表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

72/90

第二幕第二場:愛のために、生きることができますか?(第一編)

若干タイトルが変わりました。

さっくりとこのシーンを終わらせて、第三幕の前に三人称視点で本話を補完したいと考えています。

 

 気が付くとあたしは、両手両足を縛られ、目隠しと猿ぐつわを咥えさせられているヒドイ状態にあった。

 目を見開いても光を感じる事ができない。

 真っ暗闇の中に転がされているらしい。

 顔に当たる冷たい土の感じ。

 おそらく地下の貯蔵庫あたりに、閉じ込められているのだろう。


 そしてお腹が空いたなぁと思った瞬間、グゥ~っとお知らせが聞こえてきた。

 この空き具合からきっと────、もう正午を回っているのだと思う。


 もしココが宿の地下貯蔵庫であるのであれば、何か食べ物があるはずだと。

 あたしは後ろ手に縛られながらも、芋虫の如く地面をもぞもぞと這ってみる。

 これであたしの周囲に何かないかと探る事ができれば──。


 ………………駄目だった。

 自分の顔と肩と膝をただ擦っただけで、何も分からなかった。


 お腹が空いている以上に、喉がとても渇く。

 口に咥えさせられた汚い布のせいで、口の中が何やら苦くて不味いのだ。

 あぁ、なんてヒドイ状況だろうか。

 それでも辛うじて生きているだけでも、あたしはラッキーなのかもしれない。


 でも何故あたしは、こうして生かされているのだろうか?

 人質にするつもり? 

 それとも幼子の姉妹の代わりに、あたしを売り払う気なのかしら?

 何にせよ、この状況と状態では、あたしに出来る事はないのかもしれない。


 ────疲れた、な。


 そして再び、あたしの意識は遠のいていった。


 ・

 ・

 ・


「起きな! まだ死んじゃいないのならさ!」


 突如襲い掛かってきた罵倒の言葉に、あたしの意識は強制的に覚醒された。


 そしてあたしは髪を乱暴に掴み上げられ、頭を無理に引き起こされる。

 しかし地面に突っ伏したままのあたしには、成されるがまま弱々しくうめき声をあげる事しかできなかった。


「ねぇ、泥棒猫のお嬢ちゃん。アタシのルチアと木箱に入っていた商品を、一体何処にやったんだい? アレは大事な金づるなのさね。大人しく素直に、返してくれないかねえ?」


 前半は猫なで声、後半は恨みがましいドスの利いた声で問うてきた。


 もしごく普通(かたぎ)の小娘や、箱入り娘(せけんしらず)のお嬢ちゃんであれば、この脅しで心が砕かれたと思う。

 でもそこは数々の修羅場と死を味わったあたしである。怖い目や辛い目、苦しい事や悲しい事を幾度も、繰り返(ループ)し体験した娘には通じないのだ。



 お・断・り・よ! あの子を奴隷同然に扱う人に、返す訳がないでしょ!? 

 しかも、幼い子供までモノのように売り買いするなんて──。

 よくもそんな()()()()の、()()()()()真似ができるわね!?



 しかしながらあたしの愛らしい口は、猿ぐつわをされて封じられている。

 故に、あたしの言葉も、気持ちも伝わらない。単にモゴモゴと何かを、わめいている風にしかならなかったのだ。


「ハッ、まだまだ生きが良いじゃないのさ。ならしばらくは、飲まず食わずでも、大丈夫だろうさねえ」


 アー、ハッハッハッ!と、あたしの頭上で女主人が高笑いをする。

 ホント、頭にくるわね……。


「マッダレーナ、水くらいは与えておけ。その娘に死なれては、あの三人分の損失を埋め合わせするのも、ままならんぞ」


 野太い男の声がする。きっと女主人の兄である隻眼の大男だろう。

 それにしても──。

 赤毛の騎士(げぼく)様が負ったヒドイ火傷は、この男の手によるものなのかしら?

 あの手紙にも注意しろとあったし、思ってた以上に危険な男なのかもしれない。


 ・


 ワッ!? 冷たっ!!


 何の前ぶりもなく、いきなり顔にかけられた水に驚いて、あたしは思わず飛び起きそうになった。

 でもあたしは拘束されたまま地面に転がっているので、ゲホゲホと咳をしながら、体をビクンビクン震わせるだけである。

 そう、これは決して、不本意に感じて悔しがっているのではなく。

 次々と口元をめがけて落ちてくる水で息苦しいからだ。きっとわざわざ狙っての所業だろう。あの女が。


「ハハハッ、いい気味だねえ。そうそう、もっとアタシを楽しませなよ?」


 女が執拗に水を口元に掛けてくるので、あたしはたまらずうつ伏せの態勢になろうと試みる。でも……。


「そうはさせないさね! ほら、ほら、ほらぁ!」


 興奮気味の女があたしの腹を踏みつけ、そうはさせてくれなかった。

 あたしはむせ返りながらも、必死に顔を左右に振って、しつこい水攻めから逃れようとする。


「そこまでにしろ、マッダレーナ。金にならん事は止めておけ、たとえそれが気晴らしでもな」


「フン、分かったよ。でも兄さん、こいつをどうすんのさ?」


 あたしの頭のそばで、金属製と思しき水差しが、地面に投げ出された音がした。

 不貞腐れた声の女が打ち捨てたのだろう。

 なんにせよ、息の詰まる水攻めが終わって、良かったわ……。

 でも最後に軽く横腹を蹴られたのが、すっごくムカつくんですけどぉ!?


「────そうだな。雇い主のところへ持って行く。

 この娘の身体は少々貧相だが、中々の顔立ちの上に、育ちが良さそうだ。それなりの金には、なるやもしれん」

「ハッ、この歳のいった小娘がかい? こんな貧相な体の娘が、あの三人分の埋め合わせになるのかねえ?」

「上級貴族様には、これくらい気が強く、生きの良い娘を好む者も多いと聞く。それにかえって貧相な方が良いという、好事家もいるようだぞ?」

「フーン。こんな貧相な身体が、お貴族様には良いのかねえ?」


 さっきからあたしの身体を、『貧相』と連呼され、なじられているのには納得がいかない。

 あたしは別にM属性なんか持っていないし、貧相な身体もしていない!と思う。若干、胸は控えめではあるけれども……。


 !???


 女が貧相と称するあたしの胸を、いきなり揉みしだいたのだ。

 度胸と威勢と食欲だけは良い、と自負するあたしもビックリである。


 それには流石のあたしも、思わず反応してのけぞり、身体を左右に振って、その魔の手から逃れようとする。


「ヘェー? 兄さん、こいつはひょっとすると生娘かもしれないよ? その歳で未だって事は──、よっぽど大事に育てられた、お嬢さんなんだねえ!」


 ふん、当然よ。

 あたしはお父様がここまで大事に、大事に育てた箱入り娘(ニート)なのよ?

 もし許されるのであれば、生涯を生娘で全うする気概(やぼう)のある大人物(ニート)だから!!


「そうか、ならばなおさらだ。傷物にはするなよ。安く買い叩かれては敵わん」


 女の舌打ちが聞こえてきたけれど、お金に執着がある男のおかげで、これ以上のヒドイ目は逃れられそうだった。


「じゃあとりあえず、こいつを木箱に詰めて、旦那のところへ運ぶとするかねえ」

「そうだな。今から準備して街に向かえば、夜には屋敷に運び込めるだろう。急ぐぞ、麻袋を持って来い」


 男がそう言い次の瞬間、突如あたしの平衡感覚が喪失した。

 どうやら男の肩に担がれているらしい。そしてそのままあたしは、何処かへと運び出されて行く。


 街とは一体何処なのだろうか? 

 今現在が昼過ぎだとしたら、おそらく公都マントヴァに向かうのかもしれない。

 だとすれば、あたしにはまだチャンスがあるかもしれない。生きて逃げ出す機会がきっと──。

 

 ・

 ・

 ・

 

 それからあたしは縛られたままで、大きな麻袋に押し込まれた。その上で、木箱らしきモノに入れられたようだ。


 そして木箱を閉める音がした時、あの女が「念のためだよ」と言って、いきなり歌を詠い始めた。おそらく魔法歌だろう。

 女が三度同じ歌を詠うと、あたしの全身から感覚と言う感覚が、全て消え去っていったのだ。


 何も感じない、感じることができない──────。

 

 あたしには唯一できる事は、『思考する』、ただそれだけであった。

 (そうよ。母はわたしに言ったわ。『最後まで諦めずに、自分が正しいと思ったように行きなさい』と)


 おぼえてなさいよ……。

 あたしはすっご~く、しつこいんだからね!




次回は、(第二編)となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ