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第40話

第40話


人々が、声のした方を一斉に見つめる。

声が聞こえてきた場所にいたのは、三人。


これまで様々な髪色を見てきたが、彼女ほど独特な髪色を持つ者はいなかった。

黒でも、茶色でも、黄色でもない、青色を帯びていたからだ。

髪の色とは対照的に、彼女の瞳は黄色に輝いている。

まだ成人していないのか顔には幼さが残っているが、背中には、こんなにか細い少女がどうやって扱うのだろうかと思うほど鋭い剣と、盾を背負っている。


その隣には、茶髪の男が、腹部の開いた革のベストにだぶだぶの長いズボンを履き、肩に槍を乗せて俺を見ている。

整った髪に、耳にはピアスをつけた男。

飼い慣らされていない狼を思わせるほど、彼の目は鋭く、そして険しかった。


もう一人。

杖を手にした女性だった。

二人の姉であろう、かなり成熟した女性。

被っていた白い長いフードの下から、鮮やかな黄色の髪が流れ出ている。

垂れ下がった目からは優しさが滲み出ているようだったが、吊り上がった眉からは、彼女が平凡な性格ではないことがうかがえた。

手にした杖の先には、球体に十字架が刻まれた鉄塊がついていた。

服装は、白いワンピースの上に、サーコートと似た形の十字架が描かれた布の服を羽織っている。


「クイーンアント、私たちが引き受けます!」


少女が俺の前に歩み寄る。

覚悟を決めたような目には、情熱が見えた。


「ちょ、ちょっと待て。」


カウンターにいた男が、当惑した表情で少女を見つめる。


「まだEランクになったばかりの奴らが、何をしようって言うんだ?」

「Eランクでも、クイーンアントくらいは倒せます!」

「馬鹿なことを言うな。そもそもクイーンアントどころか、ただのアントでさえ、最低でもDランク、それも実力が認められた者たちを中心に割り当てるんだ。なのにEランクのお前たちが倒すだと?」

「命知らずな連中だ!」


周りにいた人々が、彼らを嘲笑うようにクスクスと笑う。

それにもかかわらず、少女は臆することなく俺に言った。


「冒険者とは、助けを必要とする人々に手を差し伸べること!死が怖かったら、冒険者になんてなっていません!」


その言葉に、後ろにいた少年が周りを見回して笑う。


「死ぬのが怖い奴らは、今すぐ冒険者ギルドの外に出て、牛の餌やりにでも行って畑でも耕してろよ」


少年の言葉が、かなり気に障ったのだろうか。

冒険者たちが顔をしかめると、周りからいなくなった。


「誰か一人死んでみないと、精神が覚めないだろうな。」

「たかがEランクのくせに…」

「Eランクでも、お前らみたいな臆"病者とは違うからな~」


去っていく冒険者たちに向かって、からかうように舌を出してあっかんべーをする少年。

そして彼らは、少女の後ろについて俺の方へ歩いてきた。


「依頼、私たちにやらせてください!」


俺は、この世界の冒険者ランクについては知らない。

Eランクだろうが、Cランクだろうが、Bランクだろうが。

どれほどの実力を持っているかは分からず、どれほどの実力があれば次のランクに進めるのかも知らない。

しかし、周りの人々がEランクを無視するのを見ると、実力はそれほど高くない冒険者たちなのだろう。

クイーンアントがCランク以上の冒険者でさえ簡単には受けない依頼だと聞けば、Cランクより二段階も低い彼らに任せるのは、彼らを死に追いやることになるかもしれない。


俺のためではなく、この子たちを死なせないために、ここではもう少し待って、他の人を雇う方が良いのではないだろうか。


「何をそんなに考えてるんだ?俺たちがやってやるって言ってるのに。」

「そんなに心配しないでください!私たちはまだEランクですけど、実力的にはDランクの冒険者くらいにはなりますから!」


二人が急かすように俺に言う。


「どうなさいますか?」


俺はレベッカさんを見つめて尋ねた。

レベッカさんが三人をじっと見て考えに沈むと、やがて目を閉じた。


「アントは、かなり厄介なモンスターです。体格も相当なものですし、アントの顎は分厚い鉄の鎧さえもへこませるほどの力を持っています。体の甲殻も、並大抵の剣では傷一つつけられない者たちなので、Cランクの冒険者でも苦戦するモンスターです。」


レベッカさんは直接は言わなかったが、彼女が何を意味するのかは分かった。


「そうなんですね…」


レベッカさんの意見も聞いたので、決めるのは俺の番だ。

少年は否定的な言葉を言ったレベッカさんを睨みつけ、少女は不安な目で俺を見ている。


掲示板には、数多くの依頼が貼られている。

俺が断ったとしても、この子たちは他の依頼を受ければいい。

やる依頼がないわけでもないし、こんなにたくさんの依頼があるのに、等級に合わない人を連れて行くのは、いくら冒険者について知らない俺でも気が引ける。

特にこれは、命がかかった問題だ。

一度間違えれば、誰かが死ぬことになる。

こんなことで罪悪感を感じたくはない。だが。


「分かった。君たちに任せる。」


会社で人材を見る時は、能力も能力だが、その人の自信も確認する。

自信というのは、性格も性格だが、基本的に自分がやる仕事についてよく知っているからこそ出てくるものだ。

いくら能力が優れていても、自信がないというのは、自分がやる仕事に対する確信が足りないということであり、自分を疑うというのは、それだけの能力がないということでもある。


「坂本様…!」


レベッカさんが、当惑したように俺を見つめる。


「レベッカさんが何を言いたいかは分かります。ですが、今回は俺の勘を信じてみたいんです。」


十分に分かっている。

しかし、俺は俺の勘を信じる。

この子たちは、十分にやり遂げられるだろう。


レベッカさんは三人をじっと見て、深く息を吐き出した。


「でしたら、こうするのはいかがでしょう?」


レベッカさんが腰に差していた剣を、ゆっくりと抜き放つ。


「私との手合わせに勝利すれば、お受けしましょう。」


三人がレベッカさんを見つめ、緊張した面持ちでごくりと唾を飲み込んだ。


「いいだろう。あんた、気に入らなかったんだ。」


少年が槍を抜き放ち、レベッカさんに狙いを定めた。


「俺に負けて、泣くんじゃないぞ。」


隣にいた少女も、背負っていた剣と盾を抜き、手に握る。


「大丈夫ですか?」

「私がジェルノータ城ではまだ兵士扱いではありますが、厳然と騎士の試練を乗り越えて入った者です。」


騎士の試練とは、どんな試練なのだろうか。

レベッカさんの言葉が終わるや否や、周りがざわめくのを見ると、おそらくかなり大変な修練のようだ。


「待て、待て!」


今にも戦いが始まりそうな様子に、カウンターにいた男が歩いて出てくる。


「今、この中で戦いを始めようって言うのか?」

「私たちが依頼を受けるにはそうしなければならないと言うのだから、当然、やらなければならない。」


カウンターの男はふうっとため息をついて首を振り、地下へ続く扉を指差した。


「どうしても戦うなら、下の地下訓練場へ行って戦え。」


***


四方の壁が鉄板でできている、巨大な訓練場。

その中央にある決闘場の上で、一人と三人が互いを見つめている。


「レベッカさんの戦いは、初めて見るな。」


エレシアさんがゴブリンを倒す様子は、以前に見たことがあるが、レベッカさんの戦いは、今回が初めてだった。

どれほどの実力を備えているのだろうか。

Eランクではないだろうし、Dランク?Cランク?

まさかBランクではないだろう。


何にせよ、領主様がサーベルタイガーを退治した俺を監視するために送った人物なのだから、実力だけは折り紙付きだろう。


この戦いが興味深く感じられるのは、俺だけではないようだった。

1階にいた他の冒険者たちも、降りてきて見物している。


「面白い試合になりそうだな。」


壁際に設置された丸太のベンチに座って中央を見ていると、誰かが俺の隣に歩いてきて座った。


長く伸ばした髪を一つに結んだポニーテール。

しわの寄った目の上に金縁のモノクル、口の周りには洒落た紳士のように髭を生やした、端正な顔立ちの中年男性。

タキシードのズボンにワイシャツ、その上に茶色の薄いベストを着た彼は、俺の隣に座って腕を組み、髭を撫でながら見つめている。


「そうですね。」


Eランク冒険者とはいえ、レベッカさんと1対3の状況。

今回の戦いは、レベッカさんでも難しいのではないだろうか。


「兵士は当然、戦いの途中で倒れれば終わり。冒険者側は戦闘職の二人が倒れれば負けとします。反対する方はいらっしゃいますか?」


カウンターにいた男は、反対する人がいないのを確認すると、手を高く上げた。


「では、始めます。」


そう言って、素早く手を上げた。


「始め。」


開始と同時に先に動いたのは、少年の方だった。


「さっさと終わらせようぜ!」


少年はレベッカさんとの距離を素早く詰め、槍を突き出した。

槍はヒュッと風を切り、素早くレベッカさんの腹部へと向かうが、レベッカさんは腰をひねって槍をかわすと同時に、少年の懐へ潜り込み、腹部に拳を叩き込んだ。


短い息と共に、少年が遠くへ吹き飛ばされる。

そして、吹き飛ばされる少年の横を通り過ぎてきた少女は、盾をレベッカさんの顔面に突きつけ、剣を振るった。


ヒュッ。


風を切る音が聞こえ、レベッカさんの胸をかすめ、レベッカさんは足で少女の盾を蹴り飛ばして押し出す。


‘すごいな…’


世の中で一番面白い見物は、喧嘩見物だと言っただろうか。

確かに、見る価値がある。

そして、見ながら一つ思ったこと。


どう訓練すれば、あんな境地にまで至れるのだろうか。


俺がいくら訓練しても、レベッカさんはおろか、あの三人の境地にさえ至れないような気がする。


「ハァッ!」


力強い気合と共に、三人が互いの武器をぶつけ合う。

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