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第24話

第24話


街の中央広場。

そこから少し坂を上ると、巨大な建築物が一つ見える。

アーチ型の入り口、数多くの兵士が歩き回り、隙間一つなく守っている場所。

中に入るや否や目に入る訓練場では、騎士が一人、大きな声を上げて兵士たちの訓練をさせている。


目の前に見える開かれた扉からは、侍女たちが掃除をし、騎士たちが歩きながら談笑しており、彼らはエレシアさんの隣を歩く俺を見て、眉をひそめた。


「犯罪者か?」


そう見えるのも、理解できないわけではない。

俺の周りを囲む兵士たちと騎士一人が、俺を引率しているのだから、俺だったとしても犯罪者だと思うだろう。


いくつかの扉を通り過ぎ、城の内部に入って対面したアーチ型の両開きの扉。

エレシアさんが扉を叩く。


「領主様、入ってもよろしいでしょうか?」

「入れ。」


中から少し軽めの声が聞こえ、エレシアさんが取っ手を握り、力を込めて扉を開ける。

最初に目に入ったのは机だった。

丸く巻いて縛られた羊皮紙が積まれており、その隣には羽ペンと共にインクが入ったガラス瓶が置かれている。

かなり寒くなった気候のため、暖炉は消えずに勢いよく燃えており、暖炉の上には鉄の薬缶が湯気を立てて置かれていた。

壁面には各種の経済学や兵法と思われる書籍が本棚にぎっしりと並べられており、侍女たちがその上に積もった埃をはたきで掃除している様子が目に入った。


「ようこそ。」


入るように言った時とは違う、かなり重厚な声が聞こえる。

長い茶色の髪を後ろで結び、髭がまばらに生えた男性。

中年の歳月がうかがえる濃い皺が、目と口の周りにあった。

最も印象的だったのは頬骨で、笑っていないのに、頬骨が他の人々よりも高く盛り上がっていた。

そのせいかは分からないが、彼が表情を作らずにじっとしているのに、両方の口角が上がっていて、微笑んでいるように見えた。


「こんにちは。」


頭を下げて挨拶すると、領主が少し驚いた目で俺を見つめる。


「さ…坂本様!領主様へのご挨拶は、そのようにするのではなく…」

「構わぬ。平民が貴族の礼法を知るはずもない。」


言葉そのものには見下すような内容が含まれていたが、彼の豪快な笑いを見ると、見下しているというよりは、当然のことと思って口をついて出た言葉のようだった。


「申し訳ありません。私がいた場所での挨拶は、階級に関係なく、こうするものでしたから。」

「そうか?どこで暮らしてきたのだ?」

「それは…」


言うべきか言うまいか考えていた俺は、恐る恐る口を開いた。


「ここから、かなり遠く離れた国です。」


目の前にいる領主は、今会ったばかりの人間だ。

第一印象はかなり良い性格の男のように見えるが、実際にどんな性格なのかは分からない。

まずはもう少し様子を見て、明かすかどうか判断するのが正しい選択だろう。


「…」


俺をじっと見つめていた領主は、フッと笑って頷いた。


「冒険者の中には、出身を秘密にする者たちもいるからな。まあ、言わないのであれば、これ以上は聞かぬ。」

「ありがとうございます。」

「座れ。」


中央にあるソファへと歩いて行った領主が、侍女に指をくいっと動かして、俺に言った。

領主様は、俺についてソファへと歩いてきていたエレシアさんを見て言った。


「エレシア。」

「はい!」

「お前はもう下がって良い。」


その言葉にエレシアさんは一瞬立ち止まったが、頭を下げて挨拶すると、扉の外へと出て行った。

侍女がお茶を淹れて二人の前に置くと、部屋にいた残りの侍女たちも外に下がった。彼はティーカップを手に取り、お茶を一口飲む。


部屋に残されたのは、俺と領主様だけ。

まるで社長と二人きりで面談しているかのように、かなり居心地が悪い。

いや、領主なら、社長で合っているのか?


「お前が、死にかけた我が兵士たちを救ってくれたそうだな?」

「それが…はい、結果的にそうなりました。」

「偶然通りかかったのか?」


俺を見つめる眼差しと言葉遣いからして、俺を試しているようだ。

俺があのゴブリンと関係があるのか、ないのかを。


「偶然…というよりは、昨日宿屋で話を聞いて、急いで準備して行きました。」

「行っただと?お前がゴブリン討伐に?」


領主様はお茶を一口飲むと、俺を見つめた。

彼の顔に興味が浮かぶ。


「理由は何だ?あのゴブリンは、お前が特に気にするような案件ではないはずだが。」

「理由を説明する前に…まず、明かさなければならない事実があります。」


この事実を明かさなければ、これから先の会話を自然に進めることはできない。


「どこ、一度話してみろ。」

「最近、北の森で赤い月が昇るという噂はご存知ですか?」

「赤い月が昇るというのは、噂ではなく事実ではないか?あの赤い月は、城で暮らす私も見た。」


北の森からかなり離れた場所なのに、どうやら俺が撃った照明弾は、かなり遠くまで届いたようだ。


「これまで昇った二度の赤い月は、全て私がやったことです。」


俺の言葉に、領主様は目を丸くして俺を見つめる。

かなり衝撃的な言葉だったのだろうか。

しばらく何も言わずに顎を撫でながら考えていたが、ゆっくりと口を開いた。


「では…お前は魔族か?」

「魔族だとお思いになるのも理解します。ですが、私は魔族ではありません。」

「魔族でないのなら…あの赤い月を、どうやって作ったのだ?」

「それは…」


火器というものは、俺の世界、地球の人間たちが数多くの研究で時間を費やして作り上げた、完璧な科学の産物だ。

まだ経験したことはないが、この世界では魔法が存在し、技術よりも魔法が発展した世界。

そんな世界に科学の産物を見せても、本当に大丈夫なのだろうか。

それも、一般人ではなく、権力を握る領主という人間に。


「ふぅ…」


しかし、すでに口に出してしまった以上、後戻りはできない。

このまま話を終えて方法を教えなければ、むしろ領主は俺を魔族と決めつけて捕まえたり、手配を出す可能性もある。


「これです。」


インベントリからフレアガンと照明弾を一つ取り出した。

それを見た領主が、驚いた目で俺を見つめる。


「虚空から物が現れた…?」


初めて見るのだろうか。

確かに、これまでこの世界で過ごしてきて、亜空間バッグというものを使う人はルアナさんしか見たことがない。


「これは亜空間バッグといって…目に見えないカバン…のようなものです。」

「亜空間バッグ…」


領主様が頷きながら納得したようでもあり、しきりに首をかしげてもいる。


「まあ、亜空間バッグなら亜空間バッグなのだろう。それで、お前が亜空間バッグから取り出した、それは何だ?」

「これが、赤い月を作り出した道具です。」

「道具…?」


領主様がフレアガンを手に取り、恐る恐る触ってみる。

新しいものに対する探求心、おもちゃを見つめる子供のような好奇心が表情に現れているが、その一方では、触って問題が起きないかという心配も垣間見える。


「これが本当に、あの赤い月を作り出した道具なのか?」


このまま見ているだけでは信じないだろう。

それなら、一度撃たせてみるのも一つの方法だ。


「一度、撃ってみますか?」

「私が?私も撃てるというのか?」

「はい。一度、こちらにいただけますか?」

「ああ、そうか…」


俺はフレアガンを受け取り、慣れた手つきで照明弾を装填した。そして、領主様の手に握らせた。


「部屋の中で撃つのはあれですし、ひとまず…」


周りを見渡すと、部屋の中にバルコニーがある。


「あのバルコニーで撃ってみるのが良さそうですね。」


領主様と一緒にバルコニーへ歩いて行った。

すっかり緊張した領主様は、バルコニーに立って不安な表情で俺を見つめる。


「銃口を空に向けて、この引き金を引けばいいです。」

「これを撃てば…あの赤い月だけが出るのか?」

「これは基本的に周りを明るくする用途で使う照明弾です。モンスターを呼び出すとか、災いが降りかかるといったことはありません。」


領主様はフレアガンをじっと見つめ、ゆっくりと空へ手を上げた。

そして、引き金を引いた。


タン!


突然の音に驚いた領主様が、空を見上げる。


ピシューーーンー


煙を噴きながら上がっていった照明弾。

ほどなくして赤い光を放ち始め、空高くで光を放ちながらゆっくりと落ちてくる。


「本当に…光が…」

「はい。二日間現れた赤い月の正体が、これです。」


その言葉に、領主様は明るく笑う。


「これは一体どこで手に入れたのだ?!もしや、もっとあるのか?価格は?もし購入した場所を知っているなら、私が全て…」


ガーンッ!


「領主様!」


当惑した騎士たちが、領主の部屋の扉を壊すように開けて、中へ駆け込んでくる。

突然の登場に当惑した俺は、扉の方を向いた。

そして、入ってきた騎士の一人と目が合うと、騎士たちが俺に向かって駆け寄ってきて、俺を…制圧する?


「うわっ!」


突然、これは何の災難だろうか。

俺が何をしたというんだ?


「ご無事ですか、領主様!」

「この野郎…よくも我らが領主様に…」

「今、何をしているのだ?!」


領主様が騎士たちを見つめて叫ぶ。

瞬間的に固まった雰囲気に当惑した騎士たちが、素早くその場から立ち上がって片膝をつき、頭を垂れる。


「も…申し訳ありません、私たちは突然大きな音と共に領主様の部屋から何か昇るのが見えたので、もしやご変事でもあったのかと…」

「これが今、ご変事に見えるのか?」

「いいえ!」


その言葉に、騎士たちが大きな声で応える。


「大丈夫か?」


領主様が差し出した手を握って、立ち上がった。

すると、騎士たちが恐る恐る俺の顔を見上げる。

おそらく、この騎士たちは俺が去った後、罰を受けることになるだろう。


「はい、大丈夫です。」


腕が少し痛むだけで、大きな怪我はない。


「良かった。お前たち、今すぐ外に出ろ。」

「は…しかし…」

「大きな音と外の光は、私がやったことだ。心配せずに外に出ろと言った。それとも…」


領主様の目が鋭く光る。


「私の言葉に逆らうとでもいうのか?」


その言葉に当惑した騎士たちが、立ち上がる。


「いいえ。では、私たちは失礼します!」


そう言うと、すぐに外に出て、恐る恐る扉を閉める。

領主様は深いため息をつくと、ソファへと歩いて行って座った。


「申し訳ない。私の騎士たちがしたことは謝罪しよう。」

「いえ。むしろ羨ましいですよ。忠実な部下たちがいて。」


忠実な部下がいればいい。

俺も望んだことはある。

俺が過剰に積もった業務を分担してくれる部下職員を。

もちろん、会社では金がないという言葉ばかりで、俺の下で働く人間を雇ってはくれなかった。

せめて部下職員一人でも雇ってくれていたら、俺が辞表を書いて辞めることはなかっただろうに。


「さて、では…先ほどの話を続けようか?」


先ほどの話といえば、確か…


「このフレアガン?という道具。私に売ってはくれぬか?」

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