直談判
軽率だったかな……
そもそも私が口出しすることじゃない気もするのに……
ううん、どうせナジーラが廃嫡されたら私だってここを出ていくんだし。言うなら今しかない。広大な大陸を支配する王に文句を言う機会なんて……
うん。言う。
私が何か言ったところで結果に変わりはないだろうけど。勘当とか廃嫡ってあんまりだと思う。
「殿下、国王陛下がお呼びです。すぐ支度をされてください」
「もう!? わ、分かったよ、えと、支度ってどうしたら……」
『浄化』
「汚れを落としておきました。寝汗をかいておられましたので。殿下なればこの程度で充分かと。では、参りますよ」
この程度で充分? それって着飾っても無意味ってこと?
ああああ! 緊張するよぉ……
ナジーラはなぜか平気だったのに……
今からお会いする相手はただの王子なんかとは違う……この国にただ一人しか存在しない尊い血を引くお方。
ああ……怖い。私なんてことを言っちゃったんだろ……勢いって怖い。
あああ……マリーさんがノックしてる! 何この扉? 見たこともない精緻な模様してるよ……
開いた……
「お入りください」
あ! この騎士さん知ってる! 出迎えしてくれた、えーっと……親衛騎士団のクライド・バルロウさんだ!
「失礼いたします。グレブリント王国第四王女ボニベリア殿下をお連れいたしました」
「失礼します」
「こちらへどうぞ」
いた……あのお方が国王陛下……初代国王譲りの艶やかな漆黒の髪、鍛え抜かれた体躯。座っているのに感じる威圧感。
そして……すっご……
こんなに離れてるのに感じる魔力ときたら……研ぎ澄まされた刃みたい……
量そのものはナジーラの方が多いと思うけど。
「座れ。直答を許す」
「ありがとうございます。お初にお目にかかり「不要だ。用件のみを言え」
こ、怖いよぉ……気さくにソファーに座らせるのかと思ったら……
「ナジーラ王子を廃嫡されると聞きました。実でしょうか?」
「実ならば何とする?」
「取り消していただくわけにはいきませんでしょうか」
「何故だ?」
「親子の縁を切り、役立たずと放逐する……ナジーラ様が可哀想でならないからです!」
「もし、無能が王となったがために、再びこの国に戦乱の世が訪れたら何とする?」
「ぐっ……」
分からない……そんなの分からないよ!
「我が子可愛さで情に流され、無能を次代に選ぶ王をどう考える?」
分からない……でも!
「ナジーラは無能じゃない! ナジーラは……ナジーラは自分を変えようと! 必死にがんばっているのに! それを無能無能って! いくら国王でもあんまりだよ! 国王である前に父親じゃないの!?」
言っちゃった……これもう終わりかな……
だってナジーラのことを無能無能って! いくら何でも言い過ぎだよぉ……
怖い……できれば苦しくない方法であっさり死なせて欲しいけど……
「ほう。大きな口を叩いたものよ。何をもってナジーラを無能ではないとするか?」
え……思いつくままに喋っちゃったけど……
どうしよどうしよ……よし!
「今、ナジーラは魔法の制御に取り組んでいます! そ、そりゃあまだ成果は出ていませんけど! で、でもあいつならきっと!」
「一週間だ。一週間で結果を出せ。余が満足する程度のな。それができれば廃嫡のことは考えてやろう」
「ありがとうございます! き、きっと何とかしてみせます!」
言ってみるもんだなぁ……でもこれ失敗したら終わりだよね……廃嫡どころじゃ済まないかも……あぁもう怖いよぉ。
「それより、なぜナジーラに肩入れする? そこまでして王妃の座が欲しいか?」
「え、いや、可哀想だった……から?」
後ろでマリーが咳払いしてる……いくら何でも私ぶっちゃけ過ぎ!? 言葉遣いだって……だって国王陛下が怖いんだもん! 心の奥まで見透かされてそうで……とてもよそ行きの言葉遣いなんかできないよぉ……
「安易な同情は身を滅ぼす。今さら気付いても遅いがな。下がってよい。一週間後を楽しみにしておるぞ?」
「は、はい! ナジーラは私が育てます!」
この言い方は変かな……




