070、忘れた頃にやってきます
「そういえば、疑問に思ってたんだけど」
「うん?」
私は今、リシューとソフィアと一緒に食堂へ来ている。混雑している食堂を見て不思議に思った事がある。ううん。入学して早い段階から思っていた。なのに、1か月経った今頃言うのは遅いと思う。でも、気になってた。そろそろ無視は出来ない。
「私達がご飯食べる時って、不思議と席に座れない事ってないよね?」
「そうだね」
「混んでて座れなくて、園庭とかで食べる人もいるのに」
「そうだね」
「……リシュー、脅してる?」
「……人聞きの悪い」
だって、私達の顔を見て、さっと席を空けてくれる人までいるんだよ?今まで気にしないようにしていたけど、流石にもう見過ごせない。申し訳なくなってきた。きっとリシューが公爵家の権力を使ってるんだ!
「…シルフィーは僕の事を何だと思ってるの?」
「え?可愛いけど、やる時はやる人?」
「まぁ、間違ってはないわね」
だよね。ソフィアも同意してくれた。リシュー、出会って一ヶ月ほどでソフィアにも理解されてるよ?
「…違うよ。これに関しては僕じゃない」
「……これに関して『は』?」
他に何やってるの?なんかしてるって事だよね?!こ、怖い男だ…。
「…黙秘します」
リシューもそっと目をそらして黙秘しました。
気になるけど、聞いたら後悔する気がするからいい子のシルフィーさんはお口チャックで何も聞きません。
「えーっと、話戻すけど、どうして私達はこんなにあっさり座れるの?」
「あぁ、誰の仕業か気付いてなかったの?」
え、ソフィアは知ってるの?しかも仕業って…。何だか悪さをしているみたい。
「勿論よ」
「そうだよ、こんなことするなんてもう誰か分かってるじゃないか。しかも、今までよく疑問に思わなかったね」
思ってたよ?思ってたけど、今まで聞けなかっただけ。しかも誰か分かり切ってる?
「え、だ、誰?」
「そんなの。決まってるじゃん。『シルフィー様の笑顔を守り隊』」
こ、ここでも登場するの?今まで視線以外の出番は全くないと思っていたのに!
「『昼食を食べれないなんてことになって、シルフィー様の笑顔を曇らせる訳にはいかない!』だって」
「『ご飯を食べ損ねたシルフィー様の涙目も可愛いけど、可哀想…』だそうよ」
「ふ、ふぇ……」
あ、ありがたいけど、申し訳ないなぁ…。
「お礼言った方がいいかな…?」
でも、毎回違う人達が譲ってくれているから、誰にお礼を言えばいいか分からない…。
「それなら…、こっち向いて」
「?」
ソフィアが何やら思い浮かんだのか私に話しかける。ソフィアの方を向いてみると、ソフィアが、企んだ笑顔を向けている…?
「そ、ソフィア?」
すっごくいい笑顔ですが、何を企んでおいででしょうか…?
「ねぇ、シルフィー。手をぐーにして」
「?」
両手をぐーにして胸の前に持ってくる。そうすると、ソフィアが人差し指を口元に当てて、突然、
「そういえば、猫ってなんて鳴くっけ?」
疑問に思ったように質問してきた。何を言ってるんだろう。猫の鳴き声ってそれは
「にゃぁ」
に決まってるよね?
「「「ぐふっ」」」
「ふぇ?!」
突然食堂の至る所から何かを耐える様なうめき声が沢山聞こえてきた。何で皆胸を押さえているの、蹲っているの…!
「そ、ソフィア?」
「自分でやらせたとは言え、想像以上の攻撃力だわ…」
「久々に見たけど、やっぱりすごいね…」
二人は何で鼻を押さえているの?鼻血…?
「大丈夫…?」
二人をそっと見上げてみるけど、今度は顔を覆ってしまった。
「もうやだ。可愛い。可愛すぎて怖い」
「可愛い、可愛い。可愛い、可愛い」
怖いはこっちのセリフ…!なんか、リシューはいつも通りかもしれないけど、ソフィアはもっと壊れた!
二人とも無表情な所がなお怖い!
「だ、誰か…」
た、助けてくれそうな人は誰もいない!
「ど、どうすればいいの?」
結局その場を収めることは私には出来ず、後から食堂に入って来たルートお兄様が収めてくれました。
私はその後ソフィアとリシューと一緒に次の授業の教室に向かっていました。
「あー、楽しかった!」
た、楽しかった?!
「シルフィーがこんなに簡単に引っかかるとは思わなかったわ」
「そ、ソフィアひどい!だましたの?!」
「あら、人聞きの悪い。シルフィーがお礼をしたいって言うから、お金も何も減らずにより大勢にお礼が出来るものを考えたんじゃない」
「減るよ?!私の中の何かが減っていってるよ?!」
本当に最近のソフィアは私に遠慮がないね?!そして何が一番つらかったかというと、「こいつも大変だな」という可哀想なものを見る目でジェイド先生に見られた事だ。
「アル様―!」
そして放課後、私はアル様の所に遊びに来ていました。来て早々、アル様に飛びつきます。アル様はしっかり抱きとめてくれるからいいんです!
「いらっしゃい、シルフィー」
ほら、私を抱き上げて頭も撫でてくれます。
「ふにゅう」
やっぱり、アル様のなでなでは最高です…。私の気持ちも一気に落ち着きます…。
でも、今日はそういう訳にはいかない!
「聞いてください!ソフィアったらひどいんですよ!」
私の話を聞いてください!
「そういえば聞いたよ。シルフィー、またやらかしたみたいだね」
なのに、アル様の最初の一言はこれでした。
「アル様ひどいです!私のせいじゃないのに!」
頬を膨らませて思い切りアル様を睨む。というか、どうして知ってるんですか?!さっきあった事なのに!
「シルフィーのせいだよ。シルフィーが可愛すぎるのがいけないんだ。もう学園に通うのも危険かな。一か月も通ったんだ。もういいかな。もう学校辞める?いっそ閉じ込めてしまおうかな」
「一ヶ月しか経ってないのですが…」
怖いのですが……。今学校辞めたとして、私はどうすれいいのだろうか。家庭教師を雇えばいいのだろうか。でも、それだと、
「お友達…」
せっかくソフィアと友達になったのに。リシューとも、もっと仲良くなったのに。
「私のせいじゃないもん……。アル様、嫌い…」
「ご、ごめんって」
私が拗ねたら、アル様が慌てたように私の機嫌を取り始めた。アル様は私を抱き上げたまま椅子に座り、頭なでなでを再開させました。
「む、むぅ」
き、気持ちよくなんてないもんね!拗ねてるんだからね!
「可愛いね。私だけのシルフィー。大丈夫、シルフィーを傷つけるものは全部排除するから、学園生活楽しんでいいよ」
……その言葉忘れないでくださいね!私は学園生活楽しみますからね!だから、ほだされたりしませんからね!
なでなでなで
「…」
なでなでなで
「……」
なでなでなで
「………」
なでなでなで
「…………」
「こ、今回だけ許してあげます…」
「ふふ、ありがとう」
もし、少しでもこの小説をいいなぁって感じたら、☆☆☆☆☆を★★★★★にしてもらてると、すっごく嬉しいです!




