お節介(後編)
「よし、特に連絡はないからとっとと帰れ。」
SHRの最後にそんな言葉を残して先生は足早に教室を出ていった。その声とお同時にクラスの中がどっと騒がしくなる。
「よし、行くか。」
俺はその場で大きく深呼吸をして、教室を出ていく。
「・・・。」
場所は移り、俺は屋上につながる階段を確かな足取りで上がっていた。そして、屋上の扉を開ける。
「遅かったじゃねぇか。」
そこには仁王立ちしている自称3年生がいた。
「これでも急いだほうなんですけどね。」
高圧的な態度に俺も皮肉気に返す。
「時間も惜しい、さっさと本題に移るぞ。単刀直入に言うが琴音に2度と近づくな。」
自称3年生は表情を怒りに歪めながらそう言い放って来た。それに対する俺の答えは・・・
「断る。」
単純明快だった。
「なっ!?」
断られるとは思っていなかったのか自称3年生は驚きの声を上げる。
「別にお前が誰を好きになろうが勝手だがそれをそいつに押し付けるなよ。」
「っ!別に俺は押し付けてる訳じゃっ・・・!」
「押し付けてんだろうが。お前のその行動のせいでそいつがどれだけ困ったりしてるかわかってんのか?お前のその自分勝手な我儘で誰が悲しんだと思ってんだよ。甘えんのも大概にしろよ。」
「うっ、うるさい!何で部外者のお前にそこまで言われなきゃならないんだよ!」
自称3年生は駄々をこね続ける。
「確かに俺は部外者だ。本来ならあんたにこんなことを言う権利も持っちゃいない。・・・だがな、あんたのその行動で苦しんでるやつがいるってんなら話は別だ。それがクラスメイトなら尚更な。」
「・・・黙れ。」
「いい加減分かれよ。幼馴染ってのは所詮、近所の人間ってだけで特別な関係でも何でもねぇんだよ。」
「黙れェェッッ!!お前に何がわかる!周囲に恵まれたお前に何がわかる!お前なんかが分かったような口を利くなァァッッ!!」
そう言って、自称3年生は固く握りしめた拳を大きく振りかぶり、勢いよく振り終わした。
”ガスッ!”
鈍い音が小さく響いた。
「・・・何で避けない!」
「痛ってなぁ。」
俺は自称3年生の拳を避けることなく正面で受けた。当たり所が悪かったのか鼻からは鼻血がポタポタと垂れてきた。俺はポケットからハンカチを取り出して、鼻を抑える。
「澪や淳と一緒にいると嫉妬からか、よく陰口ややっかみを言われたよ。」
「えっ?」
「物を隠されるのもザラだった。」
「何を・・・。」
「もっとひどいのは今みたいに人気のないところに連れていかれて殴られたりしてたな。」
「・・・。」
話を聞いていくうちに何の話か理解したのか自称3年生は静かになっていった。
「余計な心配を駆けさせたくなくて何も言えなかった。これが中学ではほぼ3年間ずっとだ。これを聞いても恵まれてるって言えるか?」
「・・・。」
対する自称3年生は何も答えない。
「まぁ、何が言いたいのかというと一括りに幼馴染って言ってもいろんな種類がある。そして、俺の場合は極論で言えば『ずっと仲の良い友人』ってだけだ。確かにあんたらも昔は仲が良かったのかもしれない。だがよ、その過去の出来事を今の今まで引っ張ってくるってのは違うんじゃねぇか?」
「それでも俺は・・・」
「部外者の俺が言うのもあれだが、拒絶されたなら潔く身を引け。好きな女の幸せくらい黙って祝福してやれよ。それでも諦めきれないってんなら困らせない程度にアピールでもなんなりするんだな。それがカッコいい男ってもんだろ。」
俺はそんなクサイ言葉を言い放ってから屋上を去った。
(なれないことはするもんじゃないな。)
俺は痛む鼻をハンカチで抑えながら心の中で呟いた。




