その27 長い機関車旅
─前回のあらすじ─
評議会でそれぞれの一派の代表たちに宣誓をしたヨミエル達は、世界を救う為、ノフィン各地へと旅立つのだった。
「──ヨミエル?寝てるの?」
そう自分に問いかけ、複数の瞳孔を持つ瞳を自分に向ける、少女の顔が視界に広がる。
柑橘の様に爽やかな橙色の髪を結った彼女は、魔族の身でありながら、世界を救う使命を背負った勇者の『ラナ』である。
「起きている……うつらうつらとは、していたが」
自分は車内の一角にある椅子から立ち上がり、背を伸ばす。
オーディエで宣誓を行った数日後、評議会それぞれの派閥から支援を受け、自分達は世界を救う旅路へと旅立った。
目的地へと向かい、ガタリ、ゴトリと、心地の良い振動を奏でる『血炭機関車』は、評議会の一派、白狗商会から預かった物だ。
馬も要らず、馬車の何倍もの速度で走る機関車には、長旅に耐えられるようにと、シロク会長が様々な改修を行なってくれた。
自分が今いる娯楽室に、調理台……果ては『シャワー室』と呼ばれる、異邦の技術が取り入れられた、小さな人工的な雨を降らし、その水で身を清める施設が備え付けられている。
そのせいか、機関車の居住区画が大きくなり、二階建てとなったが……シロク会長いわく「バァーッド!これじゃ全然『ビューティフォー』じゃありません!!」らしいが、嘆いている、という事以外なにを言っているのか分からなかった
「フゥジ山岳までどのくらいかなー?もう二日も機関車旅が続いてるよー……」
フゥジ山岳……オーディエから遠く離れた山岳地帯。
その山岳地帯に、旅の目的である『ある魔法使いの根』が存在する。
その根にラナが触れれば、魔物大戦の地、アヴァロンに自生する『ある魔法使いの樹木』が枯れ、アヴァロンの侵食が止まる。
ある魔法使いの樹木は『終焉の大樹』と呼ばれる、ある魔法使いの遺体から生えた大樹を含めて、五つ存在している。
その内の一つが枯れ、今は四つの樹木に減っている。
つまり、その樹木から逆算して、根っこは後四つ。
「ねぇーギブルちゃん、スマホ返してくれなーい?」
「ダメだ」
「それ私のなんだけど!?」
切り揃えられた黒い髪に、灰色の装束を身に纏った、よく見ないと少年と見間違える『エルフの少女』が壁にもたりかかり、魔導書スマホを使用している。
少女は評議会の一派、断罪組織ギルダンの四代目指導者『ギブル』だ。
……正直言って、彼女がこの旅に同行してきた事には凄く驚いた。
「知れば知るほど、珍妙な魔導書だ……『魔法アプリ』という、本に内蔵された供物を使用する事で、魔法を唱えるとはな」
そう言いながらギブルは、『ドローン』と呼ばれる魔法の風車を自在に操っている。
ドローンが羽音をたてながら、ギブルの意志により車内を縦横無尽に飛び回っている、しかし、暫く飛び回っていると、突然ドローンが消え失せた。
「あっ」
「充電切れー、ほら返して、ギブルちゃん」
「チッ……」
充電切れ……ラナが言うには、魔法使いで言うところの、魔力切れような状態らしい。
充電はラナがスマホを持っていれば5秒程で一割回復……つまり、充電を完全に回復するには、50秒は必要らしい。
「……」
自分は車内の光景に飽き、窓から見える景色を眺めていると、青々とした草原の向こう側には、地平線まで広がる海原の景色が、視界に映った。
「海が見えるな」
「マジ!?」
自分の言葉に反応したラナが窓際に行くと、興奮気味にスマホを窓に向ける。
「うわっ!すっごーい!!めっちゃ太陽の光ー!!」
パシャリパシャリと、スマホから光と音が発せられ、連続で魔法『カメラ』を発動させている。
カメラ……なんでもスマホを通して見た景色を、写真という名の、精巧な絵として記録する魔法らしい。
「ヨミエルこっち来て!一緒に撮ろ!ギブルちゃんも!あっ!オッちゃんも読んでくるね!」
言うが早いか、ラナは忙しなく一階へと続くハシゴを降り、オッちゃんこと、オタニアを呼びに行く。
「……忙しない奴だな」
「同感だ」
──「いい?撮るよー?」
ラナが一階からオタニアを連れてくると、皆で窓辺に立ち『記念撮影』を行う。
ラナがスマホを高く掲げ、スマホの画面には、窓から見える背景を後ろに、身を寄せ合う自分たちの姿が映し出される。
「はーい!」
「……」
「狭い、もっとそっち行け」
無言の自分と文句を垂れるギブルとは裏腹に、顔に不思議な模様がついた、赤い瞳に眼鏡をかけたアルマの青年『オタニア』は笑顔でスマホを見つめる。
彼はどうやら蝮……つまり、蛇のアルマらしく、顔の模様は、本人いわく鱗らしい。
顔にかけている眼鏡も、少々見えすぎる視界を抑えるための物なのだとか。
「笑ってー!ハイ!チーズ!」
「チーズ!」
「ちーず」
「チッ…….」
──パシャリと音が鳴ると、スマホには窓辺に映る海を背景にした、自分たちの写真が写し出された
─フゥジ山岳─
フゥジ山岳は、赤茶色の乾いた土と岩肌の切り立った山であり、海に隔てられている事が特徴である。
その山には独特の生態系が築かれており、代表的な生き物は潮風からくる塩を身に纏い、捕食者からの防衛手段を得る『シオカゼトカゲ』である。




