072、私もお役に立ちます
「ふぇ…」
思い切り泣いて疲れました。今の私はリリー様の胸に顔を埋めています。だって、安心するんだもん。しかも抱きしめて頭まで撫でてくれる。これを幸せと言わずなんという。途中、リシューとソフィアが謝りに来てたけど、許してあげないもん!だって、二人とも謝ってる顔してなかったもん。笑ってたもん!
「私の味方はリリー様だけ…」
「あらあら」
あ、勿論、傍で一緒に頭を撫でてくれているルートお兄様も味方です。…だよね?
「ふふ、うさぎさんは可愛いと思うわよ」
「そうですけど……。でも仲間外れ…」
せめて、うさぎのメイドさんとかにして欲しい。それか、皆も色んな動物にするとか…。
「仲間外れじゃないと思うわよ?どちらかというと、皆もシルフィーがいるからこそ、そのテーマになったんでしょ?なら、その立案者って事で特別感を持たせてくれているんじゃない?シルフィーがうさぎ好きって皆知っているから、好意だったのだと思うわよ?」
「でも…」
「リシュハルトとソフィアだって、シルフィーの事が大切なのは普段から分かっているでしょう?良かれと思ってやっていると思うわ」
「そ、そうかもです…」
なんだか、リリー様に言われるとそうだなって納得しちゃう。
「なら、少しだけ頑張ってみない?本当に嫌だったら相談してみたら?聞いてくれない人はいないでしょう?」
「はい…」
確かに。リシューとソフィアは面白がってはいるけど、私が本当に嫌なことはしない。二人はそれを分かっている。
「頑張ってみます…」
「いいこね」
あうぅ……。リリー様にもっとぎゅっと抱きしめられました。幸せ…。
という訳で、わたしは優しいので二人の事を許してあげることにしてあげます。
「それにしても、シルフィーのうさぎ姿なんて、アル兄上が食いつきそうだなぁ」
「…」
確かに!小さい頃、私が誕生日に貰ったうさぎの着ぐるみを着たら、一番食いついて来たのアル様だもんね。あの着ぐるみは流石にもう着れない。私だって成長してるからサイズがね…。
「アル様、学園祭に誘おうと思ったんですけど、やめた方がいいですか…?」
「……、シルフィーそれやったら絶対アル兄上拗ねるよ?」
「で、ですよね」
本当はうさぎの格好なんて恥ずかしくてアル様に見せたくなかったけど、でも誘わないと後が怖いもんね。
「それに、アル兄上なら、誘わなくても来そうだね」
「ふふ、そうですね」
王族だから、当然、学園祭の日にちを知っている。本当に誘わなくても来そうだね。
「アル様誘うなら、お兄様やお姉様達も誘わないと!」
「シルフィーの兄と姉は多いもんね。血の繋がり関係なく」
「はい!素敵なお兄様とお姉様がいっぱいです!勿論、ルートお兄様も素敵なお兄様です!」
「ふふ、ありがとう」
「えへへ」
やっぱりルートお兄様のなでなでも流石のものです。アル様の弟なだけあります。
………あれ?私アル様と結婚するんだよね?そうしたらルートお兄様は私のお兄様じゃなくて、私の義弟になるって事?し、知らないもん!ルートお兄様はいつだって私のお兄様みたいな存在だもん!ルートお兄様の方が年上だし、いつまでもお兄様でいいもん!
そんな私達のやり取りを見ていた、リリー様が、なんだか、むくれている…?私の不機嫌が移りましたか?リリー様に移っちゃったの?そんな事ある?
「私も羨ましいと思ってたのよね」
「リリー様?」
何が羨ましいの?もしかして…
「ルートお兄様に頭なでなでして欲しいんですか?」
冗談でも言っていいことと悪いことがあるって分かりました。
ルートお兄様とリリー様の顔すっごく怖かった。正直、最初は二人が恋人なのかなぁ、とか思ってた時期もありましたが、そんな予想が一掃されるくらい怖かったです。
では、気を取り直して。
「リリー様、何が羨ましいのですか?」
「そう、それよ」
「ふぇ?」
「そうして私の事はお姉様じゃないの?」
まさかの私関連の事でした。
「お姉様って呼んでもいいんですか?」
「逆に何で呼んでくれないかってもやもやしてたのよ!」
なんと…、今まで何度か呼ぼうと思っていましたが、リリー様の許可なしで勝手に呼ぶわけにはいかないと我慢してたのに!
「リリーお姉様!」
呼んでいいなら呼びますとも!だってリリー様……、リリーお姉様はこの学園で私が唯一自分から話しかける事が出来る女性の先輩だもん。
「はぁ、今まで我慢したかいがあったわ…」
「ふぇ?」
「可愛すぎる…。シリア様の妹でさえなければ私の妹にするのに」
リリーお姉様、前もそれ言ってましたよね?
『私の妹にならない?』って聞かれた気がします。連行されそうになった気がします。
「ダメだよ。シルフィーは僕の妹だからね」
…ん?ルートお兄様、あなたは将来的には私の義弟ですよ?
「ずるいわ!私だってシルフィーの姉になりたいわ!」
「残念でした。シルフィーの自称兄姉はクロード公爵家を筆頭に複数いるからね。シルフィーをもらい受けるなら他の人が黙っていないよ」
「そ、そんな…」
「それに、シルフィーは幼い頃から僕の事を兄と呼んでくれているからね。僕だって黙っていないよ」
なんか二人とも喧嘩してる?しかも内容がおもちゃを取り合う子どものよう。もう、こんなことで喧嘩しないでください!
「私は皆の妹です!」
……ん?言ってから疑問に思ったけど、私の本当のお兄様とお姉様は一人ずつしかいないよね?皆の妹じゃないよね?
まぁ、二人がほわほわしてるからいいか。結果オーライ。
そうこうしているうちにリシューとソフィアが生徒会にやって来た。二人は申し訳なさそうに謝って来たけど、もうあんまり気にしてないよって言ったらほっとしてた。そして二人はルートお兄様とリリーお姉様に「シルフィーをなだめてくれてありがとう」と言っていた。二人ともさっきの場面を見てきたように言うのね。……もしかしてのぞき見してた。……いや、まさかこの二人に限ってそんなことは…!ありそうだね。
「そういえば、生徒会って、担当の先生みたいな人はいないんですか?」
「いるよ」
いるのか、今まで姿を見た事が無かったから、そんな人いないのかと思ってた。
「誰ですか?」
「シルフィー達も知っている人だよ?」
「私が知っている先生ってジェイド先生しかいないのですが…」
だって、関わる機会がないもんね!生徒会の仕事で他の先生に話に行く事なんてないし。あっても私以外の人が行ってるし。
「そうだよ。ジェイド先生だよ」
「?!」
ジェイド先生そういうの面倒くさがりそうなのに…?
「ふふ、シルフィー今、失礼な事考えたでしょ?」
「うっ」
やっぱりリシュー、エスパーだ。
「普段の先生だけを見ていたらそう感じるかもね。でも、あの先生は凄いよ」
「それは、何となくわかります」
ルートお兄様の言葉で思い出すのは属性別の授業。先生は私にあったレベルの魔法を教えてくれる。でも、無理をしようとしたらちゃんと見ていてくれるし、怒ってくれる。
一般教養の授業だって凄い。私達が分かっている事を前提に進めていくのではなくて、分からない事を前提に授業を進めてくれるから、分からなくておいていかれる生徒が少ない。全くいない訳じゃないけど、そんな生徒には後で個別にもっと詳しく教えてあげている。こんなに生徒思いの先生知らない。
だからこそ、生徒会の担当なんてしている時間ないんじゃないかなって思う。
「大丈夫だよ。ジェイド先生は必要なときに僕が指示を仰いで、意見を聞いたりするだけだから。そんなに負担はかからないと思うよ?それもめったにないんだけどね」
あぁ、なんだ。良かった。ジェイド先生が過労死で倒れたら悲しいもん。
「そして、そのジェイド先生から指示を貰ってます」
「わぁ」
「タイムリー…」
「ねー」
「ジェイド先生からの指令を言い渡します」
ふふ、思わず笑いそうになってしまう。だって、ルートお兄様、凄く演技がかった言い方するんだもん。
「指令、『急遽、光る黒インクを調達せよ』だって」
「…………?」
「インク…?」
ルートお兄様が指令を言うけど、私達1年生は意味が分からない。
「ルートにぃ、光るインクって?そんなの生徒会で使う場面あったっけ?」
「それに、インクなら学校の備品に腐るほどありますよね?」
私達1年生の疑問にルートお兄様とリリーお姉様はそっと目をそらした。
「あー」
「えーと…」
何だか二人とも歯切れが悪い。
「どうしたんですか、ルートお兄様?リリーお姉様?」
「あー、うん。恐らくなんだが、今の時期ってジェイド先生が一番忙しい時期なんだ。研究とかで。で、その期間は自分で買い物に行くのも面倒臭がるから、手が空いてる人に買いにいかせようとしてるんだと思う…」
「私達も去年、よく買いに行ったわね…。買うものが多い時は困ったけど、今回はインクだけだから一人で行けそうね…」
何だか二人とも、想いを馳せてる?と、取り敢えずお疲れさまでした…。
「私が買いに行きます!」
多分、こういうのって雑務の私の仕事だよね?これって本当に生徒会の仕事かなって疑問は遠くに放り投げます!
何だかお使いみたいでわくわくする!
「正直凄くありがたい。お願いしてもいいかな、シルフィー?」
「勿論です、ルートお兄様!」
私だってお役にたって見せますよ!いつももぐもぐケーキを食べているだけじゃないんだからね!
「急ぎですか?」
「うーん、恐らく。急遽ってあるくらいだから」
「分かりました!今日の帰りに寄ってみますね!」
「ありがとう、頼むね」
「はい!」
いざ、お使いです!
「あ、でも、ひとりで行ける?」
そんな時、私のやる気に水を差したのはリシューだった。
「もう!子ども扱いしないで!私だって買い物くらい一人で!……ひとりで、…」
どうしよう、不安になって来た…。
「あと、シルフィー、光るインク売ってる店知ってるの?」
「?!」
も、盲点だった!
「そんな事だろうと思った…」
ふぇ、流石リシュー。私の事知り尽くしてるぅ。だ、だって、インクって気付いたら補充されてるんだもん!自分で買って補充した事ないもん!
「ひ、ひとりで、できるもん……」
「よし分かった。ソフィア。ついていってやれ」
わ、分かってない!
「分かりました」
ソフィアもそんな深刻そうな顔で了承しないで!
「シルフィー、私と二人でお出かけしようか。放課後デートだよ?」
「デート!」
ソフィアと放課後デート!何だか一気に楽しみになった!
やった。ソフィアとお出かけ!
もし、少しでもこの小説をいいなぁって感じたら、☆☆☆☆☆を★★★★★にしてもらてると、すっごく嬉しいです!




