第22話
第22話
「ん…?」
窓の外から鳥のさえずりが聞こえる。
日差しが窓から差し込み、小屋の中を照らす。俺はあくびをしながら体を起こした。
「うっかり寝てしまったな…」
昨夜、家に帰るや否や、コンビ∞をくまなく探して武器を揃えた。
そうして購入したものが、今、俺の目の前に広げられている。
武器としてよく使われる野球バットから始まり、使い物にならなくなった時のための鉄パイプや消防斧、そして以前購入しておいた山刀まで。
もちろん、近接武器だけを購入したわけではない。
今も拳銃を持っているが、予備として3丁ほど買っておいたし、VIPレベル1を突破してから買えるようになったライフル数丁と弾薬まで買っておいた。
そして最後に、俺の切り札まで。
これなら、どんなに多くのゴブリンが現れても大丈夫なはずだ。
問題なのは、あまりにも久しぶりに使うので、うまく扱えるかどうか心配なことだ。
「これくらいあれば、不足はないだろう…」
広げていた全ての武器をインベントリにしまい、立ち上がって伸びをした。
「さて、出発するか…」
今回新しく手に入れた、太ももに装着するタイプのホルスターに拳銃を一丁差し込み、俺は準備した服装を眺めてフフッと笑った。
「なんだか、楽しみだな。」
俺が一度動くたびに、カサカサという音が響き渡る。
ワン、ワン!
「シーッ!」
ハルが俺についてきて動くのが見えるたびに吠えるので、人差し指を口に当てて静かにしろと合図すると、理解したのか静かになり、頭を下げてつぶらな瞳で俺を見つめている。
「ジェルノータの北の森」
ジェルノータの北の森で、茂みをかき分けながら歩き回る男。
他ならぬ俺、坂本優司。
おそらく道すがら、この世界の人々が俺を見たら、悲鳴を上げて逃げるだろう。
なぜなら、今俺が着ている服は軍服で、その上からギリースーツまで着込んでいるからだ。
さらに、手と顔まで偽装した状態。
まさに歩く茂みと何ら変わらない姿だ。
「うわ、暑い。」
23キロほどの重さを背負った上に、涼しくなってきた天気にもかかわらず頭に防弾ヘルメットまで被っているので、汗がじっとりと滲み出る。
しかし、ここで袖で拭うと、顔に塗った偽装クリームが落ちてしまうだろう。
絶対に拭くわけにはいかない。
「はぁ…はぁ…」
俺がふざけてこんな格好をしているわけではない。
日本の国土の大部分は山地なので、軍服の迷彩色も山地に合わせられている。
この軍服姿で偽装クリームまで塗れば、山で迷彩服を着ている人間を見つけるのは難しい。
そこにギリースーツまで着ていれば、一日中歩き回っても見つけることは不可能だ。
これは人間に対してだけ通用する話ではないだろう。
ゴブリンを見たことはないが、ゴブリンが狼や犬のような嗅覚を持っているとは思えない。
視覚や聴覚が優れているくらいだろうというのが俺の考えだ。
聴覚はどうしても動けば音が出てしまうが、視覚の一つでも封じることができれば、俺の勝率は大きく上がる。
だから着たのだ。
別にコンビ∞で見つけて、久しぶりに着てみようかな~なんて考えて着たわけでは決してない。しかし…
「本当に重いな…」
体が重すぎて、なんでこんな格好を選んだのか後悔してしまいそうだ。
***
多くの兵士たちが道を歩いている。
彼らの腰には各家紋が刻まれたサーコートが結ばれており、それぞれの腰には剣、そして手には槍を持って歩いている。
「間もなくフィトン森だ!」
馬に乗った、黄色い長髪に、すらりとした体、かなりの美貌を誇る鉄鎧の騎士が叫ぶと、兵士たちが大きな声で応える。
そんな彼の隣に、一人の女性が近づいてくる。
エレシア・デ・アウルアが、彼の隣に馬を寄せる。
「兵士たちが疲れています。フィトン森に到達する前に休息を取るのが良いでしょう。」
「街からフィトン森までは、せいぜい四時間です。たった四時間歩いただけで休息を望むなど、戦士ではありません。」
「私たちはこうして馬に乗っていますが、彼らは違います。せめて戦場に到着する前には、休息させてあげるべきです!」
「ご心配なく。フィトン森に到着する前に休息させますから。」
エレシアは深くため息をついた。
今、彼らが向かっているのはフィトン森。
昨夜、冒険者から入った情報のためだった。
「ゴブリン部隊がフィトン森にいます!」
魔族が来ると聞いていたので、ゴブリンが来ることは予想していた。
しかし、まさかもうフィトン森に到着しているとは思ってもみなかった。
ゴブリンはフィトン森の右側にあるガイル沼地で集落を作って暮らしていた者たちだった。
フィトン森にいるのはフォレストウルフ。
せいぜい棍棒一つ、木を削って作った矢数本と木の枝の弓を持つ程度の彼らが、フォレストウルフに勝つことは不可能だった。
そもそもゴブリンはフォレストウルフの餌だった。
繁殖力が強く、それほど強くもないので、時々餌がなくなるとフォレストウルフがガイル沼地に行って捕食し、再びフィトン森に戻ってくるほど弱い者たちだった。
なのに、そんな者たちが部隊を率いてフィトン森に来たのだ。
フォレストウルフがいるにもかかわらず、だ。
‘おそらく、あの異変のせいでしょうね…’
赤い月と夜に聞こえる奇妙な音、そして消えていくワイルドボアたち。
これは魔族が現れたとしか説明のしようがなかった。
「せいぜい数匹しかいないでしょうに、あまり気にしないでください。」
鼻で笑った美貌の騎士は、視線を転じてエレシアをいやらしい表情で見つめた。
「お考えはまとまりましたか?」
エレシアは不快な表情で目を閉じ、頭を下げてゆっくりと馬の速度を落とした。
「よくお考えになることです。私も待つのには限界がありますので。」
後ろに下がる彼女に手を振る騎士。
彼が何を言っているのか、エレシアは分かっていた。
まさに婚姻のことだ。
目の前にいる騎士は、ヴィルヘルム・フォン・ヘルブライアン。
数ヶ月前にあったサーベルタイガー討伐の功績を認められ、ジェルノータの領主から強い信任を得た男だった。
彼女の父はサーベルタイガーを討伐した彼の功績を見て好機とばかりにエレシアと彼の婚姻を斡旋したが、彼女は気に入らなかった。
人が成功すると本性が現れると言うが。
騎士たちの中で最下位だったため、いつも縮こまっていた彼が、サーベルタイガー討伐で領主の信任を得ると、街の騎士たちに度を越した傲慢さで無礼を働いていた。
そんな男に嫁ぐ?
彼女は死んでも結婚したくなかった。
しかし、結婚というのは家門と家門が結びつくこと。
彼女の思い通りに拒否できるものではなかった。
‘そもそも、あの男が仕留めたのが本当なのかしら?’
疑わしい点が一つや二つではなかった。
仕留めたサーベルタイガーから出てきた小さな鉄片の痕跡。
ヘルブライアンはその痕跡が何かについては言葉を濁すようにやり過ごし、頭に開いた穴については弓で仕留めたと言ったが、彼は弓ではなく剣を使う人間だった。
そもそも剣兵だけを連れて行った人間が、どうして弓で仕留めることができたのだろうか。
そして何より、確かな証拠が一つ。
「死体を持ち帰って、自分が処理したように見せかけてるのか…」
「まあ、残念ではあるけど、自分の手柄を横取りされるなんて、一度や二度のことじゃないしな。」
まるで自分がやったかのように話す男。坂本優司の言葉。
これがずっと心に引っかかっていた。
‘二日前もそうだった…’
北の森の巡回担当だった彼女の前に赤い月が現れた時、坂本優司という男は北の森に現れた狼から子供を守っていた。
それも、手に一度も見たことのない物を持って。
そしてその時、死んだ狼から見た傷跡は、死んだサーベルタイガーから見た傷跡と全く同じだった。
もしヘルブライアンではなく、坂本優司がやったということが明らかになれば、ヘルブライアンの家門はそのまま没落し、坂本優司はジェルノータの領主の信任を得て騎士になれたかもしれない。
どうして彼は、その全ての栄誉を捨てるのだろうか。
彼女としては、いくら考えても理解できなかった。
「はぁ…」
いっそ結婚するなら、あんな傲慢な男ではなく坂本優司と結婚する方がマシだろう。
そう考えていたエレシアに向かって。
ピシュッー
矢が一筋飛んできて、彼女の隣にいた兵士の頭に突き刺さる。
その合図と同時に飛んでくる数十本の矢。
「き…奇襲だ!」
ヘルブライアンの叫び声が四方に響き渡ったが、兵士たちが対処するには、すでに遅すぎた。
***
「確か北の森だって言ってたよな…」
何かがおかしい。
昨日ハンスさんから聞いた話では、ゴブリンが現れたのは北の森だということだった。
しかし、何時間も歩き回っているのに、ゴブリンはおろか、イノシシ一匹も見当たらなかった。
マップにも同様だ。
表示される点といえば、黄色い中立のものばかり。
ウサギやリスのような動物たちだった。
「ただの噂だったのか?」
こんなことなら、ここに来て準備すればよかった。
無性に昨夜から準備して、時間だけを無駄にしたような気がする。
‘まあ、でも…特に問題は起こらなくて良かったな。’
万が一人でも死んだら大変だと思い、昨夜から準備して急いでここまで来たが、ただの噂で良かった。
もし本当だったら、俺も命がけで戦わなければならなかっただろうから。
「さて、それじゃあ帰るか。ハル、行くぞ。」
ハルを呼んで行こうと声をかけ、俺は小屋のある方向へ体を向けた。
ところが…
「ハル?」
ハルが俺についてこず、どこかを見ている。
耳をぴくぴくさせ、鼻をクンクンと鳴らし、まるで何かを見つけたかのように、一方向をじっと見つめている。
「何かいるのか?」
ハルに近づいて尋ねると、ハルは尻尾をピンと立てて歯を剥き出しにした。
ハルのこの反応は、敵がいるという反応。
しかし、マップには敵が見当たらない。
俺は緊張した面持ちでライフルを手に握りしめ、ゆっくりとハルが見つめる方向へと歩いていった。




