カチカ執政官の歴史授業・魔物大戦
この物語はシェリーの視点で進みます。
カチカ執政官の授業が始まって数分、私の横にいる二人はもう授業を受ける事を諦めたらしい。
ラナちゃんは瞼を必死に開けて船を漕いでいるが、あの様子じゃ何も聞こえて居ないだろう。
ミライは…寝る姿勢に入っている。
腕を組み、背もたれに身体を預ける姿勢たるや、もはや堂々としていて威厳すら感じるよ。
「それでは、魔物大戦の授業を開始します」
カチカ執政官はそれを気にせず、授業を続ける。
この人図太いのか、それともただ夢中になっているのか…。
「魔物大戦、これはおよそ五年ほど前に始まった出来事です」
「きっかけは終戦の直前「ある魔法使い」と「ある戦士」の戦いがアヴァロンで勃発し、これがノフィン統一戦争の最後の戦いとなりました」
ある魔法使いとある戦士…私の聞いた話では、この二人の名前、性別、過去、あらゆる記録が抹消されているんだったな……ま、やった事がやった事だ、当然か。
「二人の戦いは次第に激化し、最後には戦士が魔法使いの命を絶った瞬間、魔法使いはある魔法を使ったのです」
「その魔法の詳細は今も秘匿されている禁術の一つ…名前すらも秘匿されています」
「兎に角、魔法使いはその魔法をにより、自身の内に眠る樹木を発芽させ、アヴァロンの地を自らの血で染め上げ、天高く聳え立つ樹木で、空すら赤く染めたのです」
……ん?ちょっと待った、自身の内に眠る樹木を発芽させた?身体が樹木になるのは、純血のエルフだけじゃないか?
「その通りです、シェリーさん…そう、樹木になるのは純血エルフだけ」
「実はある魔法使いは、純血のエルフだった、という事だけが判明しています」
「一説には、魔法使いは魔法を使ったのではなく、自身の樹木を抑える魔法を解いた…という説があります」
成る程…話の腰を折ってすまない、続けてくれ
「はい、魔法使いの血に染まったアヴァロンの地は、赤い雨が降り注ぎ、その赤い雨を浴びた人達は、魔物と化しました」
「兵士…市民…老若男女問わず、無差別に魔物へと変化していき、更にそれらはアヴァロンからノフィン各地へと侵攻を開始」
「こうして、魔物の侵攻を食い止める為、ノフィン国とエルフ達は結託し、ノフィン統一戦争が終わり、魔物大戦が始まったのです」
カチカ執政官が一呼吸置くと、徐に立ち上がり、ラナちゃんの首筋を爪先でなぞる。
「おっひゃあ!?」
「そして、現在ではある魔法使いの樹木から種子が散り、これが発芽…樹木の本数など、詳細はまだわかっていませんが、このままではアヴァロンの地だけでなく、ノフィン全体が魔物大戦の地へと変貌してしまいます」
「……ここだけ、分かってもらえれば今後の話には差し支えありません、よろしいですね?ラナ様」
「は……はい」
──カチカ執政官のその顔は、どことなく怒っている様に見えた。
─ラナの身体能力─
実はめちゃくちゃ体が柔らかい。




