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第13話

第13話


「シャンプーが戻ってきました!」


メガンさんの叫び声を皮切りに、商売が再開された。


「シャンプー?」

「ないって言ってたじゃない?」

「入荷したみたいよ!」


シャンプーという言葉に、人々が四方から津波のように押し寄せてくる。

やはりシャンプー。

効果は抜群だ。


「ありがとうございます。またお越しください!」


満面の笑みでシャンプーを買っていく人々。

貴族のように見える何人かは、シャンプーを10個以上もカゴに入れて買っていく。


「ここにシャンプー、もっとありますか?!」

「少々お待ちください!」


空になったシャンプーを補充するや否や、人々が手を伸ばして買っていく。


そうして夢中で商売をした後、日暮れになって最後の客が出て行ってから、ようやく仕事を終えることができた。


「はぁ…」

「うふふふ~」


唇を噛みしめ、嬉しそうに足をバタバタさせるメガンさん。

彼女はカウンターの裏に山と積まれた金袋を眺めながら歓声を上げた。


「やったー!やっぱりシャンプーが最高ね!」


あれだけ大騒ぎだったのに、どうしてあんなに元気でいられるのだろうか。

これこそがベテランと素人の違いというものだろう。


「ありがとう、優司さん!おかげでまたこんなにたくさん稼げました~」

「いえいえ。」


俺はふらつきながら席を立ち、カウンターの方へ歩いて行った。


「それでは、そろそろ精算しますか?」

「ええ、少々お待ちください。店を閉めてから始めましょう。」


そうして店を閉めようとした、その時。


「待ってください!」


ドアを閉めているメガンさんの元へ、誰かが駆け寄ってくる。

背中に背負った大きなカバン。

頭にかぶった茶色のベレー帽と、茶色のレザーベストにホットパンツ。

両サイドで三つ編みにした髪の小さな少女。


‘あの子は…’


どこかでちらりと見たような子だ。


「あら、ルエリ?」


ルエリと呼ばれた少女は、流れる汗を拭うと、明るい笑顔でぺこりと頭を下げて挨拶する。


「こんにちは、メガンおばさん!」

「あ、ええ…」


メガンさんが困ったように、ちらりと後ろを向いて俺を見る。


「シャンプーが入荷したって話を聞いて、こんなに急いで走ってきたんです!」

「そう?どうしようかしら…納品してくださった方はもう帰ってしまって、いらっしゃらないんだけど?」

「ええ?!そんな…!」


ルエリがその場にへたり込んだ。


「あんなにお願いしたのに…」


ルエリが今にも泣き出しそうな顔で声を詰まらせる。


「どうしたんですか?」

「それが…優司さん。ちょっと。」


メガンさんが俺を横に呼び寄せ、小さな声でつぶやいた。


「あの子が優司さんにすごく会いたがってるのよ?でも、私が優司さんの意見も聞かずに勝手に教えるわけにもいかないから、とりあえずずっといないってことにはしてるんだけど…優司さんのことを話してもいいかしら?」

「あの子は誰なんですか?」

「トゥスカード商人ギルドの子よ。」


その言葉を聞いて、頭の中が複雑になる。


「待ってください…商人ギルドって、一つじゃないんですか?」


メガンさんが頷く。


「商人ギルドは二種類あるの。一つは、国ごとに商業行為を認めてくれる国家商人ギルド。もう一つは、その商人たちが集まって別に作る商人ギルド。トゥスカード商人ギルドは後者に属するわ。」


つまり、今俺が加入を申請した商人ギルドは、単に事業者登録証を得るための場所で、今あの子が属している場所は、フランチャイズのような概念なのだろうか。


そんな場所にいる子が、どうして俺に会いたがるのだろうか。


「この前から、一日に一回はルエリが訪ねてきて、優司さんが来たかずっと聞いてくるのよ…」

「どれくらいになるんですか?」

「さあ…もう数ヶ月は経ったかしら?」


数ヶ月もの間、俺に会うためにずっと訪ねてくる少女。

そんな子を無視するわけにはいかない。


「俺が会ってみます。」

「ほんと?!」


メガンさんがパチンと手を叩いて、明るく笑う。


「じゃあお願いするわね。私は精算してるから!」


その言葉を最後にメガンさんは奥に入っていき、俺はルエリのいる場所へと歩いて行った。


「あの。」

「うん…?」


顔を上げて俺を見たルエリが、涙を拭って席から立ち上がる。


「おじさんは…この前、ここを教えてくれたあのおじさん…」


覚えているんだな、この子。


「聞きたいことがあるんだけど、どうしてシャンプーを納品してる人を探してるんだ?」

「それは…私たちのギルドに招待するために探してるんです。」

「ギルドに招待するために?」

「はい。私たちのマスターが、ぜひ一度お会いしたいとおっしゃっているので。」

「理由を聞いてもいいかな?」


その質問をするや否や、少女が疑いに満ちた視線を送ってくる。


「おじさんは誰なんですか?どうしてそんなに色々聞くんですか?」

「俺が、ここにシャンプーを納品してる本人だからだよ。」


俺がそう言った瞬間、ルエリの表情が驚きに染まった。


***


ガタゴトと揺れる馬車の音。


ワン、ワン!


ハルが馬車の外を眺めて吠えている。

祭りが終わった翌日。

俺は初めて、この世界に来て旅に出ている。


「いい天気だな~」


理由は一つ。

トゥスカード商人ギルドが俺を招待したからだ。

理由は、商品の納品についてだ。

今はたまにメガンさんにシャンプーを納品しているだけだが、トゥスカード商人ギルドでは、俺が持っている全ての品物を欲しがっているという。


つまりは、コンビ∞を欲しがっているということだ。


もちろん、彼らがコンビ∞について知る由もない。

しかし、俺にはコンビ∞という、世界のあらゆるものを購入できる能力がある。

それだけでも、全ての商人ギルドが狙うに値する人材だということだ。


‘コンビ∞については、バレないように注意した方がよさそうだな。’


狙われるに値する人材ということは、俺に悪人も寄ってくるということだ。

平和なスローライフを望む俺にとっては、絶対にあってはならないことだ。


「あとどれくらいだ?」

「もうすぐです!」


御者席から叫ぶルエリの言葉に、俺は顔を出して外を眺めた。


「街…というほどではないか?」


木を鋭く削って作られた丸太の壁で囲まれた村。

俺がいた街よりは、田舎のような雰囲気の村だ。

それでも、継続的に大きくなっているのか、城壁の外には作りかけの建物が見える。


「ここがムルバス…」


ムルバスという村。

俺はここ数日間、このムルバスで過ごすことになる。


ちょうど新しいことを求めていた矢先の、無料の旅行。


「ここ数日は、思いっきり楽しんでもいいだろう。」


祭りの間、シャンプーを売って大金を貯め込んだし、しばらくは旅先で金を使いながら過ごしてみよう。

それこそ、大金持ちのように。


***


商人たちの馬車が城門を交差して通り過ぎていく。


「お~、ここは街とは風景がだいぶ違うな。」


精巧に建てられた街とは違い、ムルバスの建物は、まるで空いた場所に片っ端から建てたかのように、無秩序に建てられている。

ほとんどは木でできた小屋だったが、通りを行くと時々レンガ造りの家もあり、その家の主は貴族か、あるいはベレー帽をかぶった人々、つまり商人たちが経営する店であるように見えた。


ヒヒーン!


馬の力強い鳴き声と共に、馬車が止まる。


「来たか。」


外から、細い男性の声が聞こえる。


「うん!」

「ジェルノータはどうだった?」

「全然面白くなかった。」

「そうか?街なのに、見物する価値はなかったか?」

「見物も一日二日で飽きるわよ!」

「三日間、祭りだって言ってなかったか?」

「祭りも人が多いだけで、面白くなかった。」


話している様子から、ドアを開けてくれる気配がなかったので、俺はドアを開けて外に降りた。

黒い髪と、それに合う黒い瞳。

それとは対照的な、白地に緑の縞模様が入ったスーツを着た若い青年は、俺を呆然とした表情で見つめている。


「え?」

「あ、そうだ!すみません!私、うっかりしてて…」

「まさか…」


ルエリが指でVサインを作り、得意げに言った。


「この私が連れてきたというわけ!」

「マスター!」


その言葉に、慌てた男が素早く建物の中に入っていく。


「お、建物がすごく大きいな?」


ギルドがかなり大きいのか、それともここの土地代が安いのか。

レンガで建てられたトゥスカード商人ギルドのギルドハウスは、かなり大きい。


「ルーコンお兄ちゃんったら…大したことでもないのに…優司様!さあ、中に一緒に入りましょう!」


口ではそう言っているが、ルエリの口角が上がりそうでうずうずしているのを見ると、彼女にとってはかなり大きなことを成し遂げたようだ。


ギイィ。


ドアが開き、中にベレー帽をかぶった数多くの商人たちが歩き回っている。

一部は箱を運び、一部は帳簿を確認している様子から、彼らはかなり忙しそうに見え、何人かは駆け足のような速さで俺を通り過ぎ、ドアを開けて外に出て行った。


「ルエリ!」


彼女の隣に、一人の少女が近づいてくる。

ルエリよりは少し大きいが、白い髪の上に茶色のベレー帽、半分閉じたような目とその下にある泣きぼくろが印象的な少女。

白いワンピースの上に茶色のレザーベストを着た彼女は、ルエリの手を握り、心配そうな目で見つめている。


「怪我はない?」

「うん、ないよ!」

「街は危ないって聞いてたけど、怪我がなくて良かった。」

「危ないって?」

「油断も隙もないのが街だって言うじゃない。」

「別に、そんな感じはしなかったけど?」


首をかしげて答えるルエリを見つめながら、少女もまた首をかしげる。


「そう?」


なんだか自分が背景になってしまったような気がして、ルエリの肩に触れた。


「ルエリ?」

「あ!ヌーラン、挨拶して!こちらにいらっしゃるのが坂本優司様!メガンのビューティーショップでシャンプーの納品を担当されている方よ!優司様も、こちらはヌーラン!私の友達です!」

「こんにちは。」


俺の挨拶に、ヌーランが俺を上から下までじろじろと見る。


「商人?」

「うん!それも、とんでもない品物を売る商人よ!」

「そうは見えないけど…」


目つきのせいか分からないが、この子の視線が、なんだか俺の心の中を見透かしているような気がして、鳥肌が立つ。


「じゃあ、任務は成功したの?」

「そういうこと!」


えっへんと咳払いをしてから、胸をぐっと張り、得意げなポーズを取る。


「さすがルエリ。すごいね。」

「たいしたことないわ。」

「ルエリ!」


先ほど先に入っていったルーコンという男が、階段から急いで降りてくる。


「何してるんだ、早くマスターのところへお連れしないと!」

「分かってるって!ごめん、ヌーラン。私、優司様をマスターのところへ連れて行かなきゃならないから。また後でね!」

「うん、頑張って!」

「優司様、早く行きましょう!」


ルエリが俺の手を握って、階段へと引っ張っていく。


トントン。


「マスター、ルエリです…!」


すっかり緊張した表情のルエリ。


「入りなさい、ルエリ。」


中から女性の声が聞こえる。

ルエリがドアを開けると、目の前に部屋の様子が広がった。

左の壁には暖炉。

右側には客と話をするためのソファと長方形のティーテーブルが置かれ、正面には本棚と共に座って仕事をするための机が配置されている。

床には金色で蔓の刺繍が施された赤いカーペットが全体に敷かれ、天井のシャンデリアが蝋燭の光を受けてきらめいている。


ウェーブのかかった朱色の髪、俺を見つめるサファイアのような碧眼には、忘れがたい力強さが宿っている。

着飾ることには興味がないのか化粧はしていないが、もし飾ればかなり美しい顔立ちだろうと思えるほど、整った顔だった。

彼女が着ている白いワンピースには緑の縞模様が長く入っており、胸にはギルドの象徴と思われる鷲のバッジがつけられていた。


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― 新着の感想 ―
この主人公さん目立ちたくないと思ってる割には行動が不一致な気がしてしまう
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