり、アントラッカーの奴らにまで影響を与えられるはずだ。


「【ソニックウェーブ!】」


レベッカさんが再び、理解不能な言語を叫びながら剣を振るう。

闇の中へと飛んでいく剣気。

その剣気が地面にぶつかって爆ぜ、闇の中がわずかに明るくなる。


その瞬間、初めて見るアントラッカーの姿。

奇怪そのものだった。

闇の中をよりよく見るために発達した巨大な目、背中に生えた棘を利用して攻撃するからか、アントウォーカーとは違って小さな顎、そして背中に生えた巨大な棘とは不釣り合いな小さな体格。

あれが本当にアリなのか、それともアリのふりをした別の昆虫なのか。

分からないが、はっきりと言えることは、あの者たちは怪物だということ。


シューッ、シュッ、シュッ。


中に入れておいた殺虫剤が全てなくなった。

つまり、ここから無事に抜け出しさえすればいいということだ。


「レベッカさん!もう出ましょう!」

「はい!」


飛んでくる棘を防いでいたレベッカさんが後ろに跳んで避け、そのまま俺の手を掴んで走り出した。

後ろからは絶えず棘が飛んでくるが、頭を下げたり体を動かしたりして、かろうじて避けた。

そうして、どれほど走っただろうか。


「こっちだ!」


カイルの声が聞こえ、ターニャが前に歩み出て盾を構える。


カンッー!


ターニャの盾にいくつかの棘が防がれるが、棘の重さに耐えきれず、ターニャが後ろに倒れる。

数多くのアントが押し寄せてくる。


このままでは、アリたちが皆外に飛び出してきて、殺虫剤を撒いた意味がなくなる。


何か方法はないだろうか。

方法が…


「そうだ…!カイル!」

「なんだよ?!」

「爆弾はもうないのか?!」

「爆弾?!」


カイルが当惑しながら、素早くカバンを探る。

しかし、見つからないのかカバンを逆さにして中に入っていた全ての物を取り出し、丸い爆弾を一つ持ち上げた。


「ここにある!」

「こっちにくれ!」


インベントリからライターを取り出し、火をつけた。


チリチリチリッー


導火線が速い速度で燃え始める。


「(タイミングをうまく計らないと…!)」


この爆弾が爆発すべき場所は、アントの巣の入り口の上部。

天井を崩して入り口を塞がなければ、殺虫剤が抜け出さず、完全に奴らに影響を与えることができるだろう。


もう少し。

もう少し。


「兄さん!」

「まだだ!」


このまま投げれば、天井に届く前に爆発するだろう。

もう少しだけ、あともう少しだけ…!


今だ!


「はぁっ!」


俺は天井に向かって、力いっぱい投げた。

まるで打者に向かって飛んでいく野球ボールのように、くるくると回りながら天井に向かって飛んでいく爆弾。

それが天井に届いた瞬間。


ドカーン!


強い爆発音と共に、爆弾が爆発する。

そして、それと同時に。


ゴゴゴゴゴゴ。


天井が崩れ、今まで彼らが出入りしていたアントの洞窟の入り口を塞ぐ。


「はぁ…はぁ…」


俺は自分の手を見つめた。

相当緊張していたからだろうか。

手に汗がびっしょりで、ぶるぶると震えている。


「やった!」


カイルが叫び、ターニャが笑う。


「よし…!」


俺たちが開けた出入り口を塞いだ。

あとは、奴らが皆、気を失うか死ぬまで待てばいい。

しかし、一つ心配なことがある。


「ターニャ。」

「はい?」

「あの中に入る別の道はあるか?」

「うーん…」


俺の問いに、考え込んでいたターニャが、恐る恐る頷く。


「私たちが開けた所は元々入り口ではなかったので。奴らが元々通っていた通路は開いているはずです。」

「だとしたら、そこも塞がないと。」


殺虫剤が抜け出る穴があってはならなかった。


「奴らが出入りする入り口を探そう。」

「またかよ?!」

「カイル!」


カイルが不満を漏らすと、ターニャが近づき、子供を叱るように睨みつける。


「依頼人が言う通りにするのが冒険者でしょ!」

「それは俺たちが場所を知ってる時の話だろ!今、あのアリの巣の入り口がどこにあるかも分からないのに、どうやって探すんだよ?お前も知ってるだろ!地図もなしにこの広いダンジョンを歩き回ったら、どうなるか…!」

「それはそうだけど…」

「特に俺たちみたいなEランクの冒険者は、もっと気をつけなきゃいけないんだ!金もうちょっと稼ごうとして命までかけるなんて…俺はごめんだ…」

「カイル、あなた。ずいぶん自信がなくなったわね?」

「くっ…」


アニエスさんがからかうと、カイルが歯を食いしばる。


「さっき胸に棘が刺さった時、悟ったんだ…いくら金をたくさん貰えるとしても、命の方がもっと大事だってことを…」


その言葉に、アニエスさんの表情が固まる。


「そう…?」

「だから、俺たちはここまでだ。元々俺たちは道案内だけしに来たんだろ!もう道案内も終わったんだから、俺たちはもう帰…」

「帰っていいよ。」


俺の言葉に、カイルが当惑して俺を見つめる。


「カイル、君の言う通りだ。そもそも君たちにこんな頼みをするべきじゃなかった…君たちに頼んだのも、君が言った通り、道案内だったしな。」


インベントリから革袋を取り出し、彼らに渡した。


「ほら、依頼料だ。」


カイルの手に革袋を乗せた。


「君たちを危険な目に合わせてすまなかった。」


頭を下げて、心から謝罪した。

冒険者ギルドのマスターが彼らに頼んだのは、カイルの言う通り道案内だけ。

彼らが戦いまでして命を懸ける理由は一つもなかった。

しかし、一緒に来たという理由で、俺はカイルを殺すところだった。

幸いにもアニエスさんのおかげでカイルが死ななかっただけで、もしアニエスさんがいなかったら、カイルは間違いなく死んでいただろう。


「お兄さん、私たちも手伝います!カイルの奴、さっき怪我したからちょっとおかしくなって…」

「いや、もう帰ってくれ。レベッカさん。」

「はい。」

「レベッカさんが、この子たちが無事に出られるように、送ってあげてください。」

「しかし、そうなると優司様が…」

「俺の心配はしないでください。」


俺の言葉に、レベッカさんが目を閉じると、頭を下げて挨拶する。


「承知いたしました。この者たちを外へ案内した後、すぐに戻ってまいります。」

「ええ、お願いします。」

「お兄さん!」


ターニャが最後まで残ろうとするようだが、レベッカさんが手を掴んで行くと、いくらもがいても抜け出せないようだった。


「はぁ…」


四人が去った場所の近くの岩に座り、深いため息をついた。


クゥン…


ハルが俺に近づき、顔を擦り付けてくる。

可愛い奴の顎と頭を撫でた。


「ハル。もう信じられるのは、お前だけだ。」


ワン!


ハルがその場に座り、尻尾を振りながら俺を見つめる。


「お前が人間だったら、本当に良かったのにな。どこへでも一緒に行けるし。」


ワン、ワン!


こう言っても、ハルは動物だ。

絶対に人間にはなれない。


「さて、それじゃあ…」


俺はマップを開いて、辺りを見回した。

あちこちに浮かんでいる赤い点々。


「確かに…この空間の中は道じゃないな…」


俺がいる場所は半透明の白色で道の表示がされているが、アントの洞窟の中には道の表示のようなものはない。

どうやら、隠された地形か何かのようだ。

こんな場所の出入り口を探すのは、おそらく難しいだろう。


「だからといって、座っているわけにはいかないしな…」


俺は必ず、クイーンアントの産卵管を手に入れなければならない。

そうでなければ、ジュセフ商人ギルドに会うことはできないだろうから。


「ハル、行こう。」


ワン!


席から立ち上がって歩き出す俺の後を、ハルがついてくる。

今、信じられるのはハルだけ。


「ハル、万が一、俺が助かる見込みがなかったら、お前だけでも逃げるんだぞ?」


ワン!


分かったのか、分からなかったのか。


***


道を歩くこと数分。

いくら歩き回っても、アントの洞窟の中に入る道は見えない。

だからといって、反対側に出る出口も見えないところを見ると、このダンジョンに入れる道は、俺が入ってきた、あの警備員がいる場所一箇所。


「(外に出て、探してみるか…)」


そう思っていると、ハルが何の匂いを嗅いだのか、クンクンと鼻を鳴らしながらどこかへ向かう。

ハルが行った場所は、壁の前。


「ハル?」


ワン!


ハルが俺を鼻で押し、壁の前へ案内する。


「ここに、アントたちが通う出口でもあるのか?」


ワン!


今までじっとしていたハルが、わざわざ俺をここに連れてきたはずはない。

何かあるだろうと思い、俺は壁をゆっくりと触ってみた。


「何もない…」


俺は耳を澄ませた。

ヒューンという風の音のようなものが、壁の外から聞こえる。

そして、その風の音と共に、先ほど撒いた殺虫剤の匂いがかすかにする。


「この向こう側のことか?」


ワン!


俺の問いに、ハルが答えるように一度吠える。


「アリたちが出入りする通路がここにある…か…」


マップを見ると、ここもやはり明らかにされていない場所。

結局、ここを塞ぐためには、先ほどのように爆弾が必要だということだが。


「爆弾が一つもないのに…」


もしかして、コンビ∞にあるのではないかと思い、探してみた。

そして、発見した爆弾は…


「うーん…」


糸よりは少し太いくらいの導火線が長く伸びている、縦に長い円筒形の爆弾。

まさに、ダイナマイト。


「(これ、大丈夫かな…)」


ダイナマイトの爆発力は相当なものだ。

だから、こんなダンジョンで爆発させて、天井でも崩れたら大変なことになる。


「これ以外に何かないの?」


そうしてコンビ∞を探していて、発見した一つの物。


「これなら…」


購入するや否や、俺の目の前に現れたもの。

それは爆弾ではなかった。

だが、爆発させずとも、この壁を貫くことができる代物だった。


【創造建設】


まさに、電動ドリル。

俺が購入した電動ドリルの表面に、「創造建設」というステッカーが大きく貼られている。

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