初めての……
ナジーラが飛び込んでから十秒、海の中でやや強い魔力が弾けた。
やった! 成功だ!
いつものナジーラじゃない! 強大とは言ってもいつもの半分も感じなかった! やっぱり私の読みは正しかったんだ! これなら、ナジーラはきっと!
「殿下……あまりに浮上が遅くないですか……?」
「そ、そうだね……」
おかしいな……もう一分ぐらい経つのにナジーラが全然浮いてこない。魔物の反応はないし魔力を使い果たしたわけでもないのに……
あっ! もしかして!
「ナジーラって泳げないの!?」
「さ、さあ、ど、どうなのでしょう……海に入るのは今日が初めてだと……ど、どうすれば!?」
「もぉーー!」
普通泳げるんじゃないの!? 人間って放っておいても浮くものだよ!?
「見ないでよ! 見たらナジーラに言いつけるから!」
「はっ、はいぃ!」
私がやるしかないじゃん! もぉーー! ナジーラのバカ! あぁあぁもぉ恥ずかしいよぉ! キャサリン姉さんやトレイナちゃんみたいな丸々した体だったら少しは違うのかなぁ……
昼なのに……下着だけになって、海に飛び込む! 恥ずかしいよぉ……
どこ……そんな深く潜ってないはずだけど……
いた!
ええー!? なんでそんな深く潜ってるの!? 水深十メイルぐらい行ってない!? バカなの!? 手足をバタバタ動かしてるし! それでなんで浮いてこないの!? あ、目が合った、と思ったら……もぉおおおーー! なに意識を失ってんのよぉおおおお! バカバカバカバカ!
いや、意外と助けやすいのかも……首に腕を引っかけて……浮上する……
苦しい……息が……も、もう少し……もう少しで……
「ぷはぁ! はぁっ、はぁ、はぁ……」
「王子! 殿下もご無事で!」
「きゃああああーー! 見るな! こっち見るなぁぁああ!」
「はっ! こ、これは失礼を! し、しかしこれでは助け上げられませんぞ!」
もぉーー! 見ないでって言ったのに!
「仕方ないから見ていいし! 早くしてよ!」
「はっ! 分かりました!」『浮身』
あっ、すごい。私もナジーラも海面から浮いていく。そして一メイルほど高くなっている岸壁へと降ろされた。
「王子! 王子は大丈夫なのですか!」
大丈夫じゃない……意識を失って、ピクリとも動かない……
「回復魔法は? もしくは治癒魔法は使えるの!?」
私はもちろん使えないよ!
「そ、それが……どちらも……ああっ王子! 王子ぃー!」
もぉおおおおーー! 何なのこいつ! 泳げない上に溺れるとか! 勇者のくせに情けない! あ、勇者じゃないか。
はぁ、仕方ない……このまま死なせるわけにもいかないし。
「ここ! ここを押して! 一秒間にだいたい一、二回でいいから!」
「え、な、何の意味が……」
「いいからやれぇーーー!」
「はっ、はいいいぃぃーー!」
よし、私も覚悟を決めないとね……まあどうせこいつと結婚するんだし……同じことだよね? そりゃあさ? もう少しぐらいロマンティックな雰囲気でさ? 優しく見つめられてからさ? 初めてってそうじゃない? あ、こんなこと考えてる場合じゃなかった!
さらば私の初めての口付けっ……んむっ……




