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シルフィーは悪役令嬢ですが、何故か溺愛されてます  作者: ちぇしゃ
第2章

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040、怖くない訳ないですよね



 皆、沢山心配してくれた。涙を流しながら無事を喜んでくれた。普段涙を見せないお父様だって、泣きながら力強く私を抱きしめてくれた。

 アル様も私が起きたという報告を聞いてすぐに駆けつけてくれたみたい。現在進行形で私を抱きしめて離してくれない。でも、それが凄く安心する。アル様の温かさは私の心をそっと包み込んでくれる。

 ロバートだって、ナタリーだって、アンナだって、みんなみんな、私の事を想ってくれていた。嬉しい。幸せ。心がぽかぽかする。


 だから、もう『シルフィー』が愛されていないという心配はしていない。


 もう、大丈夫なんだよ。



 心の中で、皆に「ありがとう」と「ごめんね」をいっぱい言おう。


 愛してくれてありがとう

 愛を疑ってごめんね









 そういえば、今っていつなんだろう…?寝ていた時って時間の感覚が分からなかったから、今がいつなのか分からない。


 というか、私いまだにアル様に抱きしめられたままなんですけれど。頭を撫でられているままなんですけれど?どうして誰も止めないんでしょうか。ベッドにクッションを使ってもたれかかっている私の横にアル様は椅子を持って来て、私を正面から抱きしめている。ついでに頭を撫でながら皆と会話をしている。

 完全にお人形扱いですか?いいですけど。


 でも、何だか抱きしめられているだけって嫌だな。私だってアル様を抱きしめたい。ただでさえ、閉じ込められている時はアル様が恋しかったのに。

 そう思って、アル様を抱きしめるべく身を乗り出すけれど……。


(あれ…?)


 ベッドから降りようとした瞬間、足の力が抜けてしまった。


「シルフィー!」


 転びそうになるけれど、アル様が支えてくれた。アル様にお礼を言って立ち上がろうとするけれど、


(あれ……、体が動かない?)


 冗談抜きで足に力が入らなかった。え、もしかして心を殺した影響……?!代償が大きすぎます!……いや、心が元に戻ってきてくれたから、代償は小さいのかな?


「無理しないで、シルフィー。あなたは二週間以上動いていないのだから。」


 あ、違いました。単に動いていないだけですね。………え、2週間?!私、あの閉じ込められていた建物に何日いたの?………え、5日?じゃあ、9日はベッドにいたって事!?

 え、そんなに寝てないよ?!だって、そんなに朝と夜を繰り返した覚えがないもん!……意識は朧気だったけれど!


「シルフィーは丸一日眠っていた日が何日もあったからね」


 な、なんと!それじゃ、ほんとの眠り姫になってたんだ!……眠り姫って物語としては好きだけれど、実際に自分が眠り姫になったら素敵じゃないし笑えない。


 あと、あとね…、さっきから重大な心配事があるんだよね……。


 あ、来る。来る!


『ぐーーーーーーーーー』


 周りの皆が一気に静かになった。はい、懸念事項はこれです。お腹が空きました。とっても大きな空気の読めない私のお腹の音でございます。


 正直すっごく恥ずかしい!みんなの前でお腹を鳴らすなんて……!でも、しょうがないよね?!

 2週間何も食べていないんだよ?普通死んじゃうよね?


「お腹、すいたの…。」


 ひもじいという気持ちでお腹を押さえながら皆を見るけれど、皆は顔を手で覆って蹲ってしまった。


(あ、あの。本当にお腹が空いたんですけど。……ごはん、たべたい。)





 その後アンナがすぐにご飯の準備をするように伝えてくれた。ご飯を待っている間、


「お腹が空くということは、体が健康になろうとしている証拠ですよ」


 って言ってくれお医者さんはいい。だって間違ったことを言っているわけでもないし、揶揄っているわけでもない。

 でも、でもね。お腹が鳴った私を見て笑っているお兄様は意地悪だと思う。確かに心配かけた私が悪いとは思いますよ?だけど、女の子がお腹を鳴らしているのを聞いてそれを笑うなんて!


 ……拗ねますよ?


「おにいさま、嫌いです……」


 そう言ったら、お兄様は慌てたように謝ってくれたけれど、私のお腹がいっぱいになるまで許しません。

 ついでにそんな私達を見てクスクス笑っているアル様も同罪ですよ?







 しばらくしてから、アンナがここまでご飯を持って来てくれました。

 




 いくらお腹が減っていたとしても、流石に一度に沢山食べるのは良くない。私のご飯は当然ながらおかゆだった。長い間何も食べてないのだから仕方ない。上に溶いた卵があって、とっても美味しそう。

 スプーンを使ってゆっくり口に運ぶとそれは予想を裏切らない、いや、予想以上の美味しさが口に広がった。


「んまい」


 思わず、令嬢が使う言葉では無い言葉が口から出てしまった。でも、私はそんな事どうでもよくなるくらいおかゆに夢中だった。思わず涙が出そうだったが、おかゆに入ったら嫌なので我慢する。

 美味しい。美味しい。それしか考えられなくなってしまう。愛情がこもっているご飯はこんなにも美味しいのだと実感できる。

 油断するとがっつきそうになる。でも、流石にそれは令嬢としてマズい気がするので、お行儀よく食べます。美味しいっていう事と、今までの空腹が来ているのだと思う。食べたら食べただけお腹が空いているような心地だってしてくる。


 一口一口味わうように食べていて、4分の1を食べたところで手に違和感が出てきた。


(手がだるい…?)


 段々とスプーンを持つ手に力が入らなくなって来た。


 正直おかゆを掬って口まで持ってくるのがしんどい。……おかゆはあったかい方が美味しいけれど少し休憩しよう。


 ご飯を食べる私の手が段々とゆっくりになってきたどころか止まってしまったところを見て皆が私の顔色を窺ってくる。

 

「お嬢様、お腹いっぱいですか?」


 アンナは心配そうに私を見てくる。食欲が落ちたと心配しているのだろう。だが、安心して下さい。食欲は落ちていません。寧ろまだ食べたいです。お代わりしたいです。……え、一気にたくさん食べるのは良くない?……はーい。おかわりはもっと元気になってからしまーす。


「あ、あのね……」

「そうですね、2週間も食べてませんでしたもんね」

「えっと……」

「そうね、今日はこのくらいにしておきましょうか」

「え……」


 口を挟ませてくれないどころか、いつの間にか私の意思とは関係なく私のご飯タイムは終わろうとしている。


 そ、そんな……。まだ食べられるのに。寧ろお腹空いているのに。全然無理なんてしていないのに!そんなことされたら、私のお腹がさっき以上の抗議をあげますよ?!



 しかし、そこで救いが現れた。アル様は私の顔が絶望に染まった所も名残惜しそうにおかゆを眺めているところもしっかりと見ていたらしい。そして、私の手が段々ダルくなってきていた事も、私を見て分かっていたみたい。


「シルフィー、私が食べさせてあげるよ」


 そう言ってアル様は私から皿とスプーンを奪った。そして、おかゆを掬ったスプーンを私の口まで差し出してくれる。


 お、王子様にそんな事……、なーんて私が言うと思いましたか?


「あーん!」


 食べさせて貰えるのなら遠慮は致しません。今の私に食欲に勝るものは無い!

 おかゆ、うまうま。


「アル様、次!」

「はいはい」


 せかす私に笑いながら答えるアル様。何だか、こう見るとアル様って面倒見がよくてお母さんみたい。今度アルママって呼んでみようかな…、やめよう。怒られる気がする。


 アル様はそのまま、私が食べ終わるまで食べさせてくれる。


「呑み込めた?はい、口開けて」

「はい!」


 あったか、うまうま。もぐもぐ。夢中で食べていたら、いつの間にか完食していた。


「うん、よく全部食べれたね。美味しかった?」

「はい、美味し…、かったです…。」


 どうしよう。アル様が本当にお母さんに見えてきた。全部食べたら褒めてくれるって本当に私を子ども扱いしているよね。しかもそれに私は文句の一つも言えない。だって、食べたら眠たくなってきたんだもん。アル様に返事をしながらもう寝そうだもん。


「シルフィー、このまま寝てもいいよ」

「…あい」

 

 目をこするけれど、本当に睡魔に逆らえない。アル様は私をベッドに寝かせてくれ、そのまま頭を撫でてくれる。段々と瞼が閉じてきて、意識が……、


「お休み、シルフィーが寝るまでここにいるから」


 しかし、アル様の言葉でハッと目が覚めた。


「アル様、帰っちゃうの…?」

「うん。シルフィーが眠ったらね」

「や!」


 アル様が帰ってしまうのが嫌で、ついアル様の服を握ってしまう。


「アル様、帰らないで」

「シルフィー?」


 アル様も不思議そうに私を見てくる。でも、お願い帰らないで。一緒にいて。


「シルフィー。そういう訳にもいかないだろう」


 お兄様が諭すように私に話しかけてくる。大好きなお兄様のいう事はいつも正しいし、聞きたいけれど、今日は、それだけは聞けない。

 

「やぁ!アル様と一緒!」

「シルフィー、我儘を言ったらだめだよ。殿下だって戻らないといけないんだから。」

「や!おにーさま、嫌い!」


 お兄様はさっき以上にショックを受けた顔をしていたけれど、そんなのに構う暇はない。


「やぁなの!一緒にいるの!」


 やだ、我儘言いたくないのに。泣きわめくなんて、これじゃあ、3歳の頃と一緒なのに。

 でも、だって。怖いんだもん。また、寝いている間にどこか違う所に居たらって考えたら、もうきっと眠れない。……眠りたくない。


 でも、やっぱりアル様がいい。あの温かさが欲しい。深く深く、心を癒してくれる存在がないと落ち着かない。


 そうしたら、明日も頑張れるから。明日からも頑張れるから。


「今日だけでいいの……。一人は嫌なの……。」


 私のこの言葉を聞いて、アル様とお兄様はハッとしたようにこっちを見た。それから、お兄様はアル様とお父様と何か話をして諦めたように、「今日だけだぞ」って言ってくれた。


「ありがとう、お兄様!」


 だから、もう嫌いなんて言いません。お兄様落ち込まないで!





 のちに聞いた話によると、お兄様がアル様を泊める事に反対していたのは、兄より先に他の人を頼った事を悔しく思ったかららしい。


 ……そこは普通、未婚の男女が泊まる事を反対するんじゃないですか?……え、お城にも泊まったりしているから今更?…そうですか?





 という訳で、アル様は今日ここに泊まっていってくれます!正直、アル様の意見を聞かずに我儘をいった自覚はすっごくあります。でも、あの後アル様も泊まる事を笑顔で了承してくれたから良いということにしてください。


それで、アル様がどの部屋に泊まるかって?そんなの私のお部屋に決まっているよね!


「アル様は私のお布団でお休みするの!」

「だめだ!」


 うぅ…今度はお父様が反対してくる!!別々に寝たら、一緒に寝てくれないならアル様に泊まってもらった意味は無いのに!


「や!」

「だめだ。」

「やぁ!」


 こんなに駄々をこねるなんて、私らしくない。でも、だって……


「だって、お城でもアル様がずっとぎゅっとしてくれたもん!」


 これを言った途端、お父様は凄い勢いでアル様を見て、アル様は凄い勢いでお父様から目をそらした。 

 あれ、これ内緒だったのかな?


「アル様は私と一緒、や…?」


 私はお父様よりアル様を説得した方が早いと思い、アル様におねだりをすることにした。するとアル様は凄い勢いで「嫌な訳がない!」と言ってくれた。よし!このままアル様を説得だ!


「アル様、一緒にねよ…、め?」

「勿論!いい…」

「ダメです!」


 せっかくアル様がうなずいてくれそうだったのに!お父様め!


「父上、取り敢えずここは殿下の意見を聞こうよ」


 お兄様、ナイスアイディア!私は期待を込めた目でアル様を見つめてみる。

 おねだりの方法は心得ています!


「アル様……、お願い?」


 うるうるとアル様を見つめてみます。だからお願い、アル様を怖い目で睨んでいるお父様を見ないでください。


「きょ、今日はシルフィーと寝ようかな」

「!!」

「ほんと!?」

 

 やったぁ!お父様に勝った!……違う、間違えた。お父様との勝負じゃなかった。これでアル様と一緒に寝れる!…お父様、もう反対しないよね?お父様は苦渋の顔をして「仕方がない…」とうなずいた。


「アル様、一緒に寝るの!」

「うん、一緒に寝ようね」


 よし、今夜の安眠は確保されました!


 お父様が傍でうなっているのなんて気にしません。





 現在、私のお部屋でアル様と二人きりです。お休みの時間だから、他の皆はお部屋から出ていってしまいました。


「着替えとかなら俺のを貸すから」


 お兄様がそういってくれたため、お風呂から上がったアル様はお兄様のお洋服を着てます。そんなアル様に私はべったりとくっついています。いつもするアル様の匂いと一緒にお兄様の匂いもします。


「アル様、ぎゅー」


 いつもよりアル様の匂いが薄いのが気に入らない。だからもっと抱き着いてアル様の匂いを嗅ぐ。……なんか私変態みたい。


「もっと、ぎゅー」


 そう言ったら、アル様ももっと力強く抱きしめてくれた。アル様の首元を嗅ぐと、アル様の匂いが一層強くなった。幸せ。……やっぱり変態みたい。

 何だかさっきからアル様がフルフル震えているけれど、どうしたんだろう?





「アル様、今日も我儘……、ごめんなさい」

「どうしたの、急に」


 アル様は抱きしめたままの私の顔を覗き込む。

 私は安心出来たけれど、よくよく考えたら、本当に王子様に言ったらいけない我儘だったよね。だってアル様は優しいから。


「アル様、あのね、いっぱいお話してくれて嬉しかったの。」


 アル様はお見舞いに来てくれた時、いつも色んな話をしてくれた。


『お城のパティシエが新しいケーキを開発したから一緒に食べよう。』

『城の庭に綺麗なアネモネが咲いたから、見に行こう。』

『今度素敵なドレスを送るね。勿論るぅとお揃いの物を。そうしたら一番に見せてね。』


 全部、全部。私が治るっていう事を信じているから。私が未来に期待できるような言葉をいつも投げかけてくれた。本当に嬉しかった。

 毎日、忙しいのに、来てくれた。そして、話かけてくれた。普通なら諦めるのに。


「本当に嬉しかったの」

「……」


 アル様からの返事は無かった。不思議に思った私は顔をあげて、アル様を覗き込んで驚いた。



 アル様は静かに涙を流していたから。



 アル様の涙、初めて見た。アル様は私が元に戻るという事を信じてくれていた。でもそれは確証があった訳では無い。怖く無かった訳が無い。『もし、戻らなかったら…』そう考えなかった訳が無い。

 声も出ない。体も動かない。意識もあやふや。目に力もない。食事だって食べられない。こんな私に希望を見い出す事が出来るはずがない。でも、それでも。アル様は私を信じてくれたんだ。私自身ですら信じれなかった私の事を。


「アル様、ありがとう。大好き。」


 私はそっとアル様を抱きしめた。







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