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第48話

第48話


ごくりと唾を飲み込んだ。

そろりそろりと入っていくと、誰も気づいていないのか、アントウォーカーたちがひたすら地面を掘っている。


ひとまず、最も優先すべきことは一つ。

まさに、実験だ。


先ほど皆に言ったように、この殺虫剤がアントたちに効果があるかどうかは分からない。

効果があると信じてむやみに飛び込んでいき、効果がなかったら大変なことになる。


この効果を知るためには、離れている一匹に吹きかけてみるしかないのだが、ちょうどアントウォーカーが一匹、行き止まりの通路で壁を少しずつ掘っている。


振り返って皆に来るように手招きし、静かにアントウォーカーへと近づいていった。


サクサク。


岩を削る音が耳元で聞こえる頃、慎重に横から近づいた俺は、アントウォーカーがいる方向に向かって殺虫剤を噴射した。


シューッ。


液体が噴射され、殺虫剤特有の匂いが通路の中に広がる。

大きさが普通のアリの何百倍もあったので、念のため相当な量の殺虫剤を噴射した後、後ろへそろりそろりと下がった。


どれほど経っただろうか。


ドンという音が聞こえ。


「お…おお!効くぞ!」


前にいたアントウォーカーが、腹を上に向けて足をぶるぶると震わせている。


「本当に効くじゃないか…?」


コンビ∞で売っている殺虫剤が効果がある!

もちろん、俺の能力であるコンビ∞で売っている物だから、モンスターにも効果があるように改良されているのかもしれないが、いずれにせよ効くということが分かれば、もう話は簡単だ。


「さあ、確認しましたよね?」

「はい、確認はしましたが…人体には害のない物なのですか?」

「人体には無害!…とは言えませんが…」


殺虫剤は、名前に昆虫を殺すという意味が入っている物ではあるが、人体に害がないわけではない。

こんな密閉された場所で大量に吸い込めば、間違いなく人体にも大きな害になるだろう。


「(どうすれば…)」


腕を組んだまま悩んでいると、一つのことが思い浮かんだ。


「あ、そうだ。」


畑で作物を育てる時、虫が発生した時に備えて一つ買っておいたものがある。

まさに、農薬噴霧器。

紐がついたタンクをリュックのように背負い、噴射する物だ。

これを持って中に入り、空中にひたすら噴射したらどうだろうか。

深く入らなくても、空中に広がり、中にいる奴ら全員に効果があるだろう。

死ななくても、少なくとも動きを鈍らせたり、感覚を鈍らせたりはできるはずだ。


特に、密閉されたダンジョンの中では、ひたすら殺虫剤が空中に漂い、アントたちに最後までまとわりつき、ほどなくして皆、駆除されるだろう。


「(そのためには…)」


コンビ∞を開いて品物を一つ購入すると、俺の手に現れる。


「それは…何ですか…?」


アニエスさんが、俺の手に握られた物を見て尋ねる。

顔全体が透明なプラスチックでできた仮面。


「防毒マスクです。」

「防毒マスク?それは何?」

「これ?これは…」


防毒マスクを顔につけ、紐を引っ張った。

顔に合わなかった防毒マスクが、紐が締まる瞬間に顔にぴったりとくっついた。


「薬品が鼻に入ってこないようにする物だよ。」

「そんなものがあるのか?」


俺がつけた防毒マスクが珍しいのか、カイルが近づいてきて顎を撫でながら、俺の防毒マスクを見つめる。


「皆さん、ひとまず洞窟の外へ出ていただけますか?」

「はい?」

「手伝っていただきたいことがあります。」


ひとまず、再びアリの巣の外へ出た。

そこに座り、殺虫剤を数十個買って取り出して置くと、皆が驚いた目でそれを見つめる。


「こんなものを、どうやって持ち歩いてるんだ?」

「そりゃ、亜空間バッグのおかげだよ。」

「亜空間バッグ…?いや、亜空間バッグがこんなに大きいのか?」

「私も初めて聞きました。」

「レベッカ姉さんは知ってた?亜空間バッグがこんなに大きいなんて?」

「それが…」


レベッカさんが後頭部を掻く。


「私が亜空間バッグを持っているわけではありませんが、知人に亜空間バッグを持っている人がいて、その知人が言うには、簡単なリュック一つ分くらいしか入らないと…そう言っていました。」

「あ~、じゃあ優司お兄さんの亜空間バッグがすごく大きいのか?」

「おそらく、そうだと思うけど…」

「メガンさんやルアナさんも驚いていましたよ。亜空間バッグにこんなにたくさんの物が入るのかって。」


彼らが言う亜空間バッグと、俺が持っているインベントリは、大きさからして…いや、根本から違うようなので。

人々が驚くのも不思議ではない。


「さあ、では皆さん。蓋を少し開けてくれますか?」


殺虫剤の瓶を見ながら言うと、彼らが当惑してそれを見つめる。


「これを…?」

「はい。蓋だけ開けてくださればいいです。入れるのは俺が全部入れますから。」


俺の言葉に、じっと立っていた彼ら。

しばらくして、カイルが目をぎゅっと閉じると、瓶がある方へ歩いて行って座る。


「そうだ…効果があるのが分かったんだから…」


彼の後に続いて、アニエスさんとターニャもその場に来て座る。


「これでやれば、危険なく倒せるはずです…たぶん…」

「うん。そうだ。そうだろう…」


瓶の蓋をあちこちといじる彼らに、回して開ける方法を教えると、最後にレベッカさんが周りに近づいてきて座る。


「ありがとうございます、レベッカさん。」

「いえ。私が言ったことがありますから。優司様もその言葉に従って、こうして武器を取り出したのでしょうから、全力でお手伝いします。少し信じがたいですが…」

「仲間ですから、信じてください。」

「くっ…」


先ほど聞いた言葉をそのまま返すと、レベッカさんがやられたという表情で俺を見つめる。


元々、言葉というのはそういうものだ。

だから、寝ても覚めても言葉には気をつけろという言葉があるのだ。


***


缶が床に転がる。

インベントリに入れて空の缶を全て売り払い、俺は農薬噴霧器を肩に背負い、防毒マスクを再びつけた。


「優司様。本当にそれでなさるおつもりですか?」

「はい。だからこうして入れたんじゃないですか。」

「しかし…危険ではないでしょうか?念のため、私がついて行くのが…」

「うーん…」


気持ちとしては、ハルを連れて行きたい。

犬用の防毒マスクがないわけではないが、犬用の防毒マスクがこの強力な殺虫剤を防いでくれるかは未知数。

そんな賭けに、俺の命でもなく、ハルの命をかけることはできない。


「では、レベッカさん、お願いします。」

「はい!」


レベッカさんなら大丈夫だろう。

俺と同じ防毒マスクをつけさせて、中に連れて行けばいいのだから。


コンビ∞で防毒マスクを一つ購入した後、フィルターを探してみた。


「うーん…」


フィルターが色々ある。

防毒マスクのフィルターが全部英語で書かれていて、分からない。


「(普段から防毒マスクの勉強でもしておけばよかった…)」と後悔しているが、専門家でもない限り、誰が防毒マスクのフィルターについて勉強するだろうか。


情報でもあればいいのに。

ここで防毒マスク関連の本を買って勉強してから購入するのは…ちょっと違うだろう?


ひとまずAから一つ買ってつけてみよう。

どうせ殺虫剤を大量に吸い込むわけではない以上、死ぬことはないだろうから。

フィルターの効果がなければ、息を止めてみよう。


「レベッカさん。」

「はい?」


レベッカさんに防毒マスクを渡しながら、言葉を続けた。


「もしも体に異常が生じたら、息を止めてすぐに外へ出てください。」

「はい、分かりました。」


レベッカさんの顔に防毒マスクを着用させ、俺はアリの巣の中を見つめた。

明かりがなく、暗い洞窟。


「さあ、入りましょう。」


よし。

覚悟しろよ、アントども。

今日、害虫駆除、きっちりしてやるからな。


***


頭にヘッドライトをつけ、俺は中に入った。

以前死んだアントの死体は跡形もなく消え、その場所には痕跡だけが残っていた。


「おお…」


レベッカさんが自分の頭の上で光を放っているヘッドライトを、不思議そうにいじっている。

そういう時を見ると、本当に子供みたいだ。


「それをいじって消えたら大変ですから、触らないでください。」

「はい!」


すぐに軍人モードに入るレベッカさん。


俺はそんな彼女を見て、ふっと笑った。


「どうして笑うのですか?」

「ただです。」


不思議そうに首をかしげる彼女を無視し、ひたすら前に歩いて行った俺は、再び見ることができた。

広い洞窟と、その中にいる巨大なアリ一匹を。


「さて、と…」


俺は背中で揺れる殺虫剤を一度見た後、再び前を見つめ、噴霧器を上に持ち上げた。

そして、ボタンを押すと。


シューッ。


噴霧器から殺虫剤が、虚空に撒き散らされる。


「俺が合図したら、その時後ろに下がるんです。」

「はい、分かりました!」


レベッカさんが腰から剣を抜き、緊張した表情で周りを見回す。


「(アントウォーカーは心配ない…)」


この奴らは、横で殺虫剤を撒いても反応しない奴らだ。

今俺が心配しているのは一つ。

まさに、アントラッカーだ。


この奴らは、闇の中で棘を発射する奴ら。

今、この場所には俺とレベッカさんがヘッドライトで照らす方向を除いて、四方が闇に包まれている。

いつ、どこから飛んでくるか分からないということだ。


「(このままこの中を殺虫剤で満たして、皆殺しにするまでは、何事もなければいいのだが…)」


俺にできることは、ただ心の中で祈るだけ。


シューッ。


殺虫剤が、だんだんと虚空に広がっていくのが見える。


ドン、ドン。


周りにいたアントウォーカーたちが、腹を上に向けて足をぶるぶると震わせている。

このままいけば、何の被害もなく静かに終わるはず。


「(これくらいなら、もう下がりながら撒いてもいいか…)」


いくら良いフィルターでも、ひたすら全てを防いでくれるわけではない。

時間が経てばフィルターの性能が落ちるし、俺がいくらきちんと着用していても、もしも隙間があれば、その間から入ってくる可能性もある。

だから、殺虫剤を撒いた場所からは、できるだけ離れるのが良い。


「さあ、では後ろへ…」


ガン!


剣と硬いものがぶつかる軽快な音が、俺の前で響き渡る。

瞬く間に起きたことに、俺は呆然とした表情で前を見つめた。

剣を構えたレベッカさんが前にいる。

そして、足元には腕ほどの大きさの鋭い棘が刺さっている。

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