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第15話

第15話


「ふむ…」


顎を撫でながら、品物を吟味する。

目の前にあるこの果物は、街で見たことのない果物だ。


「これは何ですか?」

「トゥコンですよ。美味しいから、一つ味見してみてください。」


そう言って、果物を一つ俺に手渡す。

大きさは小さなみかんほどだが、外側を覆っている皮は赤い色をしている。


バリッ。


「うっ…」


皮を剥いて食べるべきなのか、中の果肉は甘いが、皮はかなり苦い。

昔、似たような果物を食べたことがある。


「何だったかな…」


じっと腕を組んで記憶をたどってみると、おそらくグレープフルーツだった気がする。

中の果肉は甘酸っぱいが、皮と言える部分はかなり苦かったからだ。


「ザクロにも似てるな。」


皮さえ剥いて食べれば、味自体はかなり良いだろう。

これを大量に買ってジュースにして売っても良さそうだ。


「お前も食べてみるか?」


ハルに果肉を少しちぎって投げてやると、ハルは尻尾を振りながら受け取って食べ、美味しいのか俺を見て吠える。


「いくらですか?」

「10個で50ブロンですよ。」

「思ったより高いな。」


この豆粒みたいなものが10個で50ブロンもするとは。

味は良いので、買っても問題なさそうだ。


「ください。」

「ありがとうございます~」


トゥコン10個を受け取ってインベントリに入れ、俺はすぐにトゥスカードギルドへと向かった。

ここ数日間、ムルバスを歩き回りながら見物し、予備の宿舎に戻って寝ながら、多くのことを考えた。

そして下した決断は一つ。


拒絶だ。


「優司様!」

「ルエリ。元気だったか?」

「はい!」


俺が断る理由はいくつかあるが。


「今、ルアナさんは中にいるか?」

「マスターは今、他のお客様とお話中です!ギルドの1階で少しお待ちいただければ、私がお知らせします!」

「ありがとう。」


主な理由の一つは、俺の家がこの辺りではないからだ。

今は旅だからここに来てこうして直接話しているが、ここは厳密には馬車に乗って数日間走らないと着かない場所だ。

車で通うことも考えてみたが、自動車はVIP等級2段階で解放される品物で、価格も高い。

さらに、この世界にはコンクリートで舗装された道路など存在しない。

思う存分アクセルを踏んで走ることもできず、未舗装の道路で自動車に乗っていれば、事故を起こす危険性がかなり高くなる。


そんな危険を冒してまで、このギルドと取引を始める理由はなさそうだ。


「優司様!」


階段から、ルエリと共に一人の男性が歩いて降りてくる。

両サイドの髪を長く垂らし、後ろ髪はきれいに整えられた黒髪、優しい目つきからは彼の穏やかな性格がうかがえた。

行動までもがゆっくりとした男性は、着てきたロングジャケットを翻しながら降りてくると、俺を見つめた。


「こんにちは。」

「あ、はい…」

「ふぅむ…」


俺の顔と体を上から下まで見下ろす男性が、微笑む。


「シャンプーを納品されている方だと伺いましたが…やはり普通の品物ではないものを納品されている方だけあって、お姿も他の方々とはかなり違いますね。」

「そうですか?」


今俺が着ている服は、ジーンズと黒のウィンドブレーカー。

日本ではそれほど特別な格好ではないが、ここではウィンドブレーカーのようなものは使わないからか、特別に見えるようだ。


「では、またご縁がありましたらお会いしましょう。」


そう挨拶をして、男性は外に出て行った。


「誰だ?」

「マルブン商人ギルドのマスターでいらっしゃるハクラム様です。時々、私たちのマスターを訪ねて談笑されていきます。」

「うーん…」


後で会うことになりそうな気がする。

それも、良くない形でだ。


「さあ、では上がりましょう!」


ルエリが俺の手を掴んで、ルアナさんのいる部屋へと俺を案内する。



カチャッ。


静かな部屋に、ティーカップを置く音が響き渡る。


「つまり…」


ルアナさんの表情が良くない。

当然承諾すると思っていた俺が断りの意思を示したので、少なからず当惑しているようだ。


「どうして断るのよ?」

「先ほども申し上げた通り、私の家は街にあり、街からここまで来るのが少し…」

「いや、そういう理由じゃなくて。本当の理由が他にあるんでしょう。たかがここまで来るのが嫌で断るなんて、話にならないじゃない。」


それが話にならない理由なのだろうか。

俺が思うには、かなり大きな理由だと思うのだが。


「いくつか他にもありますが、一番大きな理由がそれなので、それだけ申し上げたんです。」


ルアナさんは席から立ち上がり、左右に往復して歩くと、俺に尋ねた。


「じゃあ、私たちがあなたのいるジェルノータの家まで行って品物を回収するなら、契約してくれるの?」

「俺の家までですか?」

「ええ。距離が一番の問題なら、私たちが直接あなたの家に行って納品物を持ってくれば解決するじゃない。」

「え…そうしていただけるなら、問題はないですが…」

「それなら決まりね。」

「え?」


ルアナさんがニヤリと笑う。


「私たちがあなたの家まで行って、納品物を持ってくるわ。」

「それでもいいんですか?」

「ええ、もちろんよ!そのくらい、簡単なことだから。」


理解できない。

ルアナさんは今、俺が何を持っているのか知らないのに、一体どうしてここまでして納品を受けようとするのだろうか。


「理解しがたいって顔ね?」

「え?」

「聞きたいことがあるなら聞きなさい。そんなに表情に出さないで。」


俺の頭の中を見透かされているような気がする。


「お聞きしていいということなので、お聞きします。ルアナさんは私が何を扱っているのかご存知ないのに、どうして契約しようとするんですか?」

「あ~、それが気になってたのね。」


ルアナさんはフッと笑う。


「特に理由はないわ。ただの商人の勘よ。」

「勘…?」

「ええ。これまで数多くの人々と契約もしたし、取引もしてきたけど、あなたみたいに私の予想を外す人はいなかったわ。」


良い意味なのか、悪い意味なのか分からない言葉だ。


「悪い意味で言ったんじゃないの。これまで私が提案した契約を断った人はいないのよ。そもそも私が契約する時は、私だけが利益を得る契約じゃなくて、共存共栄のための契約を進めるから。相手側も断りの意思を示したことはないわ。でも…」


ルアナさんは再びソファに座って足を組み、俺を見つめた。


「私の提案を聞いても、考えてみると言って数日後に来て、私の提案を断る人はあなただけってこと。」

「つまり…私が他の人々と違う決断をしたから、契約したいということですか?」

「そう言えるわね。」


ティーカップの水をゴクゴクと飲み干したルアナさんが、俺に手を差し出した。


「じゃあ、受けてくれるんでしょう?」


ここまで言われて、受けないわけにもいかず。


「分かりました。」

「よし、じゃあ契約成立…」

「ですが、ひとまず契約書を見てから決めさせていただきます。」


契約書は重要だ。

詳細に読まずに契約して、人を奴隷にするような契約内容でも入っていたら危険だからな。


ルアナさんが席から立ち上がって机へ歩いていくと、羊皮紙を一枚持ってきて置いた。


「はい、これ。」

「あらかじめ作っておいたんですか?」

「そりゃ、承諾すると思ってたからね。」


羊皮紙に書かれた契約内容を読み下していった。

契約期間は2年。

週に一度、「甲」である俺は、「乙」に馬車一台分の納品物を納めることになっている。


「この馬車一台分というのが…正確にはどれくらいの量ですか?」

「ん?そりゃ、馬車一台分は馬車一台分よ。」

「いえ、ですから…」

「それは私が説明するのはちょっとね…こっちに来てみてくれる?」


ルアナさんについて、部屋の窓へと歩いて行った。

ギルドハウスの外にある荷馬車。

2.5トントラックくらいの大きさのようだ。


「一週間ごとに、あの馬車一台分よ。」


金は十分にあるから、あの程度の馬車を満たすことは可能だろう。

俺は再びソファに歩いて行って座り、読み進めていった。


「契約内容は問題なさそうですね。」

「でしょう?さっきも言ったじゃない。私は自分だけが利益を得るための取引をするんじゃなくて、共存共栄のための取引をするんだって。」


口先だけではないようだ。

俺はインベントリからペンを取り出した。


「お、あなたも亜空間バッグの持ち主だったの?」

「え?」


ルアナさんが虚空に手を伸ばす。

その瞬間、空間が裂け、中から果物が一つ現れた。


「私も亜空間バッグの持ち主だから。」


使う様子を見ると、確かに人々が不思議に思うのも無理はない。

虚空に手を伸ばして物を取り出すのだから。

しかし、俺のインベントリとは使い方が少し違う感じだ。

俺がインベントリから物を取り出す時は、空間が裂けるというよりは、突然生成される感じだが、ルアナさんが持っている亜空間バッグは、ポケットに手を入れるように虚空に手を入れて物を取り出す感じだ。


「それで、その品物。ちょっと私に貸してくれる?」

「はい。」


俺がサインをしてペンを渡すと、ルアナさんがペンをあれこれと見てみる。


「これは初めて見る品物ね…インクをつけなくてもインクが出る品物だなんて…これ、名前は何て言うの?」

「ペンです。」

「ペン?羽ペンと似たような名前ね。」


当然似ているだろう。

その羽ペンから取ったのが、ペンなのだから。


「これ、今持ってるのある?」

「いくつか持ってはいますが…なぜですか?」

「今持ってる分、全部私が買うわ。」

「買うんですか?」

「ええ。このペンというものは、机に座って仕事をする貴族や役人たちによく売れそうだから。」


ペンを見るや否や、消費者分析をするとは。

性格はともかく、商人としての能力だけは優れているようだ。


「分かりました。」


インベントリから持っているペンをテーブルに置くと、明るく笑う。


「11本も…!」

「俺が使っていたのは返してください。」

「あ、そうね。じゃあ10本…」


インベントリにペンを一つ入れた。


「いくらでいい?」

「うーん…」


この世界の羽ペンの価格は俺も知らない。

結局、俺が使ったペンの価格で決めなければならないということだが、俺がペンを買った時の金額が1本5ブロンくらいだったから、おそらく20ブロンくらいで話せば受け入れてくれるのではないだろうか。


「1本20ブロン…どうですか?」

「20ブロン?!」


俺がふっかけすぎたか…


「これが20ブロンしかししないって言うの?」


驚いた目を見て、高く言い過ぎたかと思ったが、どうやらかなり安く言ってしまったようだ。


「ええ、まあ…」

「じゃあ、当然全部買わなきゃね。」


もう少し高く言えば良かったと思ったが、今更もっと高く言うのは少し気が引ける。

ルアナは亜空間バッグから、100と書かれた銅貨2枚を渡してくれた。


「はい、これ。」


俺は受け取った硬貨をインベントリに入れ、席から立ち上がった。


「それでは、私はこれで帰ります。」

「待って。」


ルアナが俺に近づいてくる。


「念のため聞くけど、家にいつ頃帰るつもり?」

「ムルバスも見物するだけしたし…明日あたりに帰ろうかと。」

「良かった。明日、日が昇る頃にムルバスの西の出入り口に来て。あなたの家まで私が送ってあげるから。」

「そこまでしていただかなくてもいいんですが…」

「いいえ、私もジェルノータに用事があるし、私たちが納品物を取りに行かなきゃならないのに、私たちはまだあなたの家がどこか知らないじゃない。」


考えてみれば、馬車に乗るためにルエリと会った場所は城門の入り口だった。

このまま家に帰っていたら、かなり問題になっていただろう。


「じゃあ、明日ね。」

「はい。」


ドアを開けて外に出た。

明日、日が昇る頃に西の出入り口。

おそらく日が昇るのは6時頃だろうから、今日は早く寝なければならないだろう。

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