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第18話

第18話


グルルルン――…


ハルがルエリの前に立ち、目の前にいる者たちを睨みつけ、歯を剥き出しにする。

興奮によって一層大きくなった瞳孔、前足から飛び出した爪は鋭く、剥き出しになった歯からはよだれが滴り落ちる。

それは、ハルだけではない。

灰色の毛を持つ多くの狼が、ハルとルエリが背を向けて立つ木の周りを囲み、獲物を見るような目で二人を見ている。


「ハ…ハル…」


ルエリが恐怖に震え、涙をポロポロとこぼした。

遠くへ行くつもりはなかった。

ただ森を歩き回り、ちゃんと前を照らせるか試すために森に入っただけだ。

しかし、前があまりにもよく見え、この明るい光が不思議だったため、歩き続けているうちに、結局道に迷ってしまった。


キャン、キャン!


「きゃあ!」


ルエリが耳を塞いだまま、その場に座り込む。

どうか誰かが来て助けてくれますようにと切に祈るが、冒険者たちでさえキャンプの準備を終えて寝ているこの時間に、森を歩き回る人が果たしているだろうか。


グルルルン…


ハルが狼たちから視線を逸らさずに、ゆっくりと振り返り、座り込んだルエリに近づいた。

飛びかかってきた瞬間、殺してやるというように、絶えず唸り声を上げるハルのせいだろうか。

狼たちは、入ってくるのを躊躇していた。

しかし、彼らの間を割って前に出てきた一頭のせいで、雰囲気は変わった。


他の狼たちより体格が1.5倍は大きい一頭の狼が一歩ずつ前に出てくると、周りにいた狼たちがその狼について、徐々に距離を詰めてきた。


「ハル…助けて…!」


ルエリがハルにしがみつくと、ハルは舌でルエリの顔を舐めて落ち着かせた。

そして、前に歩み出て体を前に屈め、奴らを睨みつけた。

今、ハルがした行動の意味を、狼も理解していた。


キャン、キャン、キャン!


荒々しく吠える二頭の捕食者の戦いが始まった。

自分のボスに飛びかかると、他の狼たちも飛びかかってくるが、ハルは自分を噛む他の狼たちの歯を無視し、ひたすらリーダーの頭を狙った。

足を噛まれたリーダーが後ろに下がり、ハルは他の狼たちを前足で打ち払い、首を噛みちぎりながら強く抵抗し、狼たちは恐怖に震えたのか、リーダーが後ずさりするにつれて、ゆっくりと後ろに下がっていった。


しかし、それは賢い狼たちの、飛躍のための足がかりだった。

ハルが少し息を整えている間に、リーダーがまずハルに向かって飛びかかり、他の狼たちが四方から飛びかかってハルを噛みちぎった。

ハルの毛が、自分のものなのか、それとも狼のものなのか分からない、赤い血で染まった。


そうして捕食者たちの血の死闘が繰り広げられている時、空の上に明るい光が昇った。

そして、パンという音と共に明るい光が弾け、四方を赤い光で染め上げた。


ルエリが空高く浮かび上がったその光を、じっと見つめた。

自分を救うために、神が降臨されたのだろうか。

得体の知れない光に疑問を感じていると、何かが素早く駆けてくる音が聞こえた。


次第に近づいてくる狼の音に目を閉じたまま、これ以上近づかないでほしいと祈るルエリの耳元で、風を切る音が聞こえた。

そして、続いて聞こえたのは。


キャンッー!


ルエリが目を開けた時、彼女の前に狼が倒れていた。


***


遅くはなかった。

幸い、ルエリはハルのおかげで、怪我はないようだ。

しかし、遠くに見えるハルの状態は良くない。


グルァァン!


自分に向かって駆けてくる狼に向けて石弓を撃ち、続いてやってくる奴の頭に石弓を振り下ろした。

バキッという音と共に、狼が吹き飛ばされる。


「優司さん!」


ルエリが泣きながら駆け寄り、俺にしがみつく。

この状況でしがみつくのは、水に落ちた人が救助隊の腕の中で暴れるのと同じくらい危険ではあるが、このまま引き離すわけにもいかない。

それなら、方法は一つだけ。

まさに、逃げること。


「おんぶだ!」


俺が膝をついて背中を向けると、ルエリが素早く俺の背中におんぶされた。


「しっかり捕まってろ!」

「はい…!」

「ハル!」


俺の声に、戦っていたハルが耳をぴんと立てて俺を見る。

しかし、足を怪我したのか、ハルはびっこを引いて俺に向かって歩いてくる。


キャン、キャン!


狼たちが俺たちに向かって吠える。


‘このままハルを置いて逃げるわけにはいかない…’


このまま俺がルエリだけを連れて逃げたら、間違いなくハルは狼たちに囲まれて死んでしまうだろう。


‘石弓では、やはり無理だろうな…’


石弓でも狼を処理することはできるが、単発式の石弓なので、一頭を処理して装填するのを繰り返さなければならない。

石弓を練習したとは言え、あくまで一般人が独学したレベルに過ぎない。


「今回も、やはり使うしかないか。」


インベントリに石弓をしまい、俺は拳銃を取り出して手に握った。


キャン、キャン!


一頭の狼が吠えながら、俺に向かって正面から駆けてくる。

奴は今、俺が手に握っている武器が何なのか知らないだろう。

いや、知っていたとしても、避けることはできないだろう。


タンッー!


引き金を引くや否や、四方に騒音が広がる。

強烈な音に、ハルの周りで唸っていた狼たちが一斉に俺を見る。

俺に向かって駆けてきた奴は、声一つ上げることなく、駆けてきた速度のまま滑って俺の横を通り過ぎていく。


グルルルン…


警戒しても無駄だ。

銃というものは、種族、人種、爵位に関係なく、たった一発であの世へ送ってくれる「殺傷兵器」なのだから。


タン、タン!


二発の銃声が再び響く。

俺の前にいた二頭の頭が撃ち抜かれ、そのまま横に倒れる。

俺の攻撃に警戒する奴らが、ゆっくりと後ずさりする。

ここで逃げてくれればいいのだが。


キャン、キャン、キャン!


他の狼たちより一回り大きな体を持つ奴が、体を前に屈めて俺に向かって吠える。

おそらく、そいつがこの狼たちのリーダー。

こいつさえ処理すれば、他の奴らは恐怖に震えて逃げるだろう。


タン、タン、タン!


リーダーであるこいつも、他の奴らと同じ狼。

だから、避けられないだろうと思っていた。


グルァァン!


‘な…なんだ?!’


狼のリーダーが、俺が撃つ拳銃の弾を避けながら、素早い速さで駆けてくる。

しかも、動く相手は撃ちにくいということを把握したのか、左右に素早く動きながら俺に近づいてくる。


ガァン!


ハルが痛む足にもかかわらず駆け寄ってきて、奴の動きを止めようとするが、むしろハルまで混ざっているせいで、撃ちにくくなる。


「ハル、どけ!」


大声で言ってみても、ハルはすでに我を忘れているようで、狼と離れる気はない。

結局、この状態で撃たなければならない。


‘こうなるなら、拳銃の射撃練習でもしておくべきだった…’


ほとんどの狩りは石弓でしかしていなかったので、拳銃の射撃練習はしていなかった。

しかし、もう後悔しても遅い。


「頼む…」


片目を閉じ、機械式の照準器を狼に合わせた。

乾いてくっつきそうになる口を少し開け、息を長く吐き、ゆっくりと引き金を引いた。

それが、ほぼ引ききられようとした時。


ザクッー


狼の頭が、一太刀で体から切り離される。

俺が引き金を引く直前、俺の前に現れて狼のリーダーを斬った人物。


「大丈夫ですか?」


月光を受けて輝く、黄色い長い髪。

銀色の鉄の鎧の下、家紋と思われる獅子の紋様が描かれたサーコートを着ている女性。

暗い森だったので顔はよく見えなかったが、何度か聞いたことのある聞き慣れた声だったので、誰なのかすぐに分かった。


「優司さん?」

「エレシアさん?」


エレシア・デ・アウルア。

彼女は、以前俺の店でシャンプーと石鹸を買っていった貴族の女性だった。


***


緊張が解けたのだろうか。

いつの間にか眠ってしまったのか、小屋に戻ると、ルエリがおんぶされたまま眠っていた。

眠っているルエリを部屋のベッドに寝かせ、俺は外に出てハルを治療した。


クゥン…


ハル一人で多くの狼を相手にしたせいで、あちこちにかなり傷が多い。

幸いなことに、致命傷までは至っていない。

一番ひどく怪我した足に軟膏を塗り、包帯を巻いてやると、ハルは包帯を巻いた部分をしきりに舐める。


「舐めるな。薬が全部取れるぞ。」


俺の言葉を理解したのか、ハルは俺を見つめて舌を出し、ハァハァと息をする。


「優司さん!」


ルーコンが森をかき分け、息を切らしながら俺に向かって駆けてくる。


「ル…ルエリは見つかりましたか?」

「今、部屋で寝ている。」

「怪我は?」

「幸いにもない。」

「はぁ…」


ルーコンがその場に座り込み、安堵のため息をついた。


「ハルのおかげだ。」


ワンッー!


本当に可愛い奴だ。

今日はもう夜も遅いし、明日はご褒美にコンビ∞で高いおやつを買ってやらないと。


「ハル、ありがと…」


体を撫でようとしたルーコンが、ハルの状態を見て、頭を下げて謝る。


「申し訳ありません、優司さん。ルエリのせいで、あなたの犬が…」


「大丈夫だ。」


ハルが命をかけてルエリを守ったのだ。

ルエリが怪我をしなくて良かったと思うのは、ハルも同じだろう。


「次にここに来る時は、ハルが食べるおやつでも買ってきてくれれば、すごく喜ぶと思うぞ。」

「はい、私の命にかけて、必ずハルのおやつを買ってまいります!」

「ハルのおやつに命をかけるのは、ちょっと…」


ルーコンが俺の隣にしゃがみ込んだ。


「ところで、さっき空に浮かんでいた、あの赤い月…優司さんがやったんですか?」

「赤い月?」

「はい。周りを明るく照らした、あの赤い月です。」


最初は、それが何を意味するのか理解できなかった。

赤い月だなんて。

今、浮かんでいる月は明るい黄色なのに。

しかし、さっきあったことをじっくり考えていた俺は、ルーコンが言った赤い月が、フレアガンの光だということに気づいた。


「ああ、あれか。俺がやったんだ。」

「もしかして、魔法を使われたのですか?」

「魔法?いや、この世に魔法なんてあるわけないだろう。」


魔法というものは、現代の物理法則に完全に反する概念だ。

マナというものを変形させて、火や水、風を作り出す、そんな能力が実際に存在するはずが…


「魔法が…ない、ですか?」

「え…?」

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