その24 待ち望んでいた事
─前回のあらすじ─
帝都オーディエに辿り着き、ラナと別れを告げたヨミエルは、事の発端となった男の詳細を探る為、『三途の対岸』へと足を運ぶのだった。
『三途の対岸』そこには、様々な店が構えられている。
雑貨店、武器屋、果ては病院まで、多種多様な店が、三途の対岸に看板を掲げている。
どの店にも共通している事は、国の許可なく勝手に商売をしている……所謂、闇市という物だ。
そんな、無秩序一歩手前の闇市を通り抜け、自分は育ての親であるエイディに着いていく。
火の光が照らす大通りを抜け、薄暗い路地裏を通っていくと、周りの廃屋と比較して、綺麗な店が目の前に現れる。
「入ってくれ」
エイディが店の扉を開け、中に入ると、自分も続いて店の中に入る。
──相変わらず、ここは不思議な空間だ。
帝都オーディエには、異邦の風が吹き、街の背景もそれに伴って来ている。
そんな異邦の風の終着点が、この武器屋……そう思えるほどに、この場所は異邦の風景に染まっていた。
赤黒い絨毯には、異邦独特の模様が施され、椅子に机、小物の全てが、異邦独特の装いを見せる。
豪華絢爛……とは違うが、何処か厳かにも思える雰囲気が、武器屋全体を包んでいた。
「その銃を見せてみろ」
エイディが椅子に座り、自分に短銃を見せる様に促す。
「さっきも言ったが、金ならないぞ……ツケにしてくれ」
「タダでいい、役目の終えた老いぼれより、命を賭して稼いでいる若者の方が必要だろう」
エイディの提案に少し悩んだが、結局自分は、エイディに銃を手渡した。
「……ふむ、少し 解体して、中を見てみるぞ」
エイディは、手慣れた手つきで工具を扱い、銃を解体していく。
カチャカチャと、部品が外れ、鉄が擦れる心地の良い音が店に響き、自分とエイディは無言のまま互いに座っていた。
「…………アンタ、自分の真似事をしている様だな」
先に、沈黙に耐えられなくなったエイディが口を開いた。
真似事……恐らくエイディは、あの少年との一件を言っているのだろう。
「……子供の頃、さっきの子と同じようにアンタに拾われなかったら、今頃何処かで野垂れ死んでた」
「だから、アンタのその行動を、自分は心の何処かで受け継いだのかもしれない」
「…………そうか」
それだけ伝えると、自分とエイディの間には、部品の擦れる音以外聞こえなくなった。
「……アンタ、この銃を何発撃った?」
暫くすると、エイディがもう一度口を開く。
「数えていないが……10発以上は撃っていない」
「……成る程、ならコレは恐らく貴族の者が所持してたのかもな」
「内部が綺麗すぎる、発砲どころか、外にも余り持ち出していないんだろう」
「そして、この持ち手の刻印は持ち主が自分で彫ったのか……職人が彫ったにしては削りが甘い」
その言葉を聞き、事の発端となった人物を思い浮かべる。
あの白いローブの装い……貴族の者には見えなかった。
この銃が貴族の所有していた物だとすると、盗んだのだろうか。
この銃を調べれば、何か分かると思ったんだが、余計に奴の人物像が遠のいた気がする。
「……この借りは必ず返す」
「別に、気にするな」
そう言ってエイディは、解体した銃を組み立てていく。
「完了した、ガタつきも余った部品もない」
『──我々はオーディエの使いである!ヨミエルという冒険者を探している!この場に来なかっただろうか!』
エイディの作業が完了した瞬間、突如、扉の外から少年の様な、聞き覚えのある声が響いた。
「……古い手口だな、チンピラの強盗だろう……二階に行け、匿ってやる」
「いや、自分が出る、恐らく知っている人物だ」
自分は扉の前に立ち、ゆっくりと扉を開く。
すると、扉の隙間から刃が飛び出し、自分の首筋に、冷たい氷の刃が突きつけられる。
「……は?」
呆気に取られているエルフの少女に、自分は口を開いた。
「冷たいから刃を下ろして欲しい」
互いに状況を整理し合うと、どうやらギブルは、自分に密偵を一人送り、監視していたらしい。
もっとも、自分が裏道で三途の対岸に来たせいで、見失ったらしいが。
そしてここまでの道のりは、スリを働く隻腕の少年から教えられ、孤児院へ向かい、そこから自分の手の平から垂れていた血痕を頼りに、ここまで来たらしい。
治安の悪い場所だった故か、どうやらギブルは自分が攫われたと勘違いをしていた様だった。
それにしても……自分が血を流していた事を、いまさら思い出した。
傷口を見ると、何も感じなかったはずの手の平が、ジクジクと傷み始めた。
「断罪機関ギルダン……治安維持や魔物討伐を主な活動とする組織だろう、その構成員が、一体何の要だ?」
エイディの言うことは最もだろう、穏やかではない一派の人間が、自分を探してやって来たのだ。
「評議会まで来い、冒険者の貴様に依頼がある、拒否は許さん」
ギブルはそれだけ言うと、振り返って店から出ようとする。
評議会……議会の議員たちで会議を行い、法律の制定などを行う会議の場、この国家体制を合議制と言ったか……。
「依頼の内容は?」
ギブルに向かって言葉を投げかけると、ギブルは加虐的な笑みを浮かべ、自分を嘲笑う。
「分かってて聞いているのなら、時間の無駄だ」
「評議会に着くまでに、貴様のその気色の悪い笑みを直しておけ」
……どうやら自分は、こうなる事を、心の何処かで望んでいたらしい。
「エイディ、仕事が入った、今度ここに来た時にこの借りを返す」
「別にいらないが……アンタが返したいと言うなら、拒みはしない」
自分はギブルに着いていき、武器屋を後にした──
─評議会─
評議会とは、ノフィン統一戦争が終わった後、ノフィン全体の法律の制定などを行う為に設立された国家体制である。
その評議会には、物流や冒険者組合を主に生業とする『白狗商会』
魔物討伐や、治安維持、場合によっては魔族の討伐を行う治安維持機関、またの名を、断罪機関『ギルダン』
アヴァロンの監視や、魔族の保護活動による魔族の救済を理念に掲げる教会『アトメント』
これら三つの組織が派閥となり、ノフィンの秩序を支えている。




