結衣は甘えたい(後編)
「うぅ~~、ごめんねお兄ちゃん。」
眠りから覚めた結衣の口から出た最初の言葉は謝罪だった。
「気にしなくていいよ。」
俺は特に辛くもなんともなかったので結衣の謝罪を受け取らない。
「でもぉ・・・。」
結衣は納得できないようだ。
「それじゃあ、弁当を作ってくれたお礼という事で。」
俺は一向に謝罪を受け入れようとしなかった。
「・・・。」
「・・・。」
お互い沈黙が流れるが我慢比べの結果、結衣が折れた。
「お兄ちゃんは相変わらず強情だね。」
「そうだな、俺はかなり強情だからな。」
そして、今度は沈黙ではなく笑いが俺たちの間を流れる。
「そんで、どうするんだ?このままどこかに行くか、それとも帰るか。」
「そうだね、遊び足りないけど時間も時間だし今日はもう帰ろっか!」
その後、俺たちは広げてあったレジャーシートを畳んでから公園を後にした。
家に帰り、風呂に入り、夜ご飯も食べた俺は自室のベットで寛いでいた。すると、淳から急にメッセージが来た。
淳『今、大丈夫?』
俺『大丈夫だがどうした。』
淳『いや~、結衣ちゃんとのデートは楽しかったのか聞きたくてね。』
俺『・・・何で知ってるんだ?』
淳『結衣ちゃん本人から聞きました。』
俺『お前に教えてやる義理はない。』
淳『そういう反応をするってことは何かいいことでもあったのかな?』
俺『・・・淳、俺はお前が怖い。』
淳『伊達に幼馴染をやってないよ。』
「・・・お兄ちゃん?」
淳とメッセージのやり取りをしていると部屋の入口から結衣の声が聞こえた。俺は意識を携帯からそちらに移す。
「あぁ、淳と少しな。それよりどうしたんだこんな時間に。」
俺は返事をすると同時に結衣の胸元に愛用の枕が抱かれていることに気付いた。結衣が夜遅くにその枕を持って俺の部屋に来るのは決まって一緒に寝たいときだった。
「一緒に寝たいんだけどダメかな?」
結衣はなぜか心細そうな表情を浮かべながら俺の予想通りの言葉を言った。
「あぁ、いいよ。おいで。」
俺は結衣を部屋に招き入れた。携帯の画面を見るとそこには淳からのメッセージが届いていた。
淳『結衣ちゃんと翔斗の時間を邪魔するのもあれだからお暇させてもらうよ。じゃあ、いい夢を。』
すぐ傍で見ているんじゃないかと思ってしまうほど的を得たメッセージだった。
すると、近くに来た結衣がベットに腰を掛けることなく俺に抱き着いてきた。思わず抱きしめ返すと結衣の肩が震えていることに気付いた。
「何か嫌な夢でも見たのか?」
俺が幼い子供を諭すように声をかけると結衣は俺の腕の中で小さく頷いた。俺は結衣を抱きしめたままベットに寝っ転がる。すると、結衣は今までになく抱きしめる力を強くした。
「大丈夫。もう2度と寂しい思いはさせないから。」
そのまま夜は更けていった。
これにて夏休み編終了になります。次回から『2学期編』に入りますのでお楽しみに。




