第28話
第28話
ゆっくりと落ちていった紅葉は、いつの間にか全て散り、木々は冬の訪れを告げるかのように、枯れた枝だけが残っている。
「はぁ…」
集めた落ち葉が燃える音が、時折聞こえる。
秋は読書の季節というが。
冬へと移り変わる秋、俺は読書に夢中になっている。
今、俺が読んでいる本は歴史書だ。
過去から今まで、この世界の歴史がどのように進んできたのかについて、詳細に書かれている本。
『プラースク大陸の歴史』
コンピューターによる印刷がないこの世界らしく、本は全て筆写本。
文字を書いている途中で滲んだ痕跡や、インクが数滴、羽ペンから落ちた痕跡が残っている。
しかし、不思議なのは、消した痕跡がないこと。
おそらく、別の場所にまず本文の内容を書き写しておき、それを見ながら新しい本に書き写しているのだろう。
筆写本を見ていると、感嘆することがある。
本の内容ではなく、筆写した人に対する感嘆だ。
コンピューターで書いても一ヶ月以上かかりそうな分厚い本なのに、これをひたすら手で書き写したのだ。
相当な時間と労力をかけなければ不可能なことだろうに、その根性に敬意を表さずにはいられない。
「ふむ…」
プラースク大陸の歴史。
初めて魔法を見た時にも感じたが、この世界は俺がいた世界とは根本的に違う。
国や文化のような違いも違いだが、根本的に、この世界が回る仕組み自体が、俺が暮らしていた地球とは全く違う方向へ進んでいる。
パンゲア。
一つの大陸だったものが、いくつかの破片に分かれた地球とは違い、この世界の大陸は、二つの大陸と破片のように見えるいくつかの島に分かれていた。
そして、その大陸ごとに中央に世界樹と呼ばれる木が配置されている。
世界樹は人々が使うマナを、終わりなく絶えず撒き散らしており、人々はその世界樹から出たマナを体内に蓄積しながら魔法を使っているようだ。
もちろん、あくまでこれは仮説に過ぎない。
世界樹は濃いマナの濃度のせいで行くことができず、きちんと研究できていないと書かれている。
そして、二つの世界樹の近くで最も強いマナの濃度を蓄積した種族たち。
彼らがそれぞれエルフと魔族で、どちらもマナによってかなり長寿だという。
「エルフと魔族か…」
どんな姿をしているのだろうか。
魔族なら…やはり怪物のように見える種族だろうし、エルフも俺が知っている、あの美貌の人々ではないだろうか。
どちらにせよ、一度は会ってみたい人々だ。
この世界にいれば、いつかは会うことになるのではないだろうか。
「坂本様。」
背後から呼ぶ声に、振り返って見つめた。
顔全体を覆った兜に、寒さを防ぐために着た分厚いギャンベゾン。
そして、腰には剣を差している人。
近くに寄って兜を脱ぐと、彼女の顔が現れる。
時間が経つにつれて、初めて会った時とは違い、短く刈っていた髪がかなり伸びて、うなじを覆っている。
「レベッカさん。」
レベッカが俺を見つめて敬礼する。
「お仕事は終わりましたか?」
「はい。たった今、終わりました。」
目に濃い隈がある。
おそらく、昨夜不寝番をしたせいだろう。
領主様も本当に無神経だ。
どうして監視役である彼女にまで、ずっと仕事を割り振るのだろうか。
過去の俺の姿を見ているようで、不憫に感じられる。
「では、私は少し休んでまいります…」
彼女が向かうのは、俺が住む小屋ではなく、俺の小屋からさほど離れていない、もう一つの小屋。
まさに俺がレベッカのために(とは言うが俺のために)作った小屋だ。
俺とずっと同じ家で寝ようとしていたレベッカさんを、どこかに行く時には必ず報告し、彼女を同行させるという条件で、かろうじて別の小屋に出すことができた。
その後、しばらくは毎晩遅くまで俺の小屋の外で待機して見守っているようだったが、俺が街に行く時や、周りの森を歩き回るたびに報告し、夜には動かないようにしていると、数日前からは夜に見守るのをやめたようで、姿を見せなくなった。
「ちょっと待ってください。」
俺が呼ぶ声に、レベッカさんが疲労困憊した顔で俺を振り返った。
「何かご用ですか…?」
俺は立ち上がり、落ち葉を燃やす場所へと歩いて行った。
落ち葉が散る季節、秋。
この時期だけ、少し楽しめる食べ物がある。
落ち葉を燃やす場所の周りに置いていた長い鉄のトングで、落ち葉をあちこちと突いた。
そして、中に入っていたものをいくつか取り出した。
俺が取り出したのは、湯気が立つさつまいもとジャガイモ。
皮を剥いて中を見ると、黄金色の鮮やかな黄色に、よく焼けている。
「夜遅くまでお仕事で、お腹が空いたでしょう。これ、一つどうぞ。」
「あ、ありがとう…ございます…」
レベッカさんがさつまいもを受け取り、あちこちと見回す。
この世界は、地球にある野菜や果物は一つもないようなので、かなり珍しいのだろう。
もちろん、似たような見た目の植物はあるようだが、全く同じではないから。
パクッという音と共に、レベッカさんが一口かじる。
すると、ゆっくりと驚いた表情に変わり、熱いにもかかわらず口にどんどん入れていく。
「美味しいですか?」
「はい!これは何ですか?」
「さつまいもです。」
「さつまいも…?」
やはり初めて聞くのか、首をかしげる。
「いくつか、もっと持って行きますか?」
「いただけるなら、いただきます!」
俺が焼いたさつまいもをいくつか渡すと、レベッカさんは鼻歌を口ずさみながら、腕に温かいさつまいもを抱えて小屋の中に入っていく。
「あ、あちっ…」
さつまいもを手に取り、一つ剥いて口に入れると、やはり甘い。
厚さも、大きさも、形も、一つとして状態の良いものばかり。
コンビ∞は最上級品しか扱っていないのか、買うたびに最高の商品が出てくる。
ワン、ワンー!
狩りに出ていたハルの吠える声が聞こえる。
「今回もか…」
ハルが口にくわえてきたのは、イノシシではなくゴブリン。
どうやら、周りのイノシシは完全に絶滅したのか、イノシシは連れてこず、ゴブリンだけを、一、二匹ずつ狩って連れてくる。
もちろん、ゴブリンの死体をコンビ∞で売れば、少しはお金になるが、ゴブリンを売ったお金に比べてハルの餌代の方が高くつくので、今の収入はマイナスだ。
イノシシの時が本当に良かった。
皮と牙で追加の収入も得られたし、肉は全てハルにあげれば良かったから。
「考えても仕方ない…俺が招いたことだし…」
ハルがゴブリンの血がついた口で、俺の隣にやって来て顔を擦り付ける。
「お前も、さつまいも食べるか?」
ワンッー!
俺が言うと、ハルがハァハァと息をしながら尻尾をふりふりと振る。
さつまいもを一つ手に取り、ハルに渡すと、ハルが一口で入れてバリバリと噛む。
鼻をクンクンと鳴らし、もっとないか探しているようだが、過ぎたるは及ばざるが如し、これ以上与えるとハルの健康に問題が生じるかもしれない。
絶対に餌を食べなくなりそうだから、あげないわけではない。
「はぁ…」
さつまいもを見ていると、さらに思い出すものがある。
まさに漬物。
一人暮らしをしていた時、時々さつまいもを食べるたびに、その上に漬物を一つ乗せて食べていた。
さつまいもの甘さと漬物のしょっぱくてさっぱりした味が調和して、実に魅力的なハーモニーを奏でていた。
特にキャベツの漬物は、さつまいもの甘さと非常によく合った。
「キャベツ…いつ育つのかな…」
畑にキャベツを植えてはいるが、寒いからか、それとも土が合わないのか、キャベツがなかなか育たない。
ひとまずは肥料を撒いて土壌に栄養を与えてはいるが、それでも、きちんと育っているのかどうか分かりにくいほど、少しずつ成長している。
「こんなことなら、冷蔵庫は買っておかなかったのにな…」
キャベツがかなり育ったと思った時、すぐに収穫して作れるだろうと思って、大きな冷蔵庫を一つ買っておいた。
こんなに育たないなら、あらかじめ買っておかなければよかったのに…
「また売るか…」
こういうのを、確か創造損失とか言っただろうか。
本当に俺も気が早い。
「…」
考えてみれば、俺は農業についての知識を特に持っていない。
どこででもよく育つと言える救荒作物であるジャガイモを栽培して、簡単だろうと思って勉強せずにキャベツの栽培を始めたのだから、ある意味、当然の結果と言えるだろう。
「やはり…きちんと栽培するには、知識が必要だろうな…」
知識を得るには、当然図書館…と言えるが、こんな農業を図書館にある文字一つだけで習得できたなら、農業に失敗する人は世の中に存在しないだろう。
師匠。
師匠を探さなければならない。
間違いなく、この辺りに作物を栽培する人々がいるだろう。
彼らの元へ行って学べばいいのではないだろうか。
「簡単に教えてくれるかな…」
ギブアンドテイクというが。
彼らに学ぶには、何かあげるものが必要なはずだ。
「インスタントコーヒーは…少し違うかな?」
農業をする人に甘いインスタントコーヒーをあげると、口の中に残る甘い後味のせいで、水をもっと飲まなければならず、農業の邪魔になる可能性がある。
せめて仕事で流した水分を補給できるものをあげないと…
「ふむ…」
ひとまずは、行きながら一度考えてみるか。
そう思いながら、俺はレベッカさんがいる小屋を眺めた。
今頃、寝ているだろうに、俺が話しかけて眠い人を起こすのも少し気が引けるし。
少しだけ静かに行ってきたら、大丈夫ではないだろうか。
「謝ればいいだろう…」
レベッカが根に持つようなタイプには見えないし。
おそらく、大きな問題にはならないだろう。
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