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第三幕:歌に生き、愛に生きて(第五編)

長くなりましたがキリが良いのでこの辺まで。

 

「──で、話は戻るが、生き証人の幼子とそこのお嬢と家族については、親父殿の屋敷で当面は預かるとしてだ。伯爵殿の護衛については、俺様が全て取り仕切って良いか?」

「それで結構、護衛などの軍略については全てガディオン卿に託したい。特に愛娘のマリアンナをお頼み申す」と騎士様に深々と頭をさげる伯爵様。

「うむ、構わぬだろう。荒事は貴卿の十八番だからな。しかしジュリオの奴を大先生の護衛に張り付けてしまうと、ちと不安だな。我が屋敷の守りの方が……」


「ヴェローナ公の真ん中の御子は如何した? こと武芸に関しては、ガディオン卿にも比肩しうる、名うての騎士であろう?」

「あやつか、そろそろ王都に戻ってくる頃合いだが、とんと便りも無くてな、ホトホト手を焼いておるよ」

「へっ、どうせまた武者修行と称して、方々をほっつき歩いているのだろうよ? 新妻を置いて何やってるのか、あの流浪の騎士殿は……」


「貴卿の言葉はもっともだが、あやつにも色々とあってな。自由にさせておいた方が、こちらとしても万事に都合が良いのだ。察してくれ」

「ほぉ、()()とね。まぁ、実家の采配については、親父殿に任せるか。くれぐれも、俺様の嫁と息子の事は頼むぞ。あと上の弟の新妻も当面は引き取ってやれよ。あの流浪の騎士殿が野垂れ死ぬのは別段構わぬが、その新妻が路頭に迷っては、親父殿も俺様も目覚めが悪いからな」

 うんうん、とそれに頷く公爵様。


「あと学院に向かわせたレオナルドにも言伝で頼んだが、今後見かける怪しい奴は、俺様も躊躇せずにその場で全て切る捨てるからな。親父殿、もし流浪の騎士殿が屋敷に戻ったら、そう伝えてくれ。あいつなら的確に対応するはずだ」

 また物騒なことを、サラリと口にする男だ。


「なんで……そこまでするのよ? まるで戦争みたいね?」

「あぁ、今の王都はこの通り戦争前夜みたいなものだ。いくら俺様でも、油断するといつ寝首をかかれるか分からん。家族がいては、なお不安になるさ。お嬢も、来る時期が悪かったな――」


 何というか──、父子揃って四人とも脳筋ぽい雰囲気しかない、武人の鑑のような一家の会話に、あたしは若干(かなり)引いている。あたしのおじにあたる伯爵様も、きっとそう感じているに違いない。さっきからしきりに冷や汗をハンカチで拭いているしね。



「──して話は変わるが、書状にあった進言については、伯にも全面的に協力をしてもらえると思ってよいな?」

「──────────」

 伯爵様は腕を組み、何やら思案しているご様子だ。


「この件に関しちゃ、最低でも司法長官殿の協力が得られなけりゃ、間違いなく追い込まれるのは俺らだからな。やるなら腹を括らにゃならんし、そうでなければ目をとじ、耳をふさいで、これからも醜悪な悪事(じんしんばいばい)を見逃すしかねぇ。いつの世も、泣きを見るのは庶民ばかりってやつよ。もっとも──」

「冗談ではない──。今、この時も騙され、さらわれ、売られてゆく多くの子供たちがいよう。子を持つ親として、その親の気持ちを分からぬわけではない。だがな──」

「伯よ、法に照らすための証拠か? それならば「いや、違う。違うのだ──」」


 伯爵様は何に悩んでいるのだろうか?


「では、伯よ。何だというのだ?」

「あれか、辺境伯殿の言か? 確かあいつの書状には、犯罪組織に関与する上級貴族や教会上層部の名前が書き連ねてあったと思うが、それが信用できないのか?」

「そうではない……。()()()()()の言であれば、ワシも信用するしかあるまい。あれは一見不合理に見えて、過分に道理を貫く男だからな。同じ顔をした(ケダモノ)の如き、マントヴァ公とは大違いだわい」

「そのマントヴァ公も、王国の財務を司るパルマノーヴァ公も恐らく組織の者とは、恐れ入った話よな……」

「世も末だよな。王国の柱石たる三公爵の内、二人が犯罪組織とズブズブどころか、その幹部とはね。これが亡国の危機に瀕するってやつか?」


「…………………………………………」


 伯爵様はただただ黙して語らず、あたしたちの間を無情にも時が過ぎ去っていくだけだった。



「──そういやアイツ、お嬢が別れる直前に見た辺境伯殿の手傷は、どんなものだった? 刀傷、切り傷か? それとも刺し傷か? もしくは魔法か?」

「よく分からないけど、わき腹をえぐられたような?」

「なるほど──槍か。──だろうな」


 あらら、窓際のカーテンの袖に立つ騎士様までもが、腕を組み何やら考え込んでいるようだ。


 二人が黙り込んだ沈黙の間に耐えかねて、あたしは公爵様に尋ねてみた。その王国の柱石という()()()についてを。


 公爵様の話では、三公と呼ばれるパルマノーヴァ、ヴェローナ、マントヴァの三家は、エトルリア王国の成立時より長らく王家に仕えてきた名門中の名門、大貴族の家格に位置する名家らしい。


 政略に長けたパルマノーヴァ家は、財務畑を中心に王国内の政務を主導しており、現当主も財務長官として財務省を統べている。そして武略に長けた武門の家柄たるヴェローナ家は、国軍を統括する大将軍を現当主のジュゼッペ様が勤め、国内の軍務全般を主導している。また三男のジュリオ子爵様も、王族を守護する近衛隊の副長として王家の信頼も厚いとか。


 最後のマントヴァ家は、智勇を兼ね備えた文武両道の名臣を代々輩出する王国屈指の名家であり、軍務や政務の畑を問わず活躍する者が多かったらしい。しかしながら若くして法務畑で活躍した現当主が、病気を理由に司法長官の内定を辞退してからは、本来は副長官のモンテローネ伯爵が司法長官代理として現在も従事しているとの事。ちなみにマントヴァ家一門のほとんどは、国教であるタントゥム教に帰依し、教会組織の中で地位を確立し活躍しているらしく。なんでもマントヴァ公の叔父の一人は枢機卿の末席に名を連ね、彼の一族は教皇選出にも少なからぬ影響力を持っていると専ら噂されているとか。


 そして王国の北辺を守護する辺境伯ことグリュー家は、先代たっての要望によりマントヴァ公の実弟が継いだ。それがシルバーグレイの髪をしたあの騎士様こと、剛剣の騎士ガルガーノ卿その人である。


「ガルガーノ様の戦いぶりを身近で見ましたけど、素人目でも彼の実力は並々ならぬものと感じましたわ。公爵様から見てどうですか?」

「うむ、そうだな……。剣技にかけては王国随一かもしれぬ。親バカながら、息子三人は皆、武勇に秀でておる。それこそ王国一、騎士の中の騎士といえる手練れどもだ。その三人をしても、剣技で比肩しうるのは三男のジュリオくらいか。しかし勝負となれば──」


「剣の腕に関しては、辺境伯殿の方が子爵殿より間違いなく上だぞ。ただ魔法の腕は子爵殿の方が明らかに上、さらに互いに扱う魔法は反属性となっている。もし長期戦になれば、必ず最後に勝つのは子爵殿だろうな。正直、あいつのタフさ加減は、この俺様から見ても異常だ。実際に過去何度も、二人を相手にして(しごいて)いるから保障するぜ。あの二人に一騎打ちを挑んで勝てるのは、俺様か上の弟くらいだ」


 いきなり公爵様との会話に割り込んできて、長々と喋った挙句、勝つのは自分だと言い張るのは、()()()のお兄様である。


「そうも容易く言い切るとは、貴卿も大した自信家だな?」

「俺様は一武人(いちぶじん)として、純然たる事実のみしか言わぬよ。確かに辺境伯殿の魔法を交えた戦技は、そら恐ろしい。並みの武人ならば一方的に屠られて当然だ。だが剣に拘る辺境伯殿には、遠間からの弓か槍で一方的に勝てるのさ。もし懐に飛び込まれても、組んでしまえば恐ろしくはない。徒手空拳が十八番の上の弟ならば、逆に最初(はな)から組み合いに持ち込んで、腕か足をへし折って終わりにするだろうよ。こればかりは相性の悪さだから、しょうがねぇのさ」

「なるほどな、よく分かったわい。確かに貴卿の言う通りだろう。ヒイロの組み手は、訳も分からぬ内に決まってしまうからな。親が言うのもなんだが、あやつは奇術師か、軽業師、はたまた暗殺者なのか?」

「…………………………………………」


 あたしには、彼の語る言葉のほとんどが理解できないけれども、とにかくものスゴく自信があるというのは、理解できた気がする。


「その全部じゃねぇかな? 流石に俺様も、アイツに組まれたら勝てる気が全くしねぇ。以前も模擬戦で地べたに組み伏された時は、無理やり引き離そうとすると俺の肩をいとも簡単に外しやがったからな。アイツが本気を出せば、親父殿も俺様も首を折られて終わりだ」

「つまり我が一門の最強はヒイロか? 王国一の戦士を自称する貴卿の言葉にして存外だったが」

「アイツに()()()()()な! 本気でやり合うなら、その前に仕留めてやるさ。ただ恐ろしいのは、戦場の外で寝首を搔かれるケースか。ま、お互い得意な領分に持ち込めばの話だな。長々と熱く話しちまったが、もう忘れてくれ。無意味な仮定話なんざ、もう飽いただろ?」


 うんうん、あたしには兄弟間のマウント合戦にしか思えなかったので、もう終わりにしましょうよ。



 結局、その日は決定的な証拠が確認できた上で、一致協力して次の行動に移るという事でお開きとなった。そしてあたしは、公爵様のお付きの騎士様の一人に護衛されて、夜遅くに新市街の宿に戻った。


 ちなみにお父様は具合が悪いらしく、ずっと部屋で休んでいたようだ。

 婆やと幼い姉妹は当たり前のように早くに寝入り、あたしをちゃんと起きて出迎えてくれたのは、健気で可愛い猫娘のミハクちゃんだけだった……。ヾ(・ω・`)(よしよし)



次回は、(第六編)です。おそらくあと二話で第四部は終わる、はず。

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