ボニーの温もり
あー、びっくりした。
別に恥ずかしがることじゃないのにさ。ナジーラの口から言われると急に恥ずかしくなっちゃったじゃない。なぜか走って逃げてしまったんだよね……
でも生きててよかったぁ。いくら泳げない貧弱ヘタレ王子だからってあんなにあっさり死なれたんじゃ悔やんでも悔やみきれないもんね。はぁ……
「で、殿下! ま、まだそのお姿で!? そ、それよりもお、王子はご無事なのですか!?」
あらら、クライドさんたら人を呼びに行ったのに今ごろ戻ってきちゃってさ。もー、遅いよー! ん? その姿?
「ぎゃあああーーー!」
きゃあきゃあーー!
忘れてたーー! 私今下着姿なのにぃぃいいい! ナジーラがあまりに普通にしてるから忘れてたぁぁぁーー! 少しは反応しろってええ! そ、そりゃ瀕死の状態からよみがったわけだからさ……そんな余裕なかったのかも知れないけどさ? 私の下着姿だよ? 少しぐらい……そ、その、反応してくれても……
いやいやいや! それどころじゃない! 服がある所まで戻らないと! 私ったら昼間から外を下着姿で走り回るなんて何してんのよおおおおおお! は、早く服を着ないと! うぎぃいいいーー!
あっっ! ぎゃあーー! こっちにはナジーラがいるぅーー!
「おお、戻ってきたか。そのような姿で走っていくから心配したぞ?」
嘘だぁーー! こいつ絶対心配なんかしてないもん! その顔は面白がってるよぉぉーー!
「う、うるさいうるさぁーい! さっきまで死にかけてたくせに偉そうに! もう大丈夫なんでしょうねぇ!?」
「ふっ、そなたのおかげだ。まさか赤髪の天女セプト・リブレ様と同じ方法で助けられたとはな。やるではないか。」
「ふんだっ。それよりナジーラさぁ、泳げないなら先に言ってよね! そしたらロープと一緒に潜るって方法もあったんだからねっ!」
「なるほどな。その手があったか。そもそもだがな、泳げるも泳げないも海に入ったのは今日が初めてなのだからな。分かるはずもないだろう?」
そうかも知れないけどさぁー! 王子のくせに! 勇者の末裔のくせに! ナジーラのバカぁ!
「まあいいよ。それでさ、海の中で魔法を使ってみてどうだった?」
「ああ。なぜか酷く使いにくかったな。普段なら軽く魔力を込めるだけで使える魔法が、かなり力を込めなければ発動しなかったな。」
「でしょー。海の中って魔法が使いにくいんだよね。あんたに覚えて欲しいのはそこなんだよ。陸上でも海の中みたいに細く頼りない魔法を使えるようになって欲しいんだよ!」
これを逆に利用してさ、海の中で普通に魔法が使えるようになるとさ、陸上での魔法の威力がすごいことになるらしいんだよね。ナジーラがそうなったら地獄絵図……かな?
「なるほどな……分かったぞボニー。海の底深くで魔法を使った時を思い起こしつつ、か細く頼りない魔法を発動すればいいのだな!」
「そうだよ。魔力はまだまだ余裕あるよね? どんどんやってみようよ。」
「うむ、分かった。だがボニーよ。今日は無理だ。確かに魔力には余裕がある。だが、無理だ……」
はあ? 何言ってんの? 王子のくせに軟弱なこと言ってさぁ。今のうちにガンガンやらなくてどうするのよ!?
「じゃあどうするの?」
「宿に入る。お前の温もりが欲しい。だめか?」
ぬぬぬぬっ!? ぬっ、ぬくもり!? やっ、宿でっ!? えええええっ!?
わ、わわ、私の!? ってななな何それ!?
どっ、どどっ、どうしたらいいの!?




