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その20 やあやあ我こそは

─前回のあらすじ─


フローシフ教団の教祖、ダアムはヨミエルという名に何かを思い、その場から姿を消した。

その瞬間、ラナに常夜の樹木を調べる様に促すと、常夜の樹木から「スマートフォン」と呼ばれる謎の遺物を発見する。


それと同時にがしゃどくろが再び襲いかかるも、ラナはスマートフォンから放たれる魔法を駆使して、これを撃退するのだった。

 ──あれから自分たちは、遺跡の中から生存者を見つける事ができず、カメトルのいる場所へと戻った。


「──そうか…………ダメだったか」

 事情を説明し終えると、カメトルは深いため息を吐き、しばらくして、兵士に撤収の号令を出す。


 それを見届けたシェリーがため息を吐くと、ミライの方へと歩いて行く。


「ライター」

「ほらよ」

 シェリーは鞄から一本のタバコを取り出すと、ミライがライターを取り出し、タバコに火をつける。


「──フゥ……グッ」

「ゲホっ……こほ……」

 シェリーがタバコを一口吸い、咳き込むと、タバコを地面に落とし、それを念入りに踏み消した。

 踏み消す……というよりも、恨みでもあるかの様に念入りに、タバコをグリグリと踏み締める。


 そしてとうとう足を退けると、タバコは原型を留めておらず、もはや茶色いクズに白い紙が混ざっているだけだった。

「さ、行こうか」


 …………死者のいる場にポイ捨てするのか、とは言えなかった。


 自分たちも兵士たちの準備を手伝い、それぞれ行動していると、焦った様子の兵士の声が、耳に入った。

「ですから!ここは()()()()管轄(かんかつ)から外れているんですよ!!」


「ん?どうしたんだろ」

 自分とラナは声のした方に向かうと、何やら兵士と少年が言い争いをしていた。


 少年の背丈は低く、兵士の胸辺りに頭がある。

 そして背格好は、灰色の装束に身を包み、黒い髪は真っ直ぐ、綺麗に揃えられており、その髪からは長い耳が飛び出している。


 エルフの魔法使い、自分から見た第一印象はそれだった。


 エルフの少年がこちらに気づくと、兵士を押しのけ、大きな声で名乗り上げを行う。

「ちょっ「やあやあ!!我こそは!!断罪機関ギルダンの竜!!四代目ギブルの!!ギブルである!!」

 二回ギブルと言ったぞ。


「貴公!!名を名乗れぇいッ!!」

 ギブルは名乗りをあげるよう催促する、あの様子から、自分に向かって名乗りをあげているのは確かな様だ…………しょうがない、名乗るとしよう。


「自分はヨミ──!」

 名乗り上げようとした瞬間、突如自分の太腿(ふともも)に激痛が走る。

 見ると、自分の脚に氷の矢が突き刺さっていた。


 ──魔法。

 それに気づいた時にはもう、遅かった。

「──もう名乗らんでいい」

 ギブルが自分の背後に回り、自分の首を絞める。

 力は入っていないが、この脚では抜け出すことは難しい。

 そして、先程の(やかま)しさとは打って変わり、静かで冷たい殺意が、自分に突き刺さっていた。


「ヨミエル!」

 ラナがギブルに向かって手帳を構える、その刹那、ギブルは自分の懐から銃を奪い取り、ラナに狙いを定める。

「やめておけ、銃弾が先にお前の頭に辿り着く」

「──っ!!」


「何があった!!ッ!?貴殿は!?」

 カメトルが騒ぎを聞きつけ、場に駆けつけると、自分の首を絞めるギブルに驚く。


「カメトル殿か、この状況は一体どういうことだ」

「何故、拘束もせず、魔族が歩いている」

「それは……ッ!」

 ギブルはどうやら……ラナが目当てらしい、カメトルとも何か関係がある様だが、自分にはどうでもいい。


 ──ラナを狙うならコイツは敵だ。

 自分の結論はそれだった、自分は覚悟を決め、氷の矢に手を伸ばした。


「やめなさいギブル!!」

 どこかから焦った様な女の声が聞こえ、皆がそちらに視線を向ける。


 自分もそこを一瞥(いちべつ)すると、血の濃いアルマ…………小柄だが、人程の体格であり、全身を灰色の毛皮で覆い、頭から生えた長い耳は後ろに縛っている。

 その姿は二足歩行する(うさぎ)、そう捉える事ができた。


()()()殿まで!?何故ここに!?」

 執政官………… ノフィンの政治の取り決めや投票などを行う官吏(かんり)、その唯一の人物。

 そんなノフィンにとって、かなりの権力を持つ人物が何故ここに…………。


「執政官殿、手出しは無用です……この者を制圧し、その後この魔族をそちらに連れて参ります」

「そういった事を言っているのではありません……それに、ギブル、あなたの為にも言っているのですよ」

「なにっ……」


 ギブルが自分の方へと視線を向けると、刺さった氷の矢が折れている事に気づいた。

 自分は、ギブルのこめかみに向かって折れた矢を突きつけていた。


 氷の矢を持った手は、火傷するほどに冷たく、もはや手に張り付いていて、もう離れない。

 しかしこれで、少しギブルに向かって矢を動かせば、致命的な一撃となるだろう。

「貴様…………フンっ」


 ギブルは自分から手を離し、解放する。

 それと同時に、ラナが自分の太腿に手をやる。

「冷っ……たぁ……!」


 ラナのお陰で身体の傷は癒えたが、冷たさのせいか、かなり足が痺れていて、立つことは出来なさそうだった。

 手中の氷の矢も、いつの間にか消えていた。


「……此度のご無礼、どうかお許しを」

 執政官は深々と、自分に頭を下げる。

 それに比べ、ギブルの方は銃を持ったまま自分を見下ろしている。

 執政官もそれに気づいているだろうが、何か言う気配もない。

 どうやら、警戒を解くつもりはないらしい。


「私はノフィン国の執政官、カチカ、以後、お見知り置きを」

─ノフィン統一戦争の終わり─


百年続いたノフィン統一戦争は、突如終わりを告げた。

ノフィン国のある戦士に恨みを持った「ある魔法使い」と、その魔法使いに執着する「ある戦士」の戦いが、ホカイの大地で最も繁栄した都市『アヴァロン』で起こった。


たった一人で戦士の率いる軍勢に立ち向かう、魔法使いと、それを迎撃する戦士。

二人の戦いは熾烈を極め、最後には、戦士の放った一撃が、魔法使いの命を絶ったのだ。


しかし、魔法使いの意思までは絶てず、魔法使いは最後の魔法を解き放ち、自身の樹木を発芽させたのだ。

発芽した樹木は戦士を巻き込み、更には雲を突き破るほどに巨大に聳え立ち、辺り一体の空をまるで血で染まった様に赤く染めた。


その空からは赤い雨が降り注ぎ、それを浴びた人間は、自我を失った獣「魔物」へと姿を変えた。

その魔物達は、アヴァロンからノフィン各地へと進行を始め、目についた生き物を次々と無作為に襲った。


第三勢力である、強大な力を持った「魔物」それに対して、ノフィンの民とニムドの民は、争っている場合ではないと、結託して魔物の討伐「魔物大戦」へと向かうのだった。


皮肉にも、新たな戦いが、百年続いた戦争をあっさりと終わらせたのだ。

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