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第46話「昔話」

 建国祭2日目の朝、オレは洗面台で顔を洗って身支度を整えていた。

 やっぱりヒゲは生えてこないのか。

 まあ元々体毛が薄い方ではあったのだけれど、生え始める前に体の成長が止まっちゃったもんだから、17になった今でもまったく生えてこない。

 正直なことを言うとちょっと憧れていたんだが、まあ仕方ない。

 何十年後になるかわからないけれど、ガイアの件を解決するまでは当分お預けかな。

 髪の毛に霧吹きをかけてクシで寝癖を直していた時、ふと前髪の隙間から例の傷跡が見えた。


 「(いまし)めるべき記憶を決して忘れずに一生を過ごしてゆくこと、今の君にできるのはそれだけだ」


 そう言うトトの顔が一瞬脳裏によぎる。

 オレは無言のままクシを持ち直すと、傷跡の位置の前髪をかきあげてセットし直した。

 朝食にサンドイッチを食べていた時に、いつもと違う髪型と傷跡について同じ机を囲む何人かに指摘されたけれど、トトは依然として何も言わなかった。

 何故か、ガイアも何も言わなかった。


 アサーラが来るのは10時。

 それまでは特にやることもないので、オレは図書館の整備や掃除を少し手伝っていた。

 姫を招き入れるため机を撤去して美しい柄の絨毯を敷き、棚という棚の埃を取り除いたので室内はまるで新居のようにピカピカだ。



「これ、靴脱がないで上がっちゃって良いのか?」


「構わない。汚れを取り除く術を(ほどこ)しているから、泥などが付着したとしても数秒すれば清潔になる」


「ひみつ道具かよ…」



 魔法みたいってか魔法なんだよなこれ。

 本当、便利なもんだよなぁ。



「さて、これで準備は終わりか。……そうだ、確か茶が切れていたか」


「それなら経津主(ふつぬし)に頼んでおいたよ」


「ああ、助かる。では私たちは湯を沸かして後は待っていよう」



 姫が来るまでの1時間ほど、オレとトトは談話室の中で話していた。

 何気ない日常会話だったが途中でガイアとジュリアーノが混ざってきたのもあり、思いの外盛り上がって時間はあっという間に過ぎていく。



「でもすごいねぇ。まさかその年で無詠唱魔術が使えちゃうなんて」


「ありがとう。でもあれは咄嗟のことだったから、真の意味で使えたとはいえないよ」


「だが(よわい)16でその片鱗を見せるとは実に珍しいことだ。才覚かはたまた努力の証か、どちらにしろ君ならばすぐに使いこなせるようになりそうだな」


「そうだな。……けどお前、最近成長が目覚まし過ぎやしないか?オレなんかあれだけ経津主に修行つけてもらっても未だに十二公と対等に戦えないし、なんだか(まばた)きの間にもドンドン置いてかれてる気がするぜ」


「そんなこと言われても、僕だってもっと強くなりたいもの。なんなら、『もっと厳しくして』って経津主に言っておいてあげようか?」


「や、やめろ!!ただでさえアザまみれになるのに!!」



 そんな様子で雑談をしていた頃、屋外では住宅街から図書館まで続く整備された一本道に、こちらへ真っ直ぐ進む5つの影があった。

 そのうち長いマント姿で先頭を小走りする小さな影は、一度振り返ると後ろの4人を急かすように手を振り、また向き直って走り出す。



「お待ちください!アs……シャーム嬢!!」


「みんな遅過ぎますわー!早く早くー!」



 そう言って石畳の上を金色のハイヒールでツカツカと音を立てて走っていくアサーラ。

 風でなびくクリーム色のマントの中から見え隠れするドレスの装飾が、照り輝く太陽光を反射して星空のように煌めく。



「なんなのよ…広場じゃあそこまで元気じゃなかったのに、図書館に行くってなった途端あんなにはしゃいで……」


「王宮と図書館とじゃ結構な距離があるからな、立場が立場だし僕らが想像するよりも滅多に訪問できないのだろう」


「だからって図書館如きであんなに興奮できるものなのか?見る景色の違うヒトの思考は理解に苦しむ…」



 ポロポロとグチをこぼしながらも、緩やかな坂道を走って登っていく。

 ついに坂を登り切って姿の薄れ行くアサーラにシャジェイアは走るスピードを上げ、その後を追いかけて行った。

 そんなこんなでたどり着いたフォウスサピエンティア図書館。

 取り残されたサイファルたちは少々息を切らしながら歩いて入り口へ進んでいく。

 と、木製の大扉の前によく見慣れた顔を見つけた。



「あれ、経津主。もう来ていたのか」



 入り口横の柱の近くの木陰で壁にもたれながらふてぶてしく腕を組む経津主。

 サイファル視点からは図書館へ向かう前に「使いがある」と言って出店の方へ行ったきりであったから、てっきりまだ追いついていないものだと思っていたようだったが、彼はサイファルたちより一足早く到着し入り口で留まっていた。



「入らないのか?」


「ああ。図書館内はトトの腹の中も同然だ、俺一人いなくたって十分安全だろ」


「確かにそうだが、外で待っている必要はないだろう」


「アア?怪しい輩が近づかねぇようにここで見張ってんだろうが。わかったらさっさといけよ、多人数じゃ怪しまれる」



 早く立ち去れと言わんばかりにシッシと手で払う経津主に、サイファルは「そうか」とだけ言って他2人と共に扉を潜っていった。

 


「……どうやら、姫一行が到着したようだな」



 世間話の途中、おもむろにに眉をひそめたトトがふとそう呟いた。

 オレはこんな奥にいても図書館に誰が入ってきたとかわかるのかと感心しつつ少々疑問にも思ったが、仕組みを考えたところで納得のいく回答が出るわけでもないので、魔法ってそういうもんだよなァと心の中で呟いた。



「本当ですか?ならお出迎えしないと、僕行ってきます!」



 そう言って談話室を飛び出して行ったジュリアーノに、オレも後を追ってついていく。

 図書館の中は整頓されているものの、果てしなく続く十字路の羅列の中ではそこそこ慣れたオレですら気を抜けば迷子になりかねない。

 経津主がついているけれど、一応な。

 それに一国のお姫様をお迎えするのだから、一つの礼儀として招聘するのが筋と言えるだろう。


 少し歩くと、入り口近くのソファに腰掛けている姫たちを見つけた。

 彼女は歩いてくるオレたちの存在を視認すると、「ケンゴ様、ジュリアーノ様!」とこちらへ駆け寄って来た。

 出迎えに感謝し一礼するアサーラにオレたちも一礼を返し、早速彼女らを事務所へと案内した。

 経津主がいないようだが、サイファルいわく入り口に留まっているらしい。

 何をやってるんだアイツは、もしかして頼んだお茶をうっかり買い忘れてそれが言い出しにくかったとか?

 プライドの高いアイツのことならなんとなく想像がつくな。

 まあ1回分くらいならまだ残っているし、飲み終わるまでに間に合えば良いか。


 事務所の扉を開けると、他のみんなとはそこで一旦解散した。

 生き字引に歴史を学ぶといっても、今回の本題となる内容は彼らにとっては胸糞の悪いものとして認識されている。

 目的は歴史の疑惑を解決することであり、その鍵を握るのはトトだ。

 大人数の前では話しづらいこともあるだろう、みんな、特に大いに興味を示しているジュリアーノにはちょっと申し訳ないけどな。

 扉を閉めようとした時、ふと背後からオレの名を呼ぶシャジェイアの声が聞こえた。

 振り返ると彼は、少しかがんでひっそりとオレに何かを手渡す。



「トト様の魔術を疑っているわけではない、しかし万が一がある。念の為お前もつけておけ」



 見ると、それはヒマワリの種程に小さなバッチのようだった。

 彼に言いようからおそらく発信機的なものであると予想ができる。

 なんと抜け目の無い、さすがは王室直属の近衛兵隊長だ。

 こういう小さな気遣いが護衛対象の生死を分ける重要な存在となるのだろう、冒険者としてオレも見習うべきか。

 オレは何も言わずにただ力強く(うなず)き、ゆっくり扉を閉めた。


 短い廊下を渡って談話室に入ると、すでに茶を用意したトトが1人でカーペットの上に腰掛けて静かに待っていた。

 「お邪魔いたします」と言って足を踏み入れるアサーラに、オレはカバンと羽織っていたマントを預かりついでに彼女の肩付近に先ほどのバッチをつける。

 ついでにオレもうなじの近く、背中の見えにくい位置にしっかりとつけた。



「姫、そこではなくこのクッションを使いなさい」


「いえ、ここで結構ですわ。私はあくまでお邪魔している身、お話しをしてくださるトト様こそお使いくださいませ」


「そうか」



 トトはティーポットの茶をカップに注いでそれぞれの前に置くと、用意してあった緑色のビーズクッションを自分のところまで引っ張り、上に腰掛けた。

 姫様謙虚だなぁ。

 あんなにヒールの高い靴を履いているのに、座り辛く無いのだろうか。

 


「さて、何から聴きたい」



 アサーラが茶を一口飲んだタイミングで、トトがそう切り出した。

 すると彼女は待ってましたと言わんばかりに懐から何やら紙切れのようなものを取り出してトトへ見せる。

 覗いてみるとそこには小さな文字の羅列が端から端まで、まるで獲物に群がる蟻のようにびっしりと書かれていた。

 あまりの集合体に思わずのけぞるオレ。



「お伺いしたいことがありすぎてここ3日間必死になってまとめたのですが、恥ずかしながら(わたくし)にはこれが限界で……」



 少々恥ずかしそうに頬を染めるアサーラだが、トトはメモをじっくりと呼んでから至って涼しい顔で「構わない」と言って見せる。

 そんな彼に、アサーラの顔はパアッと明るくなった。



「では時系列の順に話して行こう。まずはアスラ大戦か。随分と大昔の話だが、これは私も参加した」


「現地へ出向かれたのですか?」


「ああ。神々を背に乗せて戦場を飛び回り情報の伝達や救護活動、また物資の補給などをしていた」


「戦闘には?」


「いいや。私は戦闘経験というものが皆無に等しい。故にたとえ値の付けられないような神器を与えられたとしても、あの場では一般兵と同等か、それより少し上ぐらいの活躍しかできなかっただろう。ただ、先ほども言った通り神々を背に乗せて戦闘の補助をすることは度々あったな」



 なるほど、戦時中トトは完全なるサポートに徹していたということか。

 確かに彼が剣や槍を振りかざして善戦するような姿はあまり想像ができない。

 しかしトトの背中に乗って空をとびまわるなんて、きっと走るよりもずっと気持ちがいいだろうなぁ。

 いつか機会があれば、ぜひオレも乗せてもらいたいものだ。



「星空神ウラノスについてはいかがですか?」


「ウラノス……一言で表すなら真なる正直者か」


「真なる正直者…ですか…」


「ああ。直接相対したのは戦場で遠目からの数回と、タルタロスへ連行するために拘束した際の一度だけだが、それでも彼の人格というのは少しだけ掴めたと思う。筋骨隆々な体躯でありながらもその言動はまるで子供のようで、とにかく自分の意志と願望に嘘をつくことを知らない様子だった。また己がそうでありながらも原初神を殺すことにへの異常なまでの執着を持ち、アスラ族と同様 負傷も気にかけず、最後は暴走した列車のように、その屈強な体で特攻を試みた」



 特攻!?

 なんてストイックな……自分の怪我も(かえり)みないとか、やっぱ原初神って脳筋の集まりだったりするのかな……。



「そういった彼の性分から言ってみれば、星空神ウラノスは真の意味での正直者だと言えるだろう。しかし、その行動の内にある目的に関しては未だ謎が多い。特に大きな謎が、何故原初神の命を狙ったのかということ」



 ガイアいわく、原初神はこの世界において世の中の均衡を保つ役割を担っている、神々の中でも特に重要な存在。

 この世の摂理のほとんどは彼らによる産物であり、それらの管理をするのも彼らの役目だ。

 そんな原初神の命を狙うだなんて、11柱の役割をたった1柱で担い切れるわけがないし、だとすれば世界を破壊する以外理由なんて考えられない。

 けど普通、自分たちが長い長い時間をかけて作り上げてきた創造物を、自らの手で壊したいだなんて思うか?

 ある種族を従えているあたり、ヒトビトに絶望したとかなわけではなさそうだけど……。



「彼と親交の深かった原初神達も見当がつかないということだった。何か思い違いがあるのではと説得を試みたこともあったそうだが、やはりどうしようもなかったため、最後は武力行使でケリをつけていた」


「とても強い自我を持った方でしたのね。その意志を世界維持のために役立てられたらどんなに良かったことか……いえ、直接会ったこともない私が言うのは無粋ですわ。ちなみに、その最後の武力行使というのはやはり原初神が?」


「ああ。確か原初の天空神が彼と数日間殴り合っていた」



 素手喧嘩(ステゴロ)!?

 やっぱ原初神って脳筋だわ……世界を巻き込んだ戦争のクライマックスが拳と拳のぶつかり合いって……しかも数日……一昔前の少年誌かよ…。

 てか原初の天空神ってアイテールじゃん。

 そう考えるとあのヒト結構すごいんだな。


 その後もアサーラは質問を続け、トトがそれに答えていくような形で話は進んでいった。

 時間が進むにつれアサーラの興奮度合いが増していくに連れ質問の数や濃さも増していったが、トトは全く狼狽えることなく、まるでWEBで検索をかけているかのように淡々と答えていく。

挿絵(By みてみん)


 談話室で盛り上がりを見せている賢吾たち3人とは裏腹に、図書館の外では経津主がなおも1人で入り口前に留まっていた。

 すると、前方の方から1人の少女が歩いてくる。

 経津主がまぶしい日差しに目を細めながら見てみると、それは何やら木箱のようなものを背負ったシェファであった。



「あ…経津主さん」


「お前、こんな時間に何しにきたんだ」


「えっと、広場の本を入れ替えにきました。経津主さんは何を?」


「ある人の付き添いでな。もし事務所まで行くんなら、これ持ってけ。頼まれてた茶だ」



 そう言って経津主がシェファに渡したのは小さな紙袋。

 中には小綺麗に包装された紫色の茶葉が一袋入っている。

 今朝任務に着く前の彼にケンゴが頼んだものだ。



「あ、ありがとうございます。でも大変だったでしょう、出店ばっかりでお茶屋さんなんて全然無かったですし」


「まあ時間はかかったな。あと、ついでにケンゴも呼んできちゃくれねぇか」


「え…ケンゴさんですか?」



 経津主が出した意外な名前に、シェファは不思議そうな顔をした。

 それもそうだ、彼女は賢吾たちが理由あってしばらく外出できないことも、そのせいで今回の護衛任務に引き続き経津主が出向くことになったことも知っている。

 故にその当事者にいる彼の言動としては、少々引っかかるものがあったのだ。



「だ、大丈夫なんですか…?確か当分外に出ちゃいけないって聞きましたけど…」


「入り口ならさして問題はねぇ。もし襲われそうになったら力ずくで扉の内へ押し込んじまえば良いからな。それに、俺がいりゃ少なくとも大事にはならねぇだろ」



 そう言われたシェファは確かにと納得の意を見せたが、その表情にはなおも不思議さが混じっていた。

 しかし、それはそれとして確かに茶葉が足りず経津主がお使いを頼まれていたのは事実であるし、客人を迎えることもトトから聞いていたので、シェファは自分を無理矢理に納得させ、渡された紙袋を大事に抱えながらそそくさと図書館へ入っていった。


 一方その頃、談話室では話の山場をいくつか越え、さすがに口の中が乾いてきてトトがちょうどお茶を一杯飲み干したところだった。

 


「なるほど……やはり感情的な理由が絡んでいたのですね。論理的整合性を求めすぎましたわ。どんなに昔の方々も私と同じ理性を持った生き物ですものね」


「ああ。価値観や知識量が変わろうとも、どの時代においてもヒトの本質は変わらない。強い感情は行動を起こす何よりも特出したエネルギーとなり得る」



 俯瞰的(ふかんてき)に書物を読んでいるだけでは完全なる理解には及ばない。

 そういった点から言えば、こうして実際に経験したヒトに話しを聴けるというのは非常に貴重な機会だと言えるだろう。

 オレも前の世界にいた頃、家族旅行で行った沖縄で現地のお婆さんからこういう話しを聴いた。

 小さかったもんであんまり覚えてはいないけれど、ああいう話しを直接聴けるのは今の時代すごく貴重なことなんだろうな。

 5千年前とか、前の世界じゃ資料が残っているかすらも怪しいもんな……。



「次は……フム、シャンバラ龍王国の毒災についてか。このことについてはまず、シャンバラについて説明した後の方がより理解しやすいだろう」



 そう言うとトトは棚の引き出しから地図を一枚取り出し、床へ広げた。

 デッカ!!

 机1個分くらいあるかな……っていうか、この世界のちゃんとした地図見るのって何気に初めてかも。

 地図には3つの大陸が海に(へだ)たれて描かれている。

 左側を埋めるように広がる1番大きな大陸が『中央大陸』、中央大陸の右下、端っこで陸続きになっているのが『魔大陸』、そしてその上側で他の大陸とは一際遠く離れているのが『カノン大陸』。

 オレたちがいるのは中央大陸で、このミフターフはその右下端に位置する大きな国だ。

 そして、トトの言っているシャンバラというのは、ミフターフのちょうど上にある、四方を険しい山々に囲まれた『シャンバラ龍王国』という国の跡。



「シャンバラの地下には巨大な地下水脈がある。それらはこの周辺のあらゆる水源から湧き出し、かつてはシャンバラの民もまたその周辺の国々もこれら水源に多く頼っていた。しかし今から約500年の昔、ほとんど前触れや兆しも無く突如として猛毒が湧くようになった。概要については知っているか?」


「はい、存じております」


「そうか。この災害が世界を巻き込んだ大厄災になったのは、なにも湧き出た毒のせいではない。この地を治めていた“龍王”たちの暴走も大いに関わってくる」


「龍王…?龍王ってまさか、アスラ大戦にも参加したっていうあの八大龍王?」


「そうだ。龍王の力は神にも匹敵する。それぞれが固有の非常に強力な能力を持ち、一国を治める王でありながらも自ら戦場へ(おもむ)き善戦を遂げる、その名に恥じない威厳ある者たちであった」



 これもガイアが言っていた、アスラ大戦の後半に参戦したという八大龍王。

 前の世界でもその名前はチラッとだけ聴いたことがあるが、あまり調べたことがなかったので詳しいことはわからないが、仏教神話において釈迦に支えたとされる8人のナーガの王、つまり龍の王であったと記憶している。



「しかし、強力な能力を持っているが故にそれが制御できなくなった時の被害は甚大だ。実際、その爪痕は今でも周辺の国を蝕んでいる。それが特に顕著なのがアウローラ公国だ」


「アウローラって、ジュリアーノの故郷じゃないか」


「ああ。アウローラには冷涼の能力を持つ阿那婆達多(アナバダッタ)龍王の吐き出した氷が今でも地下深くに残っている。それらは氷脈と呼ばれ、今では封印の術で押さえ込まれているものの、当時は多くの死傷者を出した」



 地下深くに残る氷?

 まさか、グライアイのダンジョンで見たあの氷の部屋と何か関係があるのか?

 氷柱に閉じ込められたジュリアーノと瓜二つの女性についても何かわかるかも。



「ミフターフにおける被害は知っての通りだ。地表に染み込んだ毒により北の地下水が汚染され、一時期は水分の確保が困難になり作物もろくに育たず、飢饉(ききん)に瀕していた。定期的な配給はあったものの、それも全国民が生きていくためには不十分。しかし飢えに苦しむ民とは裏腹に当時の国王であったメルクリウスは、毎日健康的な肌に煌びやかな衣装をまとって配給の場に顔を出していたために反感を買い、積もり積もった結果国内で大規模な反乱が起きた。そして牢に囚われる間も無く斬首刑となり、その後政権は反乱軍の指揮をとった者へと渡った」



 今聞いても本当に残酷な話しだ。

 しかし、この歴史には隠された秘密がある可能性があるのだ。

 トトの話を聞き終わったあとアサーラはおもむろに立ち上がると、先ほどオレが預かったカバンに手を伸ばし、中を開けてあるものを取り出した。

 それは先日彼女が王宮で見せてくれたメルクリウスの日記。

 手に持たれた日記を見つけたトトの表情は、今までに見たことがないほどの驚きに満ちていた。



「それを……どこで……」



 落ち着いた声色を演じているようだが、少しの震えが混じっているせいで全く動揺を隠しきれていない。



「父の書斎で歴史書を拝借した際、本棚の底へ隠すように置かれていたところを見つけました」


「……読んだのか」


「はい」


「…」



 先ほどとは一転、トトは(うつむ)き口元を押さえ、冷や汗をかきながら激しく動揺している。

 こんなに落ち着きのない彼を見るのは初めてだ。

 トトは今にも喉の奥から飛び出しそうな心臓を必死で押さえ込み、ゆっくりゆっくりと呼吸を整える。

 そして、数十秒の時間を空けてからアサーラが再び切り出した。



「この日記はどこのページを開いても感謝や愛情で溢れています。特にミフターフの民や貴方に対するものはより素晴らしい内容ばかり。私はこのような文章を書ける方が、民を(しいた)げる愚王だとはとても思えません」



 アサーラは今までにない真剣な眼差しをトトに向ける。



「どうかこの私に真実を教えてはいただけないでしょうか。どのような残酷で悲しいことでも受け止めます。お願い申し上げます。トト様!」



 そう言って頭を胸に手を当てて深々と頭を下げるアサーラに、オレも「オレからも頼む」と言って同様に頭を下げる。

 その状態で再び流れる沈黙。

 しかし数十秒が経った頃、黙り続けていたトトがやっと口を開いた。



「……回収…したと思っていたのだがな…全て………そうか…おそらくは彼が亡くなるまでの半月の……」



 聞いたこともない低く重々しい声に、オレとアサーラはただ黙って頭を下げ続ける。

 すると



「……わかった……わかったから、どうかその顔をあげてくれ……」



 そう言われ顔をあげてみると、トトは青ざめた表情で額から汗を流していた。

 やっぱり、何かあるんだ。

 またも流れる長い沈黙の中、激しい動悸を深呼吸で押さえ込み、やっと落ち着いてきた頃トトはポツリポツリ話し始めた。



「……概要は知っての通り…結果も同じ……だが、君の言うとおりだ…彼は愚王などではなかった…」



 大きな深呼吸を挟み、トトは続ける。



「メルクリウスは実に温厚篤実…お人好しという言葉があっているだろうか、とにかく不幸な者を放っておけない奴だ。しかし自分の心に従うまま己が力量を見誤るようなことは決して無く、むしろその器に見合う力と精神の強さも併せ持つ……まさしく一国の王に相応しい人物であった」



 トトの語るメルクリウス王の人物像は、伝えられていた歴史とは全くの真逆だ。

 聖人と呼べるほどによくできたヒト、そのような人物がなぜ愚王などと言い伝えられてきたのか、(はなは)だ疑問である。



「私は彼が自らを“ヘルメス”と名乗っていた頃からの付き合いだ。古くから彼と親交の深かった私は、アスラ大戦からしばらく後にミフターフ地方を持ってアウローラから独立すると言い出した彼と共に、このミフターフ王国……いや、以前は神国か…この広大な砂漠に皆で協力して立ち上げたのだ」



 この話は先ほどもアスラ大戦の話の後に少しだけ聞いた。

 国境が離れているが故に完全な統治が難しかったこのミフターフ地方を、トトとメルクリウスの二柱が頭になり神国にした。

 だが、オレたちが知りたいのはもっと後のことだ。



「政治知識の乏しい奴ではあったが、真摯でありながらも狡賢(ずるがしこ)い上に人懐っこい性格で、人を惹きつけ心を開かせという点において、彼は天性の才覚を持っていた。実際、私もまんまとそれに乗せられたよ」



 トトの口角がうっすらと上がった。

 楽しかったことでも思い出したのだろうか。



「かつてのミフターフの民は彼を愛し、彼も民を心から愛していた。口を開けば小1時間語り続けることもザラではない。そして、それは処刑前日も変わることはなかった……」


「……何があったのか、教えていただけますか?」



 そう問うアサーラに、トトは再び暗くなった顔を沈黙のまま縦に揺らす。



「シャンバラの毒災が残した厄介な遺物は、毒と龍王の残穢(ざんえ)だけではない。あれは、ある醜悪な呪いもこの地に残していった」


「あ、それってもしかして…魔力を感知できる者にだけ苦しみを与えるっていうヤツ?」


「そうだ、よく知っているな」



 ジュリアーノの杖の素材を手に入れるため神獣ヴァリトラと戦った際、ガイアやベルが洞窟内で不調を訴えた。

 特にヤツの巣まで降りていった経津主は叫びのたうち回るほど苦しみ、後にがしゃどくろからそれは呪いの影響であることを聞かされた。



「私も初めはそう考えていたのだ。前例がない、似通った術も見当たらない。ただ苦しみを与えて暴走を引き起こすだけの代物だと、そう考えていた。……だがな…」



 一拍を開け、トトは低い声で呟く。



「呪いは、人族(ひとぞく)にも影響を及ぼす」


「「!?」」



 それを聞いた瞬間、オレは全身の毛が逆立つような感覚に襲われた。

 彼の一言がそれだけ恐ろしいことか。

 一国を滅ぼした元凶の一つである呪いは、魔力を感知する者たちだけではなく、感知のできない人族にまで効果を発揮するというのだ。



「魔力を感知できる者が侵されれば苦しみの果てに理性を保てなくなり、暴走を余儀なくされる。そして、そのほかの者の記憶から徐々に存在が抹消されていくのだ」


「そんな……なんて酷い」


「メルクリウスは責任感の強い奴だ。汚染された水質の調査に(みずか)(おもむ)いたと日記にも記してあった。きっとそこであの呪いに侵され、民の記憶から彼の存在が薄れていったのだろう。だが彼は王として民の前に出続けた。大きな恩を受けたかつての記憶が消え、厳しい環境で荒んだ当時の民の目には、たとえ彼らを勇気づけようと気丈に振る舞った彼の様子でさえも、飢える自分たちを嘲笑うかのように写ったのだろう」


「でも、何でメルクリウスは暴走しなかったんだ?ヴァリトラや経津主があそこまで苦しんだ呪いだし、たとえディーコンセンテスの神だって耐えようと思って耐えられる物じゃないだろ?」


「それはおそらく、以前君たちにも渡した咲耶島(さくやじま)の桜の花弁のおかげだ。昔旅をした際に鎧銭(よろいぜに)で手に入れたものを服用していたのだろう、花弁一枚といえど咲耶姫(サクヤヒメ)の浄化術は強力だ。完全に消し去ることはできずとも進行を抑制することはできる」



 ヴァリトラの巣で経津主が苦しみ出した時も、あの花弁を一枚服用させて巣から遠ざけたら見違えるほど元気になっていた。

 しかし、毒災が起きてからメルクリウスが処刑されるまでは数ヶ月の期間が空いている。

 その間ずっと花弁だけで耐えていたってのか?

 なんて忍耐力だ、オレならきっと1週間と耐えられない。



「民は呪いに侵されているわけでわないので痛みや苦しみは全く無い、記憶が薄れても自然に思い出すことはない。自覚できる症状は何も無いのだ。だから私も、手遅れになるまで気がつけなかった。毒の中和薬の錬成にのめり込み過ぎたばかりに……。せめて、彼への反感が出始めた頃、あの時に感じた違和感に目を逸らさず向き合っていれば、少なくとも彼が汚名を被ることはなかったのかもしれない」



 そう言うトトの表情は目の当たりに被された右手に隠されて全く見えない。

 だが、低く不安定な声からこの事件へ心の底から後悔を抱き、非常に重たく思い詰めていることがうかがえる。

 何度も言うようだが、こんなに感情を(あら)わにするトトを見るのは初めてだ。

 それだけこの事件が彼の心に大きなトラウマを植え付け、深い爪痕を残したということ。

 神だって理性と感情を持った生き物なんだ。



「……何か、民が記憶を失わない方法はなかったのですか?皆がメルクリウス様のことを忘れても、トト様はこうして彼のことを詳細に覚えていらっしゃるではないですか」


「ああ。それは私が呪いの効果に気がついた際、彼の日記を片っ端から読み漁ったからだ。知っての通りこのフォウスサピエンティア図書館にはこの世のあらゆる書物が保管されている。それはたとえ個人の日記でも例外は無く、この世に書という媒体として生み出されたものは全て複製がこの中で生成され保管される。だから、ここには彼が5000年間書き続けた日記が全てある。私はそれを、彼の肉体が滅び朽ち果て呪いの効果が薄れるまで読み続けた」



 なんて気の遠くなる作業だろう。

 友人1人を忘れないためにそこまでの時間と労力を注げるだなんて、彼にとってのメルクリウスはよほど大切な存在であったに違いない。



「…悲し過ぎますわ…あまりにも……。そのような素晴らしきお方の最後としてはいささか残酷が過ぎます。せめて死後の世界では安寧を…」


「感謝するよアサーラ姫。…しかしだな、彼はまだあの世へは行っていないのだ」


「…え?」



 少し、言っている意味がわからなかった。

 あの世へ行っていない?

 それは生きているという意味なのか?

 不思議そうな顔のオレをよそ目に、トトはティーカップの中の茶を一口飲む。



「地下水を侵食する毒のほかに、当時のミフターフにはより大きな問題があった。大規模な雨季の対策だ」


「雨季?」


「ああ。隣国シャンバラでは毎年4月から10月辺りにかけて大規模な雨季が来る。加えてそれは3年周期で数倍近く巨大な雨雲が発生し、あの天高く反り立つ岩山さえも越えて隣国にも豪雨をもたらす。それはこのミフターフも例外ではなく、国境付近である北部には大規模なスコールが度々発生していた」



 砂漠で大雨って想像つかないな。

 そういえば4月から10月ってオレたちがミフターフにいる期間と丁度かぶっている。

 それに、3年に一度という周期も国を囲む砂嵐が発生する周期と同じだ。



「例年通りであれば問題はない。しかし、厄災後シャンバラの水へ接触することは自殺にも等しい行為となった。そのため、シャンバラの山を越えてやってくる雨雲が撒き散らす豪雨は今や毒の雨」


「そんなものが半月も続くとなれば、いずれ地下水脈の全てが汚染されて、人が住むことすらままならない地となってしまいますわ…」


「ああ。しかしだ。ミフターフを滅ぼしかねないその豪雨というものは、ここ500年一度たりともこの砂漠へ水を落としたことはない。何故ならば、ほぼ同時期に発生する巨大な砂嵐がミフターフにやってくる雨雲を全て飲み込み、原子に分解して魔素を吸収し、跡形もなく消し去ってしまうから」


「ミフターフを他国から切り離す厄介な砂嵐が、実はこの国を守っていたってこと?でも、それとメルクリウスがその……あの世へ行っていないっていうのは、どう関係するのさ」



 オレの質問にトトは少し黙る。

 そして再びティーカップを手に取ってお茶を一口飲むと、それを机に置くコトリという音と共にまた口を開いた。



「あの砂嵐は自然の産物ではない。今から約500年前の4月15日にメルクリウス神が断頭台の上でその首を落とされた瞬間、まるでカーテンを締め切るかのように突如として国の周りに現れたのだ」


「「!!」」



 神の死というものが世界にどれだけの影響を与える事柄なのか、オレには見当もつかない。

 しかし、トトの話し方から想像のできる事実は極めて衝撃的で、異世界の住人であるオレにはとても理解のし難いことであった。



「あれはメルクリウスの魔術によるものだ。あれほど強大な術を作り出し術者の死後も効果を保ち続けるのは、純粋な魔力だけでは到底不可能。おそらく彼は神である自身の生命エネルギーを犠牲にしたのだろう」



 トトは頭を抱え、重々しくため息を吐いた。



「そして、彼の魂はまだあの中に囚われている」



 今ならわかる、最近の彼の落ち込みようの理由が。

 あと数日もすれば砂嵐は過ぎ去り、メルクリウスの魂と再び会えるのはまた3年後。

 しかしあの災害のような砂嵐の中に500年も取り残されているメルクリウスを思えば、わかっていて何もしてやれない自分に惨めさを覚える。

 彼はきっと、この二つの感情に挟まれてあそこまで気分を落としていたのだろう。

 当然だ。

 あの何時も冷静沈着で自分の心情を滅多に表現しないトトが、これほどまで感情を露わにして語る男。

 それだけメルクリウスは彼にとって大切で重要な存在だと言うこと。

 いわば、かけがえのない親友なのだ。

 


「トト…君は……」


コンコン



 すっかりいつもの調子を崩したトトを気の毒に思い、声をかけようとしたその時、背後の扉からノックする音が聞こえた。

 トトの「どうぞ」という声に、入ってきたのはシェファ。



「失礼します……あの、ケンゴさんちょっといいですか?経津主さんが呼んでいて…」


「え、経津主が?」



 アイツ、何でまたわざわざ呼び出すようなこと……しかし今の事態的に緊急もしくは重要なことである可能性がある。

 仕方ない。



「すまないトト、姫様も、ちょっと行ってくる」


「ああ」



 あれだけ辛いことを詳述させておいてこうもあっさりと退出してしまうのは正直気が引ける死、彼に申し訳ない。

 オレは一瞬ためらい、ドアの取手にかけようとした手を止めて彼を振り返る。

 (うつむ)いていて表情はうかがえないが、緑色の前髪の隙間から垣間見える瞳は光沢が無く、夜の砂漠に広がる砂のようにどんよりとした黄土色だ。

 せめて何か、言葉をかけた方が良いだろうか。

 そう思い、彼に語りかけようとした。

 しかしふと、アサーラがこちらを向いていることに気がつき、オレはそのまま彼女と視線を合わせた。

 アサーラはまっすぐな眼差しでオレを見つめ、同時に力強く頷く。

 そんな彼女に安心したのか、オレはすんでの右手を取手にかけて、静かに部屋を出て行った。


 

「その紙袋は?」


「経津主さんからもらいました。頼まれていたお茶だって」


「アイツ、やっぱり買い忘れてたんじゃないか。全く、直接渡せばいいものを……そうだシェファ、もし時間があればそれでお茶を沸かして2人に出してくれないか?そろそろなくなる頃だと思うから」


「わかりました。やっておきます」



 事務所を出て本棚の間を通り、入り口の前まで来た。

 外に来いって、アイツ状況をちゃんとわかっているんだよな。

 まあ大雑把ではあるけどあるべき時には慎重な奴だし、何よりオレたちのパーティーでは一番の実力者だ。

 彼が良いと判断したのであればさほど問題はないか。

 

 オレは正面の大扉から外へ出る。

 図書館の照明よりもずっと明るい日光に目を細めながら辺りを見回したが、当の経津主の姿はどこにも見当たらなかった。



「経津主?」



 呼びかけてみるが、やはり返事はない。

 目の前に広がる長い長い石畳の道、目に見える生命はサボテンと空を飛び回る小鳥たちだけ。

 不思議に思いつつももう一度辺りを見回して見たその時、オレの脳裏に一瞬、嫌な考えが走った。

 杞憂かもしれない。

 しかし、今の状況では冗談にもならない。

 慌てて入り口まで戻る……が、



「!?」



 いきなり、何者かに口を塞がれた。

 息苦しくなると同時に鼻の穴を通る甘ったるい香り。

 その後一瞬にしてはがいじめにされた両腕を振り払おうともがくも、突然のことによる動揺と焦り、また体勢のせいでロクに力が入らず、そのままその場に倒れ込んだ。

 だが、60キロ近い体が前のめりになったことで手を拘束する何者かも同時にバランスを崩したようで、道ずれにオレの上へ倒れ込む。

 今だっ!

 オレはその何者かの腹部と思われる箇所に思い切り突き出す。



「ぐふっ」



 衝撃と痛みでヤツが横に転がった隙に起きて立ち上がり、ヤツの姿を見た。



「な!経津主!?」



 なんと、腹を抑えて苦しそうに(もだ)えながらそこに横たわっていたのは経津主であった。

 見た目は完全に経津主。

 だが、アイツはこんな悪ふざけをするようなやつじゃないし、だいいちオレの蹴り一つ避けられないだなんて、毎日毎日あれだけオレをフルボッコにできるようなやつが、そんな体たらくなはずはない。

 と、その時。



ドスッ



 鈍い音ともにうなじへ受けた衝撃で、オレは意識を失った。


 

「ハァ……も、申し訳ありません…タウラス様…」



 苦しそうに腹部を押さえながら立ち上がる経津主。

 しかし、彼の声はいつもの様子からは想像もできないほどに弱々しいものであった。



「己の実力を過信しすぎるなと、あれほど言ったはずだよ。外観や声帯を真似することはできても、実力まで模倣することはできない」



 タウラスはそう言うとオレンジの石畳にぐったりと横たわる賢吾を起こし、完全に意識を失っているかを確認してから抱き上げた。



「それに、仮にも神獣クサリクの試練を突破したやつだ。凡人のアンタじゃ勝ち目はないよ」


「…心得ます」



 カツリカツリとヒールを鳴らしながら長い一本道を進むタウラスに、若干の千鳥足で後ついて行く経津主こと信徒。

 やがて2人は強烈に照らす日の光の中へ、ゆっくりと消えていった。

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異世界転移
― 新着の感想 ―
[良い点] 久々に見ましたが、挿絵もあって見事です!続きを楽しみにしています!
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