中間テスト前
多少のアクシデントはあったものの無事1組の優勝で体育祭も終わり、今は中間テストの1週間前になっていた。
「勉強を教えてください。」
ついこの間、松葉杖が取れた澪がそんな言葉と共に深々と頭を下げてきた。
「「りょーかーい。」」
俺と淳は意図せず同時に返事をした。
俺たちが通う鳴動高校は名門なだけあってテストの難易度もかなり高い。淳と言う例外を除けばほとんどの生徒が苦労しているだろう。澪はスタイル抜群で性格も良好なのだが、難易度が高いこともあり定期テストではこうして俺たちの下に来ていた。
「でもさ、授業を聞いてればわかると思うんだけどなぁ。」
「「それはお前(淳君)だけだから。」」
俺と澪は淳の呟きにすばやく反応した。
淳は毎回、大した勉強をしているわけでもないのに決まって1位を取っている。本人曰く、「教科書を読めば大方分かる。」らしい。
「そういう翔斗だっていつも学年5位以内に入ってるじゃないか。」
俺たちの即答にムッとしたのか淳が言い返してきた。
「そりゃあ、俺は毎日コツコツ勉強してるからな。」
淳の言うとおり俺は定期テストでは毎回5位以内に入っている。これといった勉強法はなくただ毎日地道に進めていくうちにこうなってた。
「じゃあ、喫茶店で勉強しようか。」
淳の言葉に頷き、俺たちは再び歩き始めた。
(ん?そういえば、あいつは今日も来てるのか?)
俺の心の中で最近よく喫茶店に来ているある少女が浮かび上がったが無意識に頭のふちに追いやった。
「・・・舞ちゃん?」
喫茶店に入るなりテーブルに座りながら集中して勉強している高崎を見て澪は困惑の声を上げた。
「やっほー3人とも。」
高崎は俺たちが来るのを想定していたようだ。
「また来てたのか、高崎。」
「うん、お邪魔してるよー。」
俺と高崎はいつもの様に自然な感じで会話をした。
「「どういうこと?」」
「まぁ、そうなるよな。」
俺は未だに困惑している澪と淳に説明を始めた。
「・・・つまり要約すると、高崎さんがあの一件以来ここを気に入って常連さんになっていて、今日は定期テストも近いからゆったりと勉強できるここにいた。ってことでいいのかい?」
「そういうことだよ~。」
高崎は勉強で疲れたのか紅茶を飲んでいた。
「翔斗君はなんで教えてくれなかったの?」
「・・・教える必要あるか?」
「そうだけど!こう、なんか言うべきでしょ!」
冷静に話しを聞いていた淳とは裏腹に澪はなぜか怒っていた。
「えぇ?」
「むぅ~~。」
俺が真面目に返事をしないと澪は可愛らしく頬を膨らませた。
「舞ちゃんもだよ!淳君のことが好きなんでしょ?」
これ以上は無駄だと判断したのか澪はその矛先を高崎に向けた。
「そんな話もあったね~。」
高崎も俺と同じようにまともに取り合おうとはしなかった。しかし、俺は高崎の言い回しに微かに違和感を覚えた。
「澪も落ち着いて。僕たちは勉強会をしに来たんだけど高崎さんもよかったら一緒にどうかな?」
淳が得意の秘奥義『爽やか笑顔&話題逸らし』を発動した。
「ほんと!?じゃあ、お願いしようかな?」
高崎さんもそれに乗った。そして、勉強会が始まった。
はずなのだが・・・。俺は目の前の光景に心底腹を立てていた。
「・・・なんでお前はオムライスを食べてるんだよ。」
勉強をしている俺・澪・高崎の真ん前で淳はオムライスをおいしそうに食べていた。
「僕、教えるのは無理だからね。」
こいつの言ったとおり淳は頭が良いが、特に勉強をしているわけでもないため自分は理解できてもそれを他人に説明することが出来ないのだ。まぁ、いわゆる「感覚的な天才」と言うわけだ。
「ねぇ、田宮君。」
そんなやり取りをしていると高崎さんが話しかけてきた。
「どうした?」
「ここ教えてもらっても良いかな?」
「おぉ、いいぞ。」
俺は高崎さんが言っていた問題を見た。この数学の問題は授業では理解することが出来なかったのでわざわざ放課後に先生に聞きに行くはめになった問題だ。つまり、超難い。
しかし、今の俺に解けぬ問題などない!(ドヤッ)
「ここはここをこうしてこれをここに持ってくると良いよ。」
「あっ、そういうことか~。ありがとう。」
高崎さんは俺の説明で理解できたのかあっさり引き下がった。澪がなんだかものすごい視線でこちらを見て来ていたが気にしないことにした。
俺は呑気にオムライスを食べる淳を見ながら心の中で決意する。
(今度こそお前(淳)に勝ってやる!)




