第二王子セーイチ
言っちゃった……私、国王陛下に何てことを……
でも、もうやるしかない。何とかナジーラの魔法制御をまともに……
ううう……どうしよどうしよ……
あ、もう朝!?
私あの部屋からどうやって帰ってきたんだっけ!?
「おはようございます。お加減はいかがですか?」
「お、おはよ! あ、朝だよね!?」
「よい朝かと」
あああ、私なに当たり前のことを!
「私あれからどうやってここまで帰ってきた……のかな?」
「ご自分の足で歩いてお帰りになられました。国王陛下の威を目の当たりにされてよく立てたものです。陛下も褒めておいででした」
「え? あ、そ、そう? えへ、えへへ……」
凄かったなぁ……あれが勇者の孫、大国ローランド王国に君臨する王の姿なんだなぁ……私の父親とは大違い……
次代のことだって私情を挟まず冷静に考えてさ。あれこそが王のあるべき姿なんだろうな。でも……
「本日はどうされますか?」
「んー、ちょっと思いついたことがあるから試してみたいかな。でもここから海って結構遠いよね?」
「馬車で半日はかかるぐらいには遠いかと」
「分かった。ちょっとナジーラに相談してみるね。あ、その前に朝ごはん食べに行くね」
「かしこまりました」
はふぅ。今日の朝ごはんもおいしかったぁ。私もう別に第一夫人とかどうでもいいからここにいたいなぁ。でもこんな生活に慣れちゃったら帰れなくなっちゃうよぉ。お風呂に食事……どうしよ……
「遅い! 俺を待たせるとはいい度胸だな!」
「だからナジーラが早いんだって。それより昨日陛下と話したよ。一週間で結果を出せって言われちゃった」
「父上と? 何だそれは……俺は聞いてないぞ? で、他に何を話したのだ?」
「えーっと……一週間で結果を出したら廃嫡の件を考えてくれるって。陛下が満足する程度の結果を……」
あ、ナジーラが愚か者を見る目で私を見てる……もぉー! あんたのために頑張ったのに!
「お前……本当に王女か? 考えなしにも程があるだろう。平地に乱を起こすような真似をしおって。まあいい。そこまで言ったのなら何か考えがあるのだろう?」
「あ、あるもん! ちょうど相談しようと思ってたんだから!」
吹けば飛ぶような小国でも一応は王女だもん! たぶん、だよね?
「ほう。さすがだな。やはり俺の目に狂いはなかったか。さあ、言ってみろ」
むうぅ、偉そうに! そりゃあまあ私よりよっぽど偉いんだけど……おねしょで火を消したくせに。
「海に行こう!」
「は? 海だと? ヴェスチュア海か、それともサウジアス海か?」
「ち、近い方……」
「ならばヴェスチュア海だな。距離的にはそこまで変わらぬがヴェリウルミ川を下ると早いからな」
ええと、ヴェスチュア海って西側だったよね。でヴェリウルミ川を下ると私が到着したポルトホーン港の北辺りに着くんだっけ。
「そこに期限ギリギリまで滞在することになるけど大丈夫? 公務とか……」
「そのようなことは早く言わぬか……お前は本当に考えなしだな。少し待ってろ。調整してくる」
「え? 大丈夫なの!?」
「知らぬ。いいから待っておれ」
悪いことしちゃった。あいつだって暇じゃないよね。第一王子なんだから……
暇になっちゃった。何か魔法の訓練でもしてみようかな。ここ訓練場だし。
「お前か。グレブリントから来た姫と言うのは」
「ん? いかにも。ボニベリア・グレブリントである。そなたは?」
見ただけで分かっちゃったよ! ナジーラをそのまま小さくしたような可愛さ! 絶対弟だよぉ。うわうわぁかわいいぃ……
「第二王子のセーイチだ。兄上が張り切っておられるのが気になってな。下らない噂も多いようだし」
うわぁ……こんな小さくてかわいいのに、もうそんなこと気にしてるんだぁ。やっぱり王族なんだなぁ。偉いなぁ。
「ちょうど今からヴェスチュア海へと向かうところだ。魔法の特訓にな」
「そ、それはまことか! 兄上が、特訓を!?」
「ナジーラの悪い癖が治るかは分からんがな。だがナジーラが廃嫡された方がセーイチ王子にとっては都合がいいのではないか?」
これは意地悪な質問かな? でも王族にとって身内が味方とは限らないもんね。
「貴様……ふざけるな! 兄上は私などより立派なお方だ! 兄上は王太子になるに決まっている!」
あれ? この子の真っ直ぐな目。本気でそう思ってるの?
「そなたは王太子にはなりたくないのか?」
「なりたいに決まっている! だが兄上を超えずしてどうしてなれようか!」
ん? 王太子にはなりたい? でもナジーラのことが大好き?
「ナジーラはそなたのことを優秀な弟だと評していたな。そなたがいれば自分は廃嫡されても問題ないとな」
「そ、そんな……おいお前! 特訓するんだろう! 兄上を、兄上を頼むぞ! 絶対どうにかしろ! 分かったな!」
この子本当にかわいいなぁ。
「いいだろう。だがナジーラがますます遠くなってしまうが良いのか?」
「当たり前だ! 兄上こそ王太子に相応しいんだからな!」
「よく分かった。ナジーラが廃嫡されるようなことはないだろう。私に任せておくがいい」
うわぁ言っちゃった……何の根拠もないのに……
「し、信じるからな! 絶対だぞ!」
し、信じられても……
それにしてもかわいいなぁ。年齢にして五、六歳下ぐらいかな?
「セーイチ、ボニーに何か用か?」
あ、戻ってきた。早いのね。
「あっ! 兄上! 聞きました! 特訓に行かれると! お帰りはいつですか!?」
「一週間後だな。留守を頼んだぞ?」
「はい! お任せください! 兄上の武運長久をお祈りしております!」
「大袈裟だ。別に戦いに行くわけではない。行くぞボニー」
「ああ。ではセーイチ王子、また会おう」
「兄上を頼むぞ! 頼むからな!」
気の強い物言いだけど目をウルウルさせちゃって、かわいすぎる……おまけにナジーラに留守を頼むと言われて喜んでるみたいだし。なんていい子なんだろう。私もこんな弟が欲しかったなぁ……




