第一王子ナジーラ
居た……
ソファーに座って何か飲んでる。はぁ……いい香りだなぁ。私も飲んでみたいなぁ。
「ナジーラ王子。こちら本日グレブリント王国より到着されましたボニベリア・グレブリント王女殿下です」
やっとこっちを向いた。うわぁ、肌白ぉい。でも顔はつるんとしててあんまりカッコよくないなぁ。全体的にほっそりとしてるし。目なんかはぎょろりとしてて少し怖い。あ、でも髪の毛は黄金色で素敵。秋の麦畑を思い出すなぁ。
「お前が島国から来た奴か。父上も奇特なことをするものだ。お前に役目はない。ここで好きに過ごすがいい」
えー……何こいつ……
ゴツゴツの変な首輪してるしさ。カッコ悪ぅ。
「ボニベリア・グレブリントである。ならばその言葉通りにさせてもらおう。ところで、そなた名を何と申す?」
「ちょっ……あなた……」
へー、総取締でも顔色を変えることがあるんだ。
「貴様……この俺が誰か知らぬと申すか?」
「無論存じておる。我が夫となる御身だからな。だからこそ、そなたの口から聞きたい言葉というものがある。妾の女心が分からぬか?」
私だってよく分かってないけど……
いくら大陸最強国の王子だからってあの態度はないと思う。どうせ相手にされないにしたってさ……
「ふん、女心ときたか……黒曜石のような顔をしておるくせに面白い女だ。まあいい。俺はナジーラだ。好きに呼べばいい」
そこまで黒くないもん! せいぜい濃く淹れた麦のお茶ぐらいだもん! でも……同じ麦でもナジーラの髪の色とは大違い……
「分かった。では遠慮なくナジーラと呼ばせてもらう。そなたも妾のことはボニーと呼ぶといい」
別にいいや……これだけ無礼な話し方しちゃったらもうお呼びもかからないかな。それならそれで他の女にいじめられることもなさそう……だよね?
とりあえず、明日から何してすごそうかなぁ……
「ボニベリア様……肝が冷えましたよ。よく王子にあのような口を……」
私だってそうだよ……
「気にするでない。それより妾は好きに過ごしてよい、という話だったな?」
「さようでございます」
「ならばせいぜい学ばせてもらおう。本が読める場所はあるか?」
「書庫がございます……」
ツボネさん、その目は女が勉強してどうするって言いたそうだね。
「では明日、案内してもらおうか。それより夕食はどうなっておる?」
もうお腹ペコペコだよぉ。
「本日はご案内いたしますが、明日からはお一人で向かわれてくださいませ」
「構わぬ」
その言い方だと部屋まで食事を持ってきてくれる方式じゃないってことね。あんまり他の人達と一緒に食べたくないんだけどなぁ。どうかいじめられませんように……
へー。広いんだなぁ。これ知ってる。食堂って言うんだよね。うちの国でもこうやって全員で一斉に食べてたんだもん。でもここって後宮だよね? なんで?
「ここでは身分の貴賎に関わらず、全員がこちらで朝晩の食事をとることになっております。基本的に昼食や軽食はありませんが、食べたいならばそれなりの働きをしていただく必要があります。よろしいですね?」
「分かった。その働きとやらが何を意味するかは知らぬが、おいおいと分かるのであろう。して、どのような仕組みになっておる?」
「こちらへどうぞ」
総取締さんの後ろに並ぶ。トレイを手渡された。
「これに好きなものをお乗せください。乗るのであればいくら乗せても構いませんが、残した場合には罰がありますのでご注意ください」
「分かった」
ここ、後宮だよね? 大陸唯一の覇権国家ローランド王国の……なんでうちの国みたいにケチなことを……でもこれは好感が持てるかな。好きなのを食べていいってことなんだし。すっごく疲れてるけどお腹だってぺこぺこなんだから……船の上では食べても吐くだけだったもんなぁ……
あぁー迷うなぁ。どれもこれも美味しそう。見たことのないお肉とかあるし。やっぱ大陸ってすごいなぁ。よだれが垂れそう……ずびっ。
「ちょっと! ちょっとあなた! 起きなさいよ!」
……あれ? ……私……寝てた……?




