文化祭1日目(中編)
「っ!やめてください!」
注文を聞き終え、厨房にオーダーの書いた紙を渡した直後、女子のそんな声が聞こえた。声のした方向に視線を向けるとそこには奉仕役のメイド服を着た女子生徒と客としてきているらしき男子生徒がもめていた。ふと、周りを見渡すと、店の中が喧噪で溢れかえっているためかそのことに気付いた人はいない。
「・・・仕方ねぇか。」
俺は深く溜息をついてから覚悟を決めてそのもめているところに向かった。
「何かあったのか?」
もめている女子生徒の隣に行き、そう聞いた。女子生徒は俺が来たことに気付いたのか少し安堵した様子だったがすぐに事の顛末を説明し始めた。
「この人が急に私の写真を撮ってそれをネットに上げようとしたから思わず・・・。私は嫌だって言ったんですけど。」
女子生徒の説明を聞いて、俺はそれほど一大事ではないことにホッとしながらも表情を引き締め、諸悪の根源である男子生徒の方を向いた。そのことに気付いた、男子生徒は心なしか俺の事を怖がっているようだ。
「お客様、当店のメイドあるいは執事の写真を撮るのはたとえ合意の上であろうとも禁止していると受付で聞いているはずですがこれはどういう事でしょうか?」
「う、うるせぇ!俺たちは3年生だぞ!」
俺が冷たい声色で問い詰めると、その3年生はパニックに陥ったのか意味不明な弁解を始めた。
「とにかく、ルールはルールなので出禁とさせていただきます。」
「っ!」
俺が冷酷にそう告げるとその3年生は体を震わせた。3年生は体を震わせるだけで店から出ていこうとはしなかった。
「・・・何度も言わせるな。早く、出て行け。」
俺が底冷えするような声で告げると、その3年生は金を置いて店から去った。その背中をしっかり見届けてから俺は固めていた表情を崩し、軽く溜息をついた。
「ありがとう、田宮君。」
すると、被害にあった女子生徒が声をかけてきた。
「あぁ、別に大したことじゃない。」
俺が首を振るも、その女子生徒は「それでも、ありがと。」と言ってきた。
「・・・もしかして私の名前、分からない?」
俺がどこかよそよそしいことに気付いたのか女子生徒はジト目でそんなことを聞いてきた。
「・・・。」
俺は何とか記憶をたどり思い出そうとしてみるが、分からなかった。
「すまん。」
「私、これでも一応クラスメイトなんですけどぉ~?」
問い詰められ、気まずくなった俺は思わず顔をそらす。
「ふふっ、許すよ。じゃあ、改めて自己紹介するね。私の名前は『佐々木 琴音』だよ。スリーサイズは・・・」
「待て、そこまでは聞いていない。」
佐々木がスリーサイズを言おうとしたところで俺は待ったをかけた。
「そう?」
佐々木は意地の悪い笑みを浮かべながら「ホントに聞かなくていいの?」などとおちょくってくる。
「そんだけ元気なら大丈夫そうだな。」
「ごめんごめん、冗談だって。」
相手をするのも面倒なので仕事に戻ろうとすると、佐々木に腕を掴まれ呼び止められた。
「今度はなんだ?」
「何か奢ってあげるから文化祭が終わった後の暇な日を教えてよ。あっ、これ私のメアドね。拡散しないでね~。それじゃ!」
一方的にそう言い、佐々木は人混みの中に消えていった。
「・・・。」
俺は呆気にとられて、しばらくその場で突っ立っていた。
新キャラと登場ですね。新たなヒロインかな?




