文化祭2日目(後編)
「それじゃあ、みんな。文化祭、お疲れ様!」
「「「お疲れ~」」」
ファミレスの端っこでジュースを片手に持った実行委員がそう声を発すると、同じくジュースを持っているクラスメイト達もそれに答えた。
「大変だったけど、問題なく終えることができたのはみんなのおかげだ。この後は、存分にお互いを褒めあおう!それじゃあ、乾杯!」
「「「乾杯!」」」
そう言って、皆はジュースや食事をしながら騒がしくしだした。
「お疲れさま。」
一人、寂しくドリンクバーのコーヒーを飲んでいると隣にジュースを手に持った淳がやってきた。
「翔斗の心配も杞憂に終わったようで何よりだよ。」
淳の言葉に俺は心が少しもやっとするのを感じた。
「・・・何かあったの?」
そんな俺の様子に気が付いたのか淳が顔を覗き込んできた。
「内藤が来た。」
俺が簡潔に答えると淳は表情を強張らせた。
「特に何もなかったけどな。・・・まぁ、お前が言いたいこともわかるよ。」
「あいつ・・・よくもぬけぬけと。」
淳は歯ぎしりをしている。
「俺も正直、澪がなんであんなことをしたのか気になるけどな。」
俺は横目でクラスの男女に囲まれている澪を見ながら呟く。
「分からないことを考えても仕方ないし、今は楽しもうぜ。」
「うん、そうだね。」
淳は俺の言葉に何故か驚いた後、頷いて答えた。
「それじゃあ、文化祭の終了に」
「「乾杯」」
俺たちもその後は何も考えずにお疲れ会を楽しんだ。
「・・・。」
その後、2次会に淳は行くそうだが俺は断った。思いのほか疲れがかなり溜まっているため体力を回復したかったためである。
俺は、夕日が赤く染める街をゆっくりと歩き続ける。すると・・・
「待ってたよ。」
俺の家の塀に澪が寄りかかるように立っていた。
「2次会はどうしたんだ?」
「それよりも翔斗君との話の方が大切だったからね。」
どうやら澪は俺との約束を守るためにわざわざ2次会を欠席したらしい。
「とりあえず、家の中に入るぞ。」
澪は俺の後に続いて家の中に入ってきた。
家の中は無人だった。結衣もまだ帰ってきてないようだ。
「じゃあ、翔斗君の部屋で待ってるね。」
そう言って、澪はするりと階段を上がって行った。俺も麦茶を用意してから部屋に向かう。
「・・・さて。それじゃあ、一体どういうつもりだったのか聞かせてもらおうか。」
そう言う俺の声には僅かだが確かな怒気が混ざっていた。
「まずは、謝るね。心配をかけてごめんなさい。」
そう言って、澪は俺に深く頭を下げた。俺がどれだけ心配していたかはわかっているらしい。
「分かってるなら何であんな危険なことをした。」
「・・・私の決意を表すためだよ。」
なおも、俺が問い詰めると澪は申し訳なさそうな表情から一転し、真剣な表情になった。
「決意?」
俺は澪の『決意』という言葉の意味が分からずオウム返しに聞き返す。
「今までは私自身の後ろめたさから逃げるために翔斗君に遠慮していたけど、私はもう逃げない。」
「・・・。」
俺は澪の言わんとしていることを理解し、その上でその決意を受け止める。
「私は、今の翔斗君も昔の翔斗君も両方好き。だけど、どちらか選べって言われたら間違いなく『昔の翔斗君の方が好き』って答える。」
「・・・それで?」
「だから、私ももう遠慮はしない。全力で取り戻して見せるから。」
「そうか。」
澪の決意表明に俺は静かに呟いて返す。
「翔斗君が『やめてくれ。』って言ってもやめないよ。」
澪は内藤との再会という出来事が起こった瞬間からこうすることを決めていたのだろう。だから、あの時は危険を冒してまで内藤に会う必要があった。
「・・・好きにすればいい。」
俺はまたしても、簡潔に答える。すると、澪はその答えで満足したのか「じゃあ、今日はもう帰るね。」と言って部屋を去っていった。
澪の言う通り、昔の俺が戻れば淳も澪も結衣も喜ぶだろう。3人が喜んでくれるのなら俺はそれでもいいと思って「好きにすればいい。」と言った。
しかし、俺はその『過去と向き合う』という行為が無性に怖く感じられた。
文化祭編はこれにて終了となります。今後からは2年生のメインイベントである『修学旅行』とこれまで引いてきた伏線の回収になると思います。この作品も終わりがようやく見えてきましたね。最後まで、「四大美女と完璧イケメンとその親友」をよろしくお願いします。
それと、またしても読者の皆さんに質問です。『修学旅行編』はどこに行けばいいですかね?個人的には京都とかかなぁと思っております。皆さんの意見をよろしくお願いします。




