魔力探査
痛てて……食器に顔を突っ込んでるし……
「起きたかい? 何やってんのさ。食べながら寝るやつがあるかい! で、それどうすんだい? 残すんなら罰を受けてもらうことになるけど?」
「すまぬな。疲労のあまり食べながら寝てしまったと見える。全て食べるゆえ少々待つがよい。それから、すまぬが顔を拭うものはないか?」
全然食べた気がしないからね。まだお腹ぺこぺこだよぉ……
「食べるのかい。そんなら文句はないね。ほれ、これやるよ。食べ終わったらあそこにトレイごと持ってきな」
「分かった。世話をかけるな。妾はボニベリア・グレブリントである。今日からここで世話になる。よしなに頼む」
「ちょっ! あんた今日来たって王女様じゃなっ、ありませんか……なぜお一人で……」
「我が国は貧しいゆえな。侍女を連れてくる余裕などない。だからこうして身一つで罷り越したまで。それから言葉遣いは好きにしてよい。妾には何の力もないゆえな」
「そ、そうなのか、ですか……じゃ、じゃ私はこれで……」
普通に喋ってくれていいのに。
あーあ、今何時だろ。こんなに広い食堂なのにもう誰もいない。ツボネさんは隣で食べてたはずなのに……
はぁ。美味しかった。魚ばっかりのうちの国と違ってこっちには色んな料理があるんだね。これはもしや来て大正解だったかも……だって何もしなくても朝晩と二回もこんな料理が食べられるんだよ? 海で漁師と一緒に網揚げをしたり畑で農夫と一緒に刈り取りをしなくてもいい。あれはあれで嫌いじゃないけどさ。
意外と王女っぽい暮らしができるのかな?
あ! 私の部屋って、どこ……?
さっきのおばさんも知らないって言うし……こんなだだっ広いところに放置されたら……参ったな……
仕方ない。ちょっと面倒だけど……
『魔力探査』
私ってこれでも兄弟姉妹の中では一番魔法の制御が上手いんだよね。その代わり一番魔力が低いから大きくて派手な魔法は使えないけど……
こうやって部屋の中にいる人間の魔力を探ると……
ふむふむ。この部屋は中に誰かいる。よって違うね。こっちも三人いるし。
魔力探査って派手に使うと相手にも使ってることがバレちゃって気を使わせてしまうんだよね。その点私の場合は魔力が低いからまずバレることはないんだよね。
こうやって誰もいない部屋を探せば、そのうち私の部屋も見つかる……よね? 最悪無人の部屋なら勝手に入って寝たって構わないと思うし。
「こんな時間に何をしておる?」
「うひゃい!?」
びっくりしたぁー! 私に気配を悟らせないなんて……あ、王子。
「妾の部屋が分からなくてな。こうして一つずつ探しておった。ナジーラは知っておるか?」
「知るわけがない。ツボネから聞いておらんのか?」
「食事の前までは一緒だったのだがな。妾が食事中に寝てしまったせいでそっとしておいてくれたらしい。ナジーラこそこのような時間まで何をしておったのだ?」
王子って忙しいイメージがあるんだけどな。
「もう寝ようと思っていたのだがな。妙な魔力を感知したもので出向いてみたまでよ。悪意を持った者が後宮に入り込んだとあっては一大事だからな。感知できるかどうかぎりぎりまで魔力を抑えた見事な制御だった。驚いたぞ?」
「世辞はよい。勇者王ムラサキ公の血を引くそなたならば容易いことであろう」
ちょっと悔しいな。どれだけ離れたところから感知されちゃったのか分からないけど。やっぱ大国の王子ってすごいんだな。そもそも抑えたんじゃないし。
「ふん……お前こそ世辞はよせ。来い。ツボネを叩き起こして案内させればよかろう」
さすが王子。無茶するね。でも私を放っておいて帰ったんだから当然なのかな?
ちなみにこの後私の胸ポケットに部屋の場所が書かれた地図を差し込んでおいたことを総取締さんに指摘された。よく寝てるから起こすのも忍びなかったって……ひどいよ……私夕食に顔を突っ込んで寝てたんだけど?
ナジーラには大笑いされてしまった……




