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第12話

第12話


「ハル!」


俺の声が森に響き渡る。


ワン、ワン、ワン!


ハルが森を素早く駆け抜けていく。


ブヒイイッ!


足を噛まれたイノシシが体をあちこちに振り回し、ハルを振りほどこうと必死にもがく。

しかし、足を離したハルは、逆にイノシシの首を狙った。


ヒュッ!


俺が口笛を吹くや否や、噛むのをやめてさっと身を引くハル。

イノシシが我に返る前に、俺はイノシシの頭を狙って撃った。


ヒュッ。


素早く飛んでいったボルトが、イノシシの頭を貫く。

ゆっくりと横に倒れたイノシシは、体をぶるぶると震わせた後、ほどなくして動きを止めた。


「よくやった。」


ハァハァと息を切らしながら駆け寄ってきたハルの頭を撫で、俺はインベントリにイノシシをしまった。


ここ数日間、ずっとイノシシを狩り続けている。

理由は当然、金を稼ぐためだ。

俺が仕留めたイノシシを部位別に分けてコンビ∞で売れば、かなりの金になった。

しかし、狩りすぎたせいか、最近この辺りでイノシシを見かける回数がめっきり減った。


「しばらく狩るのはやめておくか。」


イノシシがゲームのように無限に現れてくれればいいのだが、ここは現実だ。

命が生まれるためには、繁殖のための時間が必要なのだ。


***


街の広場にファンファーレが鳴り響く。

広場の鐘楼の近く、大きな噴水の前で楽器を持った人々が演奏し、その周りには数多くの食べ物の屋台がずらりと並んでいる。

屋台では人々が食べ物を食べたり、楽器の演奏に合わせて踊ったりしている。


「これが祭りか…」


ハンスさんから聞いていた通り、今日は街で祭りが開かれている。

生まれて初めて体験する祭りの雰囲気。

笑いさざめく様子を見ていると、なぜ人々が遠くからわざわざやって来るのか分かる気がした。


「さあ、毎日あるわけじゃないよ!ヒューストンで美味しいと評判のフライングラビットの羽焼き!今ならたったの80ブロン!」

「食べ物といえば外せない、コーカサス揚げが60ブロンだよ!みんな来て一つずつ味わってみてくれ!」


あちこちで食べ物の屋台の商人たちが大声で店のメニューを宣伝している。

どれもこれも、かなり高い値段だ。

俺が街に来た初日に食べたクルフパの串焼きでさえ、2.5倍の値段である50ブロンで売られているのを見ると、あれも本来の価格はその半分くらいのはずだ。


「まあ、祭りなんてそんなもんだよな。」


人が多ければ多いほど高くなるのが、祭りの食べ物だ。

それを狙って商売をする人々もいる中で、安いものを期待するのは難しい。


「ハル、よだれを拭け。」


食べ物の屋台に入ってきてから、ハルの様子がかなり落ち着かない。

今にも飛び出して屋台の食べ物を食い尽くしてしまいそうな勢いで、よだれをダラダラと垂らしながら見回している。

ハルはここ数日で急激に成長し、今では俺の太ももくらいまで大きくなっている。

本当にこのままでは俺の半分くらいの大きさになるのではないかと、内心不安だ。


これ以上大きくなる前に、厳しくしつけておいて良かった。もししつけていなければ、今頃こいつは屋台に突進し、食べ物という食べ物を片っ端から食い散らかしていたかもしれない。


パッパパーン!


再び聞こえるファンファーレの音。

今回はファンファーレの音だけではない。

パカパカという馬の蹄の音と、ガチャガチャという鉄の軍靴の音が一緒に聞こえてくる。


中央広場の反対側、高い場所にある城から、隊列を組んだ兵士たちが槍と旗を手に持って行進している。

そして、その先頭に立つ男は、言うまでもなく今回の祭りの主役だ。


「テルブライアン様!」


周りの人々の歓声を受けながら手を振る。

祭りの主役だからだろうか。

以前は単に戦闘のための服装だったが、今回は鎧の代わりに貴族の礼服を身に着け、装身具でめいっぱい着飾っている。


事実を知っている俺にとっては、何一つ表情を変えずに他人の手柄で贅沢三昧している姿を見ると、鉄面皮もいいところだが、あのように自分の力を一切使わずに利益を得られることこそ、人生をうまく生きる知恵なのかもしれない。


‘俺も会社にいた頃、あんな風に他人の功績を横取りして過ごすべきだったな…’


もしそうしていたら、俺もチーム長のように会社で残業一つせず定時退社して、楽に金を稼いで暮らしていたかもしれない。

しかし、今はむしろ感謝している。

あの人間が俺に業務を押し付けて3年間も徹夜漬けにしなければ、この世界に来ることはなかっただろうから。


ガチャ、ガチャ。


テルブライアンが俺の前を通り過ぎ、街の入り口の方へ向かう。

おそらく中央を横切って、街全体を一周するつもりなのだろう。


「まあ、良いことは良いことじゃないか。」


後ろを振り返り、目の前にある串焼きを二本買って近くのベンチに座った。

一本を口にくわえ、もう一本は串に刺さった肉をハルの前に全部取ってやった。


「よし。」


ハルが肉を口に入れ、噛みもせずにゴクリゴクリと飲み込む。

美味しいものがあれば噛まずに飲み込むのが、犬の本能なのだろうか。

ハルが初めてのペットである俺には、他の犬をもう一匹飼ってみない限り、分からない真実だ。


塩で味付けされた串焼きを全部食べ、しばらく休んでいると、誰かが俺の隣にやって来た。


顔を向けて見ると、そこに見慣れた顔が見える。


「お前は…」


数日前、ジャガイモを持っていった時に見た子だ。

名前はエイナだったか。


ぺこりと頭を下げて俺に挨拶をしたエイナが、俺の隣に座る。


「祭りは楽しんでるか?」

「はい。」


短い返事の後、返ってくる質問はない。


「あそこの肉の串焼き、美味しかったぞ。お前も一つ食べてみろよ。」

「あ。」


今回も短い返事。

話を続けるのが難しい。

気まずい沈黙の中で1分。


俺は席から立ち上がった。


「じゃあ、俺は先に行くよ。またな…」

「あの。」


エイナが立ち上がった俺を見上げる。

そして、恥ずかしそうに顔をそむけた。


「この前いただいた野菜…美味しかったです。」


‘ああ、お礼を言いに来たのか。’


「美味しかっただろ?」

「はい。母も喜んでいました。」

「もしまた食べたくなったら、ハンスさんに伝えてくれって頼んでおけ。俺が持っていくから。」

「ありがとうございます。」

「じゃあ、またな。行くぞ、ハル。」


そうして席を立った俺は、広場の下の方へ向かった。


‘このまま家に帰るのももったいないしな…’


宿屋に行ってみるか。

今は忙しい時期ではあるが、むしろ祭りの見物に出て行って、今の方が閑散としているかもしれない。


***


「は…はは…」


入り口からすごい人だかりだ。

皆、列を作っているところを見ると、宿屋に泊まろうとする人々らしい。

あんなに大勢が泊まれるのかと思うが、出てくる人々の顔を見ると、どうやら無理なようだ。


「お待ちの皆さん!部屋はありません!皆さん、他の宿屋へ行ってください!」


人々がそれぞれ不平を言いながら去っていき、ハンスさんは深いため息をついて再び建物の中に入っていく。


「宿屋はあんなに人が多いのに。」


一方、メガンさんのビューティーショップの入り口には人がおらず、閑散としている。

忙しい時期に宿屋に行けば、俺も働かされるに違いない。

メガンさんの店なら働く必要はないだろうと思い、ビューティーショップへと向かった。


「いらっしゃいま…はぁ、優司さんですか。」


頬杖をついて深いため息をついたメガンさんが、外を眺めている。


「今日、祭りなのに、どうしてこんなにお客さんがいないんですか?」

「シャンプーがないからですよ、シャンプーが!」


そう言うと、メガンさんはため息混じりの笑顔で言葉を続けた。


「今、お祭りの期間でしょう。祭り中はみんな遊んで食べることに夢中で、化粧品には気も使わないんですよ。」


化粧品の祭りでもないしな。

確かに、他の人々が遊んでいる時に化粧品を買いに来る人は、そう多くはないだろう。

それどころか。


「いらっしゃいませ~」

「ここにシャンプーありますか?」

「それが、シャンプーが全部切れてしまって…」

「あ~、そうですか。では失礼します~」


シャンプーを探す客ばかりだ。


「シャンプー…」


メガンさんが残念そうに舌打ちをしながら見つめる。


「あ~、こういう時に一儲けしないといつするのよ~今からでもシャンプーの契約をしてくれる人がいれば、値段を三倍にしてあげるのに~」


この店にいるのは俺一人だけ。

それにシャンプーを扱っているのも俺一人だ。

当然、その言葉は俺に聞かせるためのもの。


‘その言葉も一理あるな…’


今は世界各地から人が集まっている時期だ。

こういう時にがっぽり稼いでおけば、しばらくは働かなくてもいい。

何よりも、商品を売買してVIP等級を上げなければならない。


「分かりました。では、祭りの期間中だけ特別に、俺がシャンプーを納品します。」

「本当ですか?!」


その言葉に、席からぱっと立ち上がったメガンさんが俺に駆け寄り、両手を握った。


「ありがとう、優司さん!」


俺が気まずそうに笑うと、メガンさんは店のドアを閉めた。


「さて、ではどこへ行けばいいですか?」

「行く必要はありませんよ。」

「え?行く必要がないって…」


コンビ∞でシャンプーを大量に購入し、店の床に置いた。


「亜空間バッグに持ってたんですか?」

「ええ、いくつか買っておいたんです。」


その言葉に、メガンさんが肘で俺の脇腹をツンツンと突いた。


「もしかして、狙って来たんじゃないですか?この日に高く売ろう~、なんて。」

「違いますよ。」

「でもこれ…」


コンビ∞で買ったシャンプーのボトルを見て、首をかしげた。


「元々はガラス瓶に入れて売ってませんでしたか?それに、この絵柄は…」


表面には、本物の花の写真が印刷されている。


「これ、本当に絵…?」

「プリントした写真です。」

「プリント?写真?」


メガンさんが理解できないのか、首をかしげる。


「詳しいことは後で説明しますから。さあ、早く小分けにしないと。」

「あ、そうね!」


俺はコンビ∞で、納品していた空のガラス瓶まで購入して置いた。


「さて、じゃあ一緒に詰め替えますか?」

「そう…しないとですね?」


今まで感じていた腰の痛み。

メガンさんと分担できることになって、本当に気分が良い。

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― 新着の感想 ―
「亜空間バッグに持ってたんですか?」「ええ、いくつか買っておいたんです。」 能力をさらけ出しても問題はないということか。どうして、急にこんな行動をとるのか理解できない。
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