第47話
第47話
「ダンジョンに来る時、仲間と一緒に来たのなら、全面的に信じなければなりません。仲間に何か問題が起こるだろうと考えて武器を使わないことの方が、むしろ仲間たちに危険をもたらすことがあります。」
「わ…私が、皆を信じていないということではなく…」
「優司様がどんな気持ちで使用されなかったのかは理解していますが、せめて、私たちをもう少し信じていただきたかったです。」
俺が仲間を信じていなかったという言葉。
ある意味、そう考えられるかもしれない。
よく考えてみれば、危険に陥るのが怖くて使えなかったというのは、仲間がモンスターにやられるかもしれないという、ある意味、見下すような発言ではあるからな。
そう言われると、言葉がなくなる。
「はぁ…」
「どうして笑うのですか?」
「いや、それが…少し前に嘘をついた人からそう言われると、なんだかおかしくて。」
俺の言葉に、レベッカさんが当惑して手を振る。
「いえ…そうではなくて…」
「大丈夫です。考えてみれば、レベッカさんの言う通りだと思います。俺が他の人たちをあまり信じていなかったのかもしれません。」
ライフルを使ってもいい?
俺にとっては、むしろ歓迎だ。
外であれば、他の人が聞く可能性もあるが、ここは左右が完全に塞がれた閉鎖的なダンジョン。
他の人が聞いて驚くこともなく、噂が広がるはずもない。
おそらく噂を立てるとすれば、入り口にいる兵士たちだろう。
入り口で寝ているところを見ると、今も寝ているだろうし、ライフルの音がこの深い場所から入り口まで届くはずはない。
「お二人、ちょっと手伝っていただけますか?!」
カイルを治療していたアニエスさんが、俺とレベッカさんに向かって手招きする。
アニエスさんの顔と髪から汗が流れ、首筋を伝って地面に落ちる。
「レベッカさんはカイルの上半身を起こして動かないように押さえてください。優司さんは、カイルの胸に刺さった棘を抜いてください。」
アニエスさんの言葉に、レベッカさんがカイルの前に立ち、上半身を持ち上げる。
「うっ…」
小さなうめき声がカイルの口から漏れ、俺は背中の方へ歩いて行き、折れた棘の先端を掴んだ。
すると、アニエスさんが俺の手を掴んで見つめる。
「ゆっくりと抜いてください。とても、ゆっくりと。」
頷き、ごくりと唾を飲み込んだ。
アニエスさんが手を下ろし、引き続きカイルを治療した。
「今、抜いてください。」
アニエスさんの合図に合わせて、ゆっくりと手に力を入れて抜いた。
もしも俺のミスでカイルが死んでしまわないかと、心配しながら動き続けた。
そのたびに、カイルの口からは、絶えずうめき声が漏れた。
そうして、どれほど経っただろうか。
ポロッ。
腕ほどの大きさの棘が、カイルの体から落ち、俺は頭から流れる汗を袖で拭った。
「ふぅ…」
緊張したからか、冬なのに全身が熱くなる。
服のジッパーを開け、その場に座り込んだ。
インベントリからミネラルウォーターを取り出してごくごくと飲み干し、レベッカさんに渡した。
「お疲れ様でした。」
「ありがとうございます。」
レベッカさんがペットボトルをあちこちと見回し、俺のように口につけてごくごくと飲んだ。
「冷たい…?」
「冷蔵庫に入れていた水ですから。」
「冷蔵庫というと…食べ物を冷やす物ですか?」
「はい。」
俺が熱いお湯をインベントリに入れれば、時間がどれだけ経っても熱いその状態だし、俺が冷たい水を入れれば冷たい状態で保存される。
だから、こうして水と食べ物を持って歩けるのだ。
「ふぅ…」
しばらくの間、治療を続けていたアニエスさんが、袖で流れる汗を拭いながら壁にもたれかかった。
「治療は終わりました。幸い、命に別状はありません。」
「良かった…」
隣で心配そうに見つめていたターニャが、涙を拭って安堵する。
ターニャとアニエスさんにも冷たい水を渡し、俺は焚き火に戻った。
「皆さん、お腹空いたでしょう?」
俺の言葉に、三人が頷く。
「少し、小腹が空きましたね。」
「緊張が解けたからかもしれません。」
「そうだろうと思って、俺が用意したものが一つあります。」
ダンジョンというものが、簡単にクリアできるものではないだろうと思っていた。
そもそも一度も行ったことのない俺と、Eランクの冒険者たちが、Cランクの冒険者が倒すモンスターを短時間で倒せるはずがない。
だから準備したのが、これ。
「これは…何ですか?」
俺がインベントリから取り出して一つずつ渡すと、三人が俺が渡したものをあちこちと見回す。
「カップラーメンです。」
「カップラーメン…?」
同時に首をかしげる三人。
当然、知らないだろう。
この寒い日に(今は焚き火が前にあるので暖かいが)、外に出て大変な仕事をして食べるカップラーメンの味は、忘れられない。
本来なら焚き火で飯盒や鉄鍋を使ってお湯を沸かして食べる方が、少し火の香りもして美味しいとは思うが、いつ、どこでモンスターが現れるか分からないこの場所で、お湯を沸かしている場合ではない。
いっそ早く腹を満たして終わらせる方が良い。
家から持ってきたお湯が入った保温瓶を取り出し、お湯を注ぐ様子を見せ、彼らに保温瓶を渡した。
「お湯を入れて3分だけ待ってください。」
「3分…?」
おそらく、驚くだろう。
この世界に、お湯を入れて3分待って食べる食べ物は存在しないだろうから。
あっても、おそらく乾いたパンのかけらとか、あるいは硬いビーフジャーキーのようなものだけだろう。
そうして3分。
「さあ、もう食べましょう。」
俺が配ったフォークを持った三人は、俺が蓋を開けてフォークで食べる様子を見て、真似て蓋を開け、フォークでラーメンを口に入れた。
そして。
「わぁ…!」
三人の口から、同時に感嘆の声が漏れる。
「ど…どうしてこんな食べ物が…!」
「こんな味がどうして可能なの?」
「たった熱いお湯を入れただけで、3分でまともな食べ物ができた…!」
とんでもない物でも見たかのように、三人はそれぞれの疑問を解消するために、ラーメンを食べたり、カップを調べたり、ラーメンを分析し始めたりする。
その姿が、何ともおかしい。
思わず、失笑が漏れる。
ワンッ!
誰が犬でないと言おうか、ハルも一口くれと俺に近づいてくる。
申し訳ないがハル、ラーメンはナトリウムが多すぎるから、お前にはやれない。
だから、肉で満足してくれ?
インベントリからワイルドボアの肉を取り出して置くと、ハルが美味しそうに噛み砕く。
そうして俺もラーメンを食べようとした時。
「ひぃっ!」
驚いたターニャが後ろを振り返る。
「俺のは…?!」
ここに、犬の鼻がもう一つあったか。
「カイル、これ食べろ。」
仕方なくカイルに俺のカップラーメンを渡すと、カイルが目を輝かせて受け取り、慌てて食べる。
「うわ!これ何だ?!すごく美味しいじゃないか?!」
「そうだろ?」
死の危機からかろうじて生き延びた人が合っているのか、ターニャとカイルの二人は笑いながら、ラーメンについて話している。
「じゃあ俺も…」
最初から5人分を準備しておいたので、ラーメンを一つ取り出してスープを入れ、お湯を注ごうと保温瓶を手に取った。
しかし、中からお湯が出てこない。
確かに、俺が持ってきたお湯の量は、少なくともラーメン7つは入れて食べられるほどの量だった。
「(なのにお湯がないということは…)」
三人のラーメンを見つめた。
熱いお湯がカップの線ではなく、最後まで満たされている。
「はぁ…」
虚しく笑い、仕方なくラーメンを再びインベントリに入れた。
すでに開けてしまったものを捨てるわけにもいかないし。
家に帰ったら、ご飯の代わりにラーメンで食事を済ませなければならないな。
***
焚き火を踏みつけて火の粉を消し、俺は首を回してクイーンアントがいた方向を見つめた。
「カイル、本当に大丈夫か?」
「心配するな!アニエスのおかげで、体は完全に治ったから。」
心配するなと言われても、死にかけた奴だ。
治癒魔法については俺は何も知らないが、いくら治癒魔法だとしても、体を完全に元通りにすることはできないだろうと思う。
そんな魔法があれば、世の中に怪我をして死ぬ人は存在しないだろうから。
「ところで、これからどうする?」
「アントは、時間が経っていないので、警戒態勢でしょう。」
「でしたら、どうしますか?」
四人が考えに沈み、作戦を立てている。
俺も作戦を立てなければならないが、一つの作戦が頭の中でずっと渦巻いている。
「これはどうですか?」
昆虫を殺すには、様々な方法がある。
足で踏み殺したり、手やハエ叩きで叩き潰す物理的な方法があり、殺虫剤や半固形型の薬など、薬品で殺す化学的な方法がある。
この世界では、化学というものが大きく発達している場所ではないので、ジェルノータで虫除け薬を売っているのを見たことがない。
それはつまり、今まで薬品で死んだことのない虫たちには、薬品に対する耐性が存在しないだろうということ。
「本当に、これが効果があるのでしょうか?」
不信感に満ちた目で、俺が渡した殺虫剤を見つめる四人が眉をひそめる。
「それは、俺にも分かりません。」
「はい?!」
何をそんなに驚くのか分からない。
そもそも、別の世界にいた昆虫を捕まえる時に使っていたものだ。
そんなものが、この世界の昆虫に、それも一般的な昆虫ではない昆虫型のモンスターに通用するかは、俺にも分からない。
しかし、昆虫というものが大きくなったからといって、体を構成している成分まで変わるわけではないだろう。
人間も多く吸えば体に問題が生じる殺虫剤なのに、この世界のアリたちが違うわけがない。
「ひとまず、万が一に備えて、戦う準備はして入ってください。」
「はい…」
俺が先頭に立って入り、レベッカさん、カイル、ターニャは不安な目で俺を見つめながら、俺の後を追ってくる。




