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その13 くだらぬ議論

─前回のあらすじ─


キメラを退けたヨミエルとラナ、その後ヨミエルはカメトルとラナをどうすべきかを話し合い、一触即発の状況をシェリーに諭されるのだった。

「俺はミライ、元傭兵で元冒険者」

「ヨミエル、右に同じく」

「あっ、ズリィ」

「タトル・カメトル、この駐屯地の団長をしている」

 苗字持ち……カメトルは貴族だったのか。

「自己紹介は終わったな、では、先ほどの続きを──」


「待った、魔族の彼女なら、まだ治療の最中だ、これ以上彼女抜きで進めれば、余計ややこしくなる」

「ではどうするつもりだ」

「そうだね……さっきのヨミエル君とカメトルさんの話し、帝都の元医療従事者の観点から、意見を述べようか?」


 なるほど……確かに医療に精通していて、尚且つ帝都の事を知っている。

 話しを聞いておくのも、有益かも知れない。

 自分はシェリーの提案を飲むことにした。


「いいだろう、では頼む」

「あいわかった、ではまず結論から言うと、どちらの意見も正しいところと、間違っているところがある」

 シェリーが話し始めると、自分に向かって指をつきつける。


「まずヨミエル君の意見、彼女の力を目の当たりにした私から申し上げると、彼女の力を帝都が放っておく事はないだろうね」

「やはりな…………」

「だが一つ、今現在の帝都の政策から見るに、彼女を実験動物として扱う事はないだろう」

「なに?」


「確かに、魔族は帝都に入れないという法律があるが、元々帝都にいる魔族や、正規の手続きで入った魔族にはその法律が適用されない」

「そうじゃないと、カメトルの「正規の手続きをして帝都で保護する」という発言と矛盾してしまう」

「確かにそうだ……だが、しかし、それがなんだと言うんだ?」


「考えてもみたまえ、帝都が本気で魔族を排斥(はいせき)したいなら、元々いる魔族を全て追い出すし、帝都に入れる手続きなど存在さえしない」

「つまり、帝都はまだ魔族に対して()()の立場を貫いているんだ」

「それが何を意味するか?そう、もし帝都が彼女を実験動物として扱えば、それは魔族に対して敵対します。と言っているようなものになる」

「……ッ!だが、帝都がラナの存在すら隠さないとも限らない!」


「残念だがそれはできない、何故なら、魔族の力自体が証拠になるからだ」

「原因不明のキメラの襲撃、それを退けた君と魔族の彼女、果てには力を使って負傷した兵士を救った」

「この三つの事実を隠すには、莫大な金と人員が必要になる、しかも、隠したところでだ、いきなり「抱きしめればどんな怪我でも治す医療ができました」なんてどう説明する?」


「ッ!!その通りだ……確かに、帝都がラナを実験動物として扱うとは、考えられなくなってきた………….」

「スゲェ!ヨミエルを黙らせちまった……シェリー!俺もカメトル黙らせていいか!?」

「拳で黙らせるつもりだろ、ダメだ」


 自分がシェリーの弁論に圧倒されると、腕を組んで話を聞いていたカメトルがいきなり喋り出した。

「確かに、これで俺の提案が正しい事が立証されたな……しかし、一つだけ言いたい事がある」


 カメトルがシェリーに指を突きつけ、意義を申し立てた!

「意義あり!帝都が魔族に対して中立の立場をとっているという発言は決定的に矛盾している!」

 カメトルの意義ありに、シェリーはため息を吐き、発言する。


「医療従事者の観点から意見を申し上げるって言っただろう、いつから互いの弁論を交わす場になったんだい」

「……………………はい」

 …………シェリーの鋭い一撃に、カメトルは逆転の(しょ)を掴む間もなく、撃沈した。


「仕切り直しだ、カメトルさんの意見だけど、魔族の彼女……ラナちゃんっていうのかな、彼女を帝都で保護するっていう意見は、私も賛成だ」

「だが、彼女の力を帝都の医療技術に取り入れるという意見は、正直私も結論を決めかねてる」

「それは何故だ?」

 カメトルは先ほどの言葉が余程答えたのか、シェリーの言葉に反論する様子もない。


「医療は患者の症状によって発展していく、簡単に言えば、医療は治せない病気や怪我を治す為に発展していくんだ」

「逆に言えば、治せる病気を今更解明する必要はない」

「つまり、ラナちゃんの魔族の力が今の医療に入れば、今後の医療がどうなるかは火を見るより明らかだ」


「ラナちゃんの力に依存して、今後の医療の発展が遅れるのは勿論…………最悪、今現在発展している医療すら失われる可能性もある」

「だが、彼女の力を解明できれば、ノフィンの医療は世界一の医療になるだろうね」

「フム…………あの魔族の力を利用するには、それ相応の危険が伴うということか」


 シェリーの弁論が一通り終わると、自分たちは暫くの沈黙の後、ラナをどうするのかをそれぞれが考えていた。


 …………何をやっているんだ、自分は……。

 この場の空気のせいか、今の自分を客観的に見る事ができた気がする。

 只々(ただただ)ラナに生きる喜びを知ってもらおう……それだけを考えて、行動していた。

 ……自分が如何に自分勝手に、ラナの事を考えていたのかを、痛感した。


「ごめんくださーい……皆んながいる場所ってここであってる〜……ね?」

 ラナが天幕内に入ると、場の空気に気圧(けお)されたのか、天幕の入り口で固まる。


「貴様か……入れ、重要な話がある」

「えっ?いや待って、私も言いたい事あんだけど」

 ラナが天幕に入り、自分たちを見回すと、口を開いた。


「イノさんとカワズさんから聞いたけど、ここの駐屯地って遺跡の調査してるんだよね」

「それで、治した人の中から、遺跡の中からキメラが現れたって言う人がいたんだ」

「それで私、遺跡の中に取り残された人たちを助けたいの、だからお願い、みんな力を貸して!」

 ラナがそう言うと、深々と頭を下げ、自分たちに協力を願い出た。


 …………自分たちがくだらぬ議論をしている間に、ラナは目の前の人を助ける為に、危険な場所へと足を踏み入れようとしている。


 そうだ……ラナは人の為なら、どんな危険すら(かえり)みない、そんな優しくて勇敢な人だ。

 自分はそれを思い出し、自嘲(じちょう)的な笑みを浮かべ、ラナの願いに応えた。


「……わかった、なら今すぐ出発しよう」

「ありがとうヨミエル!やっぱいつも頼りになるよー!」

「…………お互い様だ」


「んじゃ、俺も同行するかな、通りがかった船だ」

「乗り掛かった船だろう?ま、私たちは偶然通りかかっただけだから、似たようなものだが」

「俺は団員を集め、辺りを警戒しよう……他にキメラの様な化け物がいないとも限らない」


 先程までの重苦しい空気が消え去り、ラナの人を助けたいという気持ちが、皆の心を一つにした。

 彼女のその意思と、気高さに、自分は勇者の二文字が、頭に浮かんだ。

「そういえば、みんなでなんの話してたの?」


 ──「さぁな、くだらなさ過ぎて忘れた」

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