ダブルデート(後編)
「悪かったな、怖い思いをさせて。」
ご飯の時間はとっくに過ぎ去っているため、落ち着くために入った店にはほとんど人がいなかった。俺は席についてから澪と高崎に謝罪した。
「私は別に気にしてないよ。」
「・・・。」
すぐに返事をしてくれた澪と裏腹に高崎は先ほどから黙ったままだった。
「・・・どうして煽るようなことをしたの?」
ようやく口を開いたかと思ったら第一声がそれだった。
「煽るようなことを言ったのはあいつらに手を出させるためだ。手を出させることによって警備員が介入せざるを得ない状況にしたかった。」
俺はあの時の言葉の意図を包み隠さず話した。
「なんでそこまでする必要があったの?」
「あのままにしておいたらあいつらは多分、お前たちにまたつっかかると思ったからだ。」
「・・・ありがとね。」
「はっ?」
高崎がてっきり怒っているのか思っていた俺は唐突に聞こえた感謝の言葉に思わず疑問の声を漏らした。
「守ってくれてありがと。でも・・・」
「あぁ、どういたし『バチンッ!』っ!?」
高崎の言葉に答えようとしたらいきなり高崎に頬にビンタをされた。
「っ!なにす、ん、だ・・・。」
反射的に声を発そうとしたが目の前の光景に遮られた。澪も突然のことに驚いているようだ。
・・・高崎は静かに赤みがかかった瞳から涙を流していた。
「守ってくれたのはうれしい。でも、もう2度とあんな危ないことはしないで。」
「・・・。」
「約束してくれる?」
「あぁ、約束するよ。」
俺が返事をすると、高崎は満足そうな笑顔を浮かべた。
「あの~、私のこと忘れてないかな?」
すると、空気と化していた澪が棘のある口調で文句を言ってきた。俺と高崎は目を見合わせたあと声を押し殺しながら笑った。
その後、澪がふて腐れて拗ねてしまったのは仕方がないのだろう。
「へぇ~、そんなことがあったんだ。」
「その男たちは出入り禁止にするように言っておくわ。」
帰りの電車で今日の出来事を淳とお嬢様に話すと、2人は予想以上に心配してくれた。高崎・澪・淳が3人で会話をしているのを眺めていると隣にお嬢様が来てこう言った。
「今日は助かったわ。」
「・・・どういう風の吹き回しだ?」
「一応、お礼を言っただけよ。」
そう言って、お嬢様は3人の会話の中に混ざっていった。目的の駅に着くまではそう時間はかからず、駅に到着し次第、俺たちは解散した。
俺は帰るなり、すぐに風呂に入ってご飯を食べてから自室のベットに勢いよくダイブした。結衣は気を使ってくれたのか俺が帰ってきたときにはご飯と風呂を用意してくれていた。
俺はスマホで現在の時間を確認した。
「10時か、早いけど疲れたし寝るかな。」
そう考えて、部屋の電気を消し、目を瞑ろうと思ったがスマホから聞こえたメッセージの通知音によって阻まれた。
『今、大丈夫?』
メッセージを送ってきたのは高崎だった。
『大丈夫だが、どうした?』
『うん。改めて、今日は助けてくれてありがとね。』
『大した事はしていないがどういたしましてと言っておこう。』
『それでここからが本題なんだけど。』
『あぁ、なんだ?』
俺がその本題について聞くと、次の瞬間驚きの文章が送られてきた。
『今まで色々と手伝ってもらったけど本当にごめんなさい。多分、私はもう
・・・淳君のことが好きじゃありません。』
『手伝ってもらったのにごめんね?じゃあ、お休み。いい夢を。』
その言葉を最後にメッセージは来なくなった。俺は高崎の言葉の真意が分からずただ驚くだけだった。




