孤軍奮闘
はあ、はあ、ふう、ふう……ナジーラに息を吹き込む。きついな……でも私がやめたら、ナジーラが死んじゃう……何なのこいつ……
男のくせに! 勇者の末裔のくせに! 莫大な魔力を持ってるくせに! あっさり海で溺れるなんてさ!
もうっ! 死なないでよ! 帰ってきてよ! あんた私の夫になるんでしょ! そんな様で、グレブリントで、暮らしていけると、思ってんの!? さっさと、はぁはぁ、帰って、こーい!
「で、殿下、これは、いつまで、続けるの、でしょうか……」
「ずっとだよ! ナジーラが生き返るまで! ずっと、やれぇーー!」
「はっ! はいいい!」
当たり前だよぉ! 手を止めたらナジーラが死んじゃうんだよぉ! 私だって同じ! 息を吹き込むことをやめたら……ナジーラは死んじゃう……もぉーー! こいつバカじゃないの!?
勇者の末裔のくせになんで海なんかで死にかけるのよぉーー! そりゃあさ? 海での特訓を言い出したのは私だけどさ? だからって!
王家の長男が! 勇者ムラサキ公のひ孫が! こんなに弱っちいなんて思うわけないよ! こいつのオヤジは、国王はあんなにも……怖いぐらいに精強なのに!
「で、殿下……まだ、です、か……」
「黙ってやれー! ナジーラが死んだらあんただって終わりなんでしょおーー!」
「そ、それは、そう、ですが……」
くっ、くそっ、くそぉーー! ナジーラのバカぁーー! 勇者の末裔のくせにこんなにひ弱いなんて聞いてないよぉーー! 意味が分からないほど莫大な魔力を持ってるくせに! 泳いだことないならないって言えよぉ! あれだけ大量の水で訓練場を埋め尽くしたくせにーー!
もおぉ……ナジーラの唇が、柔らかい……初めての口付けだったけど、改めて思う……こいつの唇は私と相性がいいんじゃないかって……いやいやいやいや! そんなこと考えてる場合じゃないし!
で、でも……だって、こうして息を、吹き込んでると……何かが、ナジーラと通じ合ってる気がするんだもん……なんだか甘い気もするし……
くっ、もぉう、ナジーラのバカぁーー!
「で、殿下……て、手が、も、もう限界で……」
「うるさい! 限界なら誰か他の人間を連れてこーい! 早くしろぉーー!」
「はっ、はいいいいーーー!」
くっそぉ……こいつ騎士のくせに弱っちい! たかだか数分ナジーラの胸を押しただけなのに! 私だってこの動きにどんな意味があるかなんて知らないよ! でも勇者ムラサキ公が残した書物にあるじゃないのおーー! 仲間が瀕死の時の心得がぁーー!
グレブリントの私ですら知ってるのに!
魔王を倒した勇者パーティーで唯一! 回復魔法が使えるあの方! 赤髪の天女セプト・リブレ様! あの方が瀕死に陥った時、勇者ムラサキ公がどうやって生き返らせたのかがさぁーー! 勇者ムラサキ公が口から命の息吹を与え、七色の魔法使いイタヤ・バーバレイ様が胸を押して命を全身に行き渡らせたんじゃないのよおーー! あんたの母親はイタヤ様の孫娘なんでしょおがぁーー! 気合い入れて生き返りなさいよぉーー!
もぉーー! ナジーラのバカぁぁぁぁーーーー! 勇者どころか四英雄の血まで引いてるくせにぃいいーー! さっさと帰って来ぉーーーーい!
ナジーラぁぁぁぁあーーーー!




