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第23話

第23話


近づけば近づくほど、耳元に音が聞こえてくる。


鉄と鉄がぶつかる音と。

誰かの悲鳴。

途中で命令するような声が響き渡るが、その合間合間に人間のものではない声が混じって聞こえる。

獣というにはあまりにも太く、人間というには人間に近い声。


「あれは…何だ…?」


マップに赤い点が素早く動いている。

その赤い点がある場所を見ると、数多くの生命体が鎧を着た人々を攻撃している。

最初は小人だと思った。

何しろ人間のように二本足で歩き、手には鉄でできた剣や棍棒のようなものを握り、体に鎧まで着ていたからだ。

しかし、彼らの手と鎧と兜の間からかすかに見えるうなじを見て、分かってしまった。

彼らが人間ではないことを。

緑色の肌、長い耳と白目のない、ひたすら黄色い爬虫類のような瞳を持つ生命体。


「あれが…ゴブリン…?」


初めて見るゴブリンは、俺が思っていたものとは全く違う姿だ。

俺が知るゴブリンは、ゲームや小説の中で見てきたゴブリンだけ。

それらの中のゴブリンは、裸の上に急所部分に古い革や布を巻いた者たちだった。

しかし、今目の前にいる者たちは、まるで高い知能を持っているかのように、武器と防具を揃えている。


「ぐわぁぁっ!」


人の悲鳴が耳を打ち、我に返る。

今はゴブリンの姿を鑑賞している場合ではない。

ライフルを手に握り、後ろで弓を構えるゴブリンたちに狙いを定めた。


「すぅ…」


息を吸い込み、吐き出すのを止めて、ゆっくりと引き金を引いた。


タタタタタン!


四方に軽快な音が響き渡り、ゴブリンたちの頭と胸、足と腕を貫く。


キエエエエッー!


生物が出したとは思えないほど、ぞっとするような声が森に響き渡る。

そのまま銃口を回し、数匹のゴブリンに弾を撃ち込んだ。

重い荷物のように倒れる者たち。

やがて、奴らの視線が俺に集中する。


キィッ…


顔をしかめ、剣を手に握ったまま、奴らが悲鳴に近い雄叫びを上げて俺に向かって駆けてくる。


タタタタタンー

チッ、チッー


「くそっ!」


弾倉を抜き、雑嚢に入れておいた弾倉を取り出してライフルに挿入し、ボルトを後退させて装填した。

しかし、焦ってやったせいで頻繁にミスをし、装填に時間がかかりすぎた。その間に、俺の前にゴブリンが一匹、剣を手に握ったまま高く飛び上がって振り下ろしてくる。


ガァンー!


そんなゴブリンに、ハルが飛びかかって口にくわえる。

そして、抜け出そうともがく奴の肋骨をバリバリと噛み砕いてしまう。

口元にゴブリンの血と思われる赤い液体が流れ出て、ハルは俺の隣にやって来て、俺に飛びかかろうとするゴブリンに向かって眉をひそめ、歯を剥き出しにした。


キエッー!


後ろから俺が現れるとは思わなかったのか、奴らは後ずさりしながら逃げる隙をうかがっているが、逃がすつもりはなかった。

目を細め、一番前にいるゴブリンを狙い、単発に切り替えて引き金を引いた。


タンー!


たった一発の銃声が、森に響き渡る。

それがゴブリンの頭に命中し、ぴくりと倒れたゴブリンを見守った他の奴らが、悲鳴を上げるように四方八方に散っていく。


「ハル!」


俺がハルを呼ぶや否や、ハルが左へ駆けて行き、逃げるゴブリンを噛み殺す。

その間に、俺は前に走り、片膝をついたまま、逃げる奴らに狙いを定めた。

一発、一発撃つたびに、頭と胸、腹に銃弾を受けた奴らが次々と倒れ、人々を攻撃していた奴らも当惑した表情で後ろを振り返り、手に持った武器を落としたまま逃げ始める。


‘全部仕留めるのは…無理だろうな?’


人間である以上、体は一つなので、あんな風に散って逃げる奴らを全て掃討するのは無理がある。

再び安全装置に戻し、俺は銃口を下ろした。


「ハル、こっちへ来い。」


尻尾を振りながら駆け寄ってきたハル。

口の周りがゴブリンの血で赤く染まっている。


「これ、色が落ちるかな…」


ハルもずっと街の中に連れて行かなければならないのに、落ちなければ困る。

そう思いながら正面を見た、その瞬間。


「はぁぁぁっ!」


驚いて後ろに下がった俺の首筋を、鋭い剣が素早く通り過ぎていく。

風を切る音と共に、気合の入った女性の声が響き渡り、やがて上に上がった剣が、俺に向かって素早く降りてくる。


ガーンッー!


かろうじてライフルを上げて剣を防いだ。

前を見ると、見慣れた顔が目に入る。


「くぅぅっ…!」


完全に興奮した瞳で俺を睨みつけているのは、エレシアさん。

彼女の目には、俺に対する敵意が満ちあふれている。


‘まさか俺を敵だと勘違いしているのか?’


おそらく、そうだろう。

今の状況で俺だと気づかないのは当然だ。

顔に偽装クリームを塗り、軍服と防弾ヘルメットに、全身にギリースーツまで着ているのだから。

この状態で俺だと気づくのは、ほとんど不可能に近い。


「エレシ…」


ガァンッ!


自分の主人が危険にさらされたと思ったのか、ハルがエレシアさんに向かって飛びかかる。

おかげでエレシアさんの攻撃からは逃れられたが、このままではハルがエレシアさんを噛み殺すか、エレシアさんが剣でハルを突き殺してしまうかもしれない。


「ハル、こっちへ来い!」


かなり大きな声で呼んだのに、ハルは俺の言うことを聞かない。

完全に興奮した奴にとって、今重要なのは目の前の敵だけだ。


「くっ…」


エレシアさんを押し倒したまま、わずかに見えるうなじに向かってしきりに歯を突き立てているハルに向かって、俺は体当たりでハルを突き飛ばした。


キャンッー!


驚いたハルが後ろに倒れ、目を丸くして俺を見つめる。


「ハル、いい子だ…」


よろめきながら立ち上がったハル。

興奮によって収縮した瞳が、俺の行動を見てゆっくりと解け始める。

やがて、ピンと立っていた尻尾がゆらゆらと揺れ始め、完全に弛緩した瞳に変わってからは、ゆっくりと俺に近づいてくる。


「はぁ…」


恐る恐る手を差し出すと、舌で俺の手のひらを舐める。


「坂本…さん?」


よろめきながら立ち上がったエレシアさんが、眉をひそめて俺を見つめる。

俺の姿を見ても、まだ疑っているようだ。

今の俺の姿は、この世界では絶対に見られない姿。

警戒するのも当然だ。


グルルン…


まずは俺を最も怪しく見せているものから脱ぐのが良さそうだ。

俺が着ているものの中で最も怪しいと感じられるであろうものは、当然ギリースーツ。

顔まで見せなければならないので、防弾ヘルメットまで脱いでインベントリに入れた。


「大丈夫ですか、エレシアさん?」


防弾ヘルメットまで脱いで、ようやくエレシアさんが剣を下ろす。


「どうして坂本さんがここに…そしてその姿は…」

「おい、そこのお前!」


エレシアさんが話している途中、彼女の後ろから一人の男が歩いてくる。

長い黄色の髪、どんな女性でも惚れてしまいそうな整った顔の騎士。

祭りの時に一度見たことのある顔だ。


‘確か…ヘル…なんとかだったような…’


名前があまりにも長いため、彼の名前がきちんと思い出せない。

それはさておき…


「貴様がこのゴブリンたちを率いる魔族か?」


彼の様子が何だかおかしい。

先ほどの戦闘で、周りにいる兵士たちとエレシアさんの顔と髪は汗と血で汚れているのに、彼は先ほどまで戦闘をしていたとは思えないほど、髪に汗一滴、顔や体に血一滴ついておらず、きれいだ。


「違います、ヘルブライアン様。この方は…」

「このヘルブライアン、魔族である貴様を生け捕りにして、私を拾ってくださった領主様のご恩に報いよう!」


その言葉を最後に、剣を握りしめたまま雄叫びを上げて俺に向かって駆けてくる。


「ハル、体当たり。」


ワンッ!


俺の命令に一度吠え、ハルがそのまま駆け寄って体をぶつけた。


ガシャッ。


悲鳴一つ上げることなく、分厚い木にぶつかった奴が、木を折りながらそのまま地面に落ちて動かない。

まさか死んだのか?

いや…死んではいないだろう…


***


プハァァァー


浴室で水を汲んで顔を洗った。

久しぶりだったので、気合を入れて塗りすぎたせいか、あまりにも濃く塗ってしまって石鹸で洗ってもなかなか落ちない。

結局、首の部分を完全に拭き取れずに外に出ると、まだ体が乾いていないハルが体を揺すり、しきりに毛を振り払っている。


「はぁ…」


ハル奴の口元の毛が、まだ黒ずんでいる。

今では浴室に入るのも大変な大きさなので、水を汲んできて犬専用のシャンプーで血に染まった口の周りだけを集中的に洗ったのに、色が完全に落ちない。


毛を一度刈ろうかとも考えたが、ハルは小型犬や中型犬ではなく大型犬。

その大型犬の中でも比較できないほどの超大型犬だ。

今は毛があってかなり格好いいが、毛を刈ったハルを想像すると、羽の抜けた鶏しか思い浮かばない。


とりあえず髪をタオルで拭き、服を着替えて外に出た。

マップを開くと、一番前に緑の点がある黄色い点の群れが、小屋に向かって近づいてくる。


茂みをかき分けて小屋に近づいてくる人々は、他ならぬ街の兵士たち。

そして、その兵士たちの先頭にいるのは、当然。


「準備はできましたか?」


エレシアさん。


「ハル、ここで少し待ってろ。」


ハルが首をかしげ、俺の顔を舐める。

そんなハルを後にして、俺はエレシアさんの元へ歩いて行った。


「はい、行きましょう。」


エレシアさんが俺をなぜ迎えに来たのか。

まさに領主様の元へ連れて行くためだ。

領主様が俺を呼ぶ理由は予想がつく。

おそらく、俺が誰なのか、そして俺が使った武器の正体が何なのかを尋ねるためだろう。


‘あまり警戒されなければいいのだが…’


俺が持っている品物は、この世界では絶対に見られない品物ばかりだ。

領主という立場で、こんな俺を警戒しない方がおかしい。

警戒はしても、あまり攻撃的に出てこなければいいのだが。

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