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幕間:ガルダ会戦の勇者たち(第二編)

色々と書き連ねると、六~七話くらいになりそうな気がしてきました。

本編のプロットはまだ作成中です。

「うーむ」


 明らかに疲弊している兄の馬を横目に、赤毛の騎士は唸る。きっとこの馬は戦場まではもつまいと。このまま酷使すれば戦場に到着した時点で、確実に馬は潰れているだろう。


 人並外れた身体を持つ巨躯の兄騎士は、身の丈2メートロ半もある。

 無論、それだけ目方も人並外れて200キロイェット近くあった。彼の父親に「大熊」と言わしめるのも無理はない。戦う者にとって、圧倒的優位を与えてくれる恵まれ過ぎた巨躯を誇る、まさに巨人騎士である。

 当然、その彼が乗る馬も限られてしまう。戦用の装備を身に着けると、全備重量は250キロイェットに達する。これに耐えられる馬は()()は存在しえない。


 エトルリア王国で採用される標準の軍馬でも、耐えられる荷重は100キロイェットほどで、その最高速度も時速40キロメートロを超える程度である。

 ちなみにスリムとは言え長身である赤毛の弟騎士は、その荷重をギリギリまで削減するために、重い武具を兜、胸甲、短槍と片手剣に留めていた。またあるいは、極めて貴重な重さを操る魔法を扱える者であれば、その力で荷重を軽減し馬への負担を軽くして疾走させる事も可能だろう。


 そもそも彼ら騎士が乗用馬とする在来の大柄な重馬種の軍馬でも、体高は1メートロ半。体重が500ないし600キロイェットだ。しかしながら、北にそびえるガルダ山脈を越えた更に北の地には、体重だけでも倍以上もある在来種を超える大型の馬が存在するらしい。

 おそらくはこの馬種であれば、巨人騎士を乗せて戦場を駆ける事ができるかもしれない。



「──ところで、兄者の馬はもつのかよ?」

「ん? 戦場にたどり着くまでならもつだろう。たぶんな──」

と自信なさげに応える巨人騎士。


「ちげぇよ! 戦場で馬の無い騎兵がどうするんだよ!?」

「うーむ、そもそも俺様が乗れる馬が滅多におらぬからなぁ。諦めて徒歩で戦うしかなかろう」


 かく言う巨躯の兄を見上げる赤毛の騎士も、平均的な成人男性の背丈を軽く上回る長身ではあるが、兄の方は彼よりも頭二つ分も高いのだ。その上、その逞しい丸太のような二の腕の太さは、弟の太ももと同じくらいもある。


「そもそもその背中のでけぇ武器は、下馬しても使えるのかよ?」

「ああ、コイツなら問題はない。集団戦ではアレだが、ひとたび乱戦になれば頼りになるぜ」


 そう言いながら、背負っている奇妙な大型武器を片手で抜いて見せる。

 その武器は剣先に向かって徐々に反っていく湾曲した片刃の長剣であった。


 その刀身の長さだけでも、赤毛の弟の背丈よりも僅かに大きい2メートロもあり、全長は持ち手の背丈よりも大きい3メートロに達する。そして重さは約4.5キロイェットもあった。参考までに騎士が扱う通常の両手剣でも、重さはそれの半分程度。片手剣に至っては四分の一程度しかない。

 この奇妙な大型武器は、東方諸国に伝わる馬上武器で、『オオダチ』と呼ばれるモノらしい。武器マニアである彼の父が取り寄せた珍しい東方諸国の逸品を、勝手に持ち出してきたのである。独特の形状から成るその長大な刃は、馬の走る勢いを利用して馬上から斬るには最適と言えるかもしれない。

 だがこの持ち手は巨躯とは言え、徒歩で振り回そうと言うのだ。この世界でそのような芸当ができそうな存在は、大陸南部の砂漠地帯に住むという、身の丈3メートロを超える巨人族くらいのものだろう。


「まぁいい、騎兵は全て俺が指揮をするさ。兄者は徒歩で先陣を切ってくれよ。なんなら一騎打ちでもして、盛り上げてくれりゃあ良いさ」

「徒歩で馬上の騎士を相手に一騎打ちか? そいつは面白そうだな。丁度良いハンデにはなるだろう」


 相変わらずの兄者だと笑いながら、赤毛の騎士は親友であるガルガーノ辺境伯の置かれた戦況を考えていた。


 現状では、辺境伯の軍勢は兵数において劣勢ではあるものの、補給の面では領民に支持されている分有利であった。つまり定石通りに籠城をして、大将軍の公爵閣下が率いてくる援軍を待てば、決して負けはしないだろうと。


「――――兄者。もし兄者が反乱軍の立場ならば、相手が守りに徹し援軍を待っている状況下をどうする?」

「城下町や近隣の村々を襲って略奪だな。もし相手が城から打って出てくるようなら、そのまま野戦で撃破するさ。そうでないなら――――、一旦引くか」

「定石ではな。ところが心優しいガルガーノは、その最初の略奪すら許さんだろうよ」


よく知る親友の性格を鑑みて赤毛の騎士は語った。


「――つまり、辺境伯殿は少ない手勢を率いて、既に出ているという事か。――上に立つ者としては甘いな」

「皆が皆、兄者のように割り切れねぇよ。確かにあいつは大身の貴族として統治するにしては、性根が優しすぎるからな。俺たちのように、一介の騎士爵として生きた方が幸せだろうよ……」


赤毛の騎士なりに親友の立場を思う所があるらしい。


「それだけに――、今回の戦は面白くなったな。俺様としてはありがたい事だ」

「殊勝な心掛けの兄者で助かるぜ。俺としても同期のあいつが不本意な死を迎えないよう、出来るだけの助力が欲しかったからよ」

「ふん、ダチってのは良いものだな。任務に忠実な騎士殿を、こうして抜け駆けさせているとは……」

「そのダチも居ない孤高の剛勇騎士ガディオン卿は――、なぜ抜け駆けをしているんだよ?」

「俺は三度の飯よりも、戦が好きだからな! 後でのこのこ出張って、形だけのしけらけた戦いに付き合う気はないぞ。だから不利を承知で、野戦に打って出る辺境伯殿の陣借りをするだけだ」


そう言うと巨躯の騎士は、体を解すように軽くストレッチを始めた。


「とんでもねぇ押しかけ騎士だよ、兄者は。だが頼りになる戦バカだから、俺も助かるぜ。おそらく大した報奨金も出せないだろうしな」

「うむ、代金は辺境伯殿の酒蔵から後で頂くとするか」

「はははは、そうしてやってくれ。きっと甘党のあいつも泣いて喜ぶさ。しっかし此度の勝利の美酒を味わえないジュリオは、さぞかしご不満だろうよ」

「近衛隊に入ったばかりの子爵殿か。尻の青いガキには、今回のような勝てぬ戦場(いくさば)はまだ早いかろう──」


 赤毛の弟騎士は、違いないと笑って応えた。


 ・

 ・

 ・


 ある程度、馬を休ませる事ができた二百騎の騎馬集団は、辺境伯の軍勢と合流するために出発をした。夜明け前のためか、より一層あたりの闇が深くなる。


 そして今、彼らがいるガルダ盆地は狭隘なため平野部が少なく、山脈から流れ出る豊富な水源のお陰で、豊かな森と多数の小川が至る所にあった。

 それ故に、自ずと戦える場所も限定されてしまう。


 おそらく両軍が軍勢を展開し、激突する場所はおそらく──。


「このまま真っすぐ行けば、平野にでるはずだ。その少し先にある見晴らしの良い小高い丘に、あいつは本陣を置いているらしい。余裕で間に合うな」

「そこで敵を待ち構えて、いよいよ一大合戦か。こいつは楽しみだ」


 巨躯の騎士はウキウキ顔で手綱を引いて歩く。少しでも馬の負担を減らすためのようだ。

 赤毛の騎士もそれに合わせて、馬の脚を使い過ぎないようにゆっくりと駄句足で進める。たとえ戦に間に合っても、馬が使えないのでは騎兵としての役目が果たせないと考えた上でのようだ。


 そもそも騎兵の役割とは、騎馬特有の機動力を用いた偵察や敵後方の攪乱、迂回奇襲に追撃戦などの機動戦にある。そして鐙を用いることで実現した、重装備の集団突撃から生み出される恐るべき衝撃力も忘れてはならない。歩兵や弓兵には無い馬特有の力で戦場を支配する兵科が騎兵と言える。

 もしも騎兵が全くいない軍勢で戦いに挑むとすれば? 

 負けぬにせよ、おそらくは戦いの主導権を一方的に放棄した不利を被る羽目になるだろう。たとえ少数と言えども、騎兵はあるに越したことはないのだ。


 だからこそ、二人にはこれから野戦を行うガルガーノ辺境伯の軍勢に、どうしても合流しなければならなかった。負けぬ戦いをするためにも──。


次回は、第三編です。

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