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シルフィーは悪役令嬢ですが、何故か溺愛されてます  作者: ちぇしゃ
第4章

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74/210

060、褒め言葉はほどほどにお願いします




「ねぇ、シルフィー。入学式って、すぐに始まるんだったかな?」


 掲示板を見ながらリシューがそう問いかけてくる。


「えっと、ちょっと待ってね。確か鞄の中に予定表があったはず……」


 うーんと、どこに挟んでたかな……。確か、この学園のパンフレットの所に挟んだと思うんだけれど……。


「あれぇ」

「ない?」

「ないかも。リシューは持ってないの?」

「それがね、昨晩確認しようとして鞄から出したんだけど、そのまま置いてきちゃった」


 ……。


 私達、二人ともポンコツだね。


 そんな気持ちを込めて私とリシューはお互いを見つめ合い、どちらからともなくクスクスと笑いをこぼす。


「ふふ、二人とも、今日を楽しみ過ぎたのかな」

「そうかも!少なくとも私はそう!」

「とりあえず、他の人についていったら大丈夫かな」

「賛成!」


 リシューと一緒で良かった。私一人だと心細すぎる。誰かに聞くという手段もあるけれど、そんな勇気ありません。もし聞くとしたら、リシューにお願いしようかな。


「ふ、ふふ」


 リシューとなんとかなるよねって思っていたら、堪え切れず漏れてしまったかの様な笑い声が聞こえてきた。私とリシューは慌てて後ろを振り返る。さっきまで周りに人が居なかったから油断した。こんなポンコツ丸出しの会話を聞かれていたとか恥ずかしすぎる。


 でも、振り返った所にいたのは第三王子のルートハインだった。


「ルートお兄様!」

「ルートにぃ!」


 この時、私の心の中には王子様を敬う気持ちよりも、聞いていたのがルートお兄様で良かったという安堵しかなかった。


「声をかけようと思ったけれど、何だか可愛い会話が聞こえてきたから、そのまま盗み聞きしてたんだ」


 ルートお兄様は第三王子様で、私の2歳年上。つまり、このナイア学園の最高学年になる。ちなみにルートお兄様は生徒会長様。


「むぅ。声かけて下さいよ!」

「そうだよ。趣味悪いよ、ルートにぃ」


「ごめんって、そんな怒らないで」


 ルートお兄様は謝ってはいるけれど、まだ口元が笑っている。私のまわりには意地悪な人が多い。


 ルートお兄様はゆっくりと私とリシューの頭に手を伸ばす。気持ちがいいけれど、また子ども扱い。でも、この場合は私だけじゃなくてリシューも子ども扱いされているからいいんだ。さっき私を子ども扱いしていたけれど、リシューだってまだまだ子どもなんだから。

 ルートお兄様は二人の頭を撫でながら、


「可愛いなぁ」

 

 なんて言っている。やっぱり、ルートお兄様からしたらリシューもまだまだ子どもで可愛い弟。





「二人が心配していた入学式の時間だけれど、今からゆっくり歩いても十分間に合うよ」


 ふわぁ、良かった。じゃあ、慌ててリシューと一緒にダッシュで入学式会場に入るという事はなさそうだ。それは貴族としてふさわしくないし、恥ずかしい。前世だったら全然ありなんだけど。いや、やらないけどね。


 3人でゆっくりと入学式の会場まで歩いていく。


 やっと入学する年齢になったんだなぁ。何だか感慨深い。だって、この世界に転生してから12年も経ってるんだから。シルフィーとしては15年だけどね。前の人生も合わせると25年以上生きている事になる。………え!改めて考えると、もう若くはない?いや、まだ若いか?!という年齢だなぁ。

 そう思うと、ディーもなかなか長生きだなぁ。もう15年以上生きているもんね。前世だとおじいちゃんだ。……そういえば、ディーっておじいちゃんなのかな?それとも、こっちの犬って平均寿命とか前世と違ってくるのかな?そうならいいな。そうなら、ずっとディーと一緒に居られるから。


「シルフィー、どうしたの?考え事?」

「え、あ。うん。ディーが長生きするといいなぁと思って」


 私がしゃべらなくなった事を不思議に思ったのか、リシューがそう尋ねてきた。前世の事は言えないからディーの事だけを言ったけれど、嘘ではない。


「……そうだね」

「でも、ディーアは賢い犬だよね。あの子、後60年は余裕でいきるね」


 リシューは私の言葉に同意してくれた。でも、そのあとに、ルートお兄様がとんでもない事をぶっこんで来た。後、60年!?え、そんなに生きるの?この世界の犬が凄いのか、ディーが凄いのか。後長くても5年くらいだと思ってた。でもこれは嬉しい知らせだ。もうおじいちゃんだと思ってたから、前みたいに思い切り遊んだりできないのかなって思ってた。でも、年齢的に人間と変わらないなら、ディーはまだぴちぴちの少年!まだまだ沢山遊べる!ディーとやりたいことは沢山あるもんね。


「ふふ」


 良かった。憂いが一つ無くなった。


「あ、シルフィーがご機嫌になった。流石ルートにぃ」

「え、僕なんかしたっけ?」

「さぁ。ディーアがこれからもずっと一緒に居るって分かって安心したんじゃない?」

「なるほど。可愛いね」

「うん、可愛い」


 二人がなんか言っているけれど、私の耳には入ってきません。私の頭はディーの事だけ。


 




「そういえば、リシュー。代表挨拶よろしくね」

「うん」


 え、代表挨拶?そんなのあるの?え、入学成績1位の人がするって?

 ぼーっとしていたけれど、これはちゃんと耳に入って来た。

 しかもリシューは驚いていないっていう事は、ある事知っていたね。何言うんだろう。これから3年間お願いしますとかかな?

 あぁ、どうしてこの世界にはカメラが無いんだろう。そうしたら、最初から最後まで録画して、それを皆に見せて回るのに。「リシューの挨拶格好いいでしょ!」って。


 でも、実際、私1位にならなくてよかった。全校生徒の前で挨拶とか絶対無理!リシューが私より頭が良くてよかった


「リシュー頑張ってね!」

「うん。ありがとう。でも、あきらかに自分じゃなくてほっとしてる顔してるよ?」

「ふぇ?!そ、そんな、事ないよ?」


 ……なんかリシューとルートお兄様が生温かい目でこっちを見てくる。


「表情に全部出る所、可愛いな」

「うん、ごまかし切れていない所がまた可愛い」


 ふぇー!これっていじめ?新しいいじめ方ですか?!

 可愛いって褒められているけれど、褒められている気がしない!寧ろけなされている?ばかにされている?


 いや違う。これ、子ども扱いだ!


「むぅ」


 私、もう15歳なのに!


「怒り方も可愛い」

「うん、頬を膨らませている所も可愛い」


 もう!何言ってもダメだよぅ……。可愛いのゲシュタルト崩壊が起きそう。


 こうなったら反撃!可愛いって言った方が可愛いんだから!


「そんなこと言ったら二人の方が可愛……、い。くはないですね。どちらかというと二人は格好いいもん」


 むぅ、反撃って難しい。こうなったら睨んじゃえ、と思って二人の方を見るけれど、正面に二人はいなかった。あれ、と思ってそのまま視線を下に移すと、二人は地面に蹲っていました……。


「もうやだこの子。可愛すぎる」

「反論しようとしてもしきれていない所が可愛すぎる」

「反論ととどまった時のきょとんとした顔可愛すぎる」

「僕たちの事をかっこいいって言いながらの上目遣い可愛すぎる」

「「存在自体が可愛いすぎる」」


 ……、えーと、もうさすがに恥ずかしいのでやめてください…!ちょっと怖いです!あと、王子様と公爵家長男が地面に蹲っていいんですか?

 その後、数分したら二人は元通りになりました。私?二人の事は放置して、近くの花壇のお花を見ていました。だってこの間アル様が「学園で周りの人が怪我とか病以外で倒れた場合以外はほっとくんだよ?近寄ったら危ないからね」って言ってたんだもん。私悪くないもーん。








「ルートお兄様、忙しくないの?ここにいて大丈夫?」

「大丈夫だよ。今日は新入生代表者と最後の打ち合わせをするだけなんだけど、リシュハルトだから何も心配していないしね」


 おぉ、信頼されている。流石リシュー。


「それにしても、今年は優秀な生徒が多くて教員たちも喜んでたよ。」


 ふふ、私は優秀ですよ?なんていったって、人生二回目。


「シルフィーやリシュハルトが頭がいいのは知っていたけれど、ソフィア嬢も頭がいいんだな。シルフィーより上だなんて驚いた」

「はい、私もびっくりしました!」


 よく考えたら人生二回目の私の成績はそこそこいい。二回目だからついていける。でも、これが一回目だったらって考えると……。私、勉強出来るのかな?

 でも、よく考えたら、頭良すぎてもいいことないね。リシューみたいに代表挨拶とか任せられるかもしれないし。うん、私はこれでいい。







「やっぱりこの学園の庭園は綺麗だね」


 リシューがそう言う。


 何度もこの学園には足を運んでいるけれど、やっぱり季節によって全然違う。何というか、今はすっごく華やか。色とりどりの花が咲き誇っているし、精霊も喜んでいる。光を振りまきながらくるくると………。








 これって、オープニング映像でありそうだなと思ったのが最初の感想だ。


 精霊がキラキラと舞っている中心から歩いてきているのはヒロイン、ソフィア様。私は精霊が好む魔力の質をしているらしいから、特に何もしなくても、精霊が見える。でも、一般的に精霊を見る為には、魔力を練らなければならない。私以外の人にはソフィア様のまわりがキラキラと光っているように見えているだろう。


 そうだ。小説の始まりって、こんな感じだった気がする。多分だけど。


 でも、これで、やっぱり小説の中だと少し思い知らされた。




 私の未来はやっぱり確定されていて、変わる事なんてないのだろうか。







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