廃嫡の噂
目が覚めちゃった……今って何時ぐらいなんだろう……
「お目覚めになりましたか」
「あ……マリーさん。もう夕方?」
「さようです。僭越ながら魔力を補充しておきました」
「え、あ、ありがとう……」
魔力を補充って……それ『魔力譲渡』だよね? マリーさんそんなことまでできるなんて……凄すぎだよぉ……
だいたい私の魔力なんて一晩寝れば朝には回復してるのに。でも嬉しいな。何だか明日からも頑張れそうな気がする。
「じゃあ夕飯食べに行ってくるね」
「かしこまりました。お風呂の用意をしてお待ちしております」
「うん。ありがとう!」
うふふ。美味しい食事にお風呂。やっぱり私は王妃って柄じゃないよね。こんなことでご機嫌になっちゃうんだから。
あ……でもトレイナちゃんが第一夫人になったら私、追い出されちゃうかな……さもなくばイジメられる? それは嫌だなぁ……私は仲良くしたいのに……はぁーあ。
んー夕食も美味しかったなぁ。あれステーキって言うんだよね。あんなに美味しいお肉なんて初めて食べたよぉ。ローランドって最高だなぁ。あーいつまでもここに居たいなぁ……
「また会ったな。おおそうだ。そなたに良いことを教えてやろうぞ。聞きたいであろう?」
げっ、トレイナちゃんだ……どこにいたの?
「話したいというのに聞く耳を持たぬほど妾は狭量ではないぞ?」
「ふん、生意気な口を……まあよい。心して聞くがよい。ナジーラ王子のことだ」
「ほう? 話してみるがよい」
ナジーラのこと? べ、別に気にならないなんてことないけど……
「近々正式に廃嫡されるそうだぞ? そして時期王太子には弟君のセーイチ様が擁立されるとのことだ。残念だったな。何やらナジーラ王子に取り入っているようだったが。もはや無意味なことよの?」
廃嫡……本当に? 私は全然構わないけど……
でもナジーラの気持ちは……
「トレイナよ。そなた、その話を誰から聞いた? よもや宮廷の噂などと言うのではあるまいな?」
「ふっ、明かすと思うか? まあせいぜいナジーラに媚びを売るがいい。もっとも、妾の配下に加わるならセーイチ様に取りなしてやってもよいぞ?」
かっちーん! 何なのトレイナちゃん! ナジーラがだめなら弟って! ナジーラのことが心配じゃないの!? 廃嫡されるんだよ? 両親から見捨てられて! 王家の恥晒しみたいに捨てられるんだよ! そんなのあんまりだよ……
「不要だ。妾がナジーラから離れることはない。ゆえに妾のことは捨て置いてくれてよい。セーイチ王子がどのような方かは存じ上げぬが、ローランドの国民にとって良い王太子となることを祈るのみだ」
確かにナジーラも弟は優秀って言ってたもんね。そうなるといよいよナジーラを連れて島に帰ることになるかな。風呂に入れなくなるのは残念だけど、それも悪くないかな。
「ふ、ふん、強がりを……せいぜい虚勢を張るがいい! ナジーラもそなたもこの後宮から居場所がなくなるのはそう遠い日ではないからな!」
「話はそれだけだな? ならばもう行かせてもらう。そなたが次代の王太子妃になるならば、妾は祝福するであろう」
「くっ……どこまでも強がりおって……!」
トレイナちゃん……せっかく丸くてかわいい顔してるのに……そんなに歪ませなくてもいいのに。私なんかに対抗意識を燃やしても意味ないよ? 他にたくさん旧王家の姫がいるんだよね? そっちに対抗した方がいいよ……
はぁ……
廃嫡かぁ……
やっぱりローランドみたいな大国って身内にも厳しいんだね……長男なのに……素質がないと分かれば捨てられちゃうんだ……
でもナジーラだって……一生懸命がんばってるのに! 酷いよ!
あいつの両親に、国王陛下と王妃殿下に文句言ってやろうかな……あいつの努力も知らないで廃嫡だなんて……可哀想すぎるよ!
うん! それがいい! どうせ廃嫡されたら私と一緒にグレブリントに行くんだし。言いたいことは全部言った方がスッキリするよね?
よぉし、そうと決まれば……
どこに行けばいいんだろう……?
困った時のマリーさん。
「と、いうわけで国王陛下に文句言いに行きたいんだけど、どこにいらっしゃるのかな?」
「……殿下……正気ですか? 国王陛下も王妃殿下も私などとは比べ物にならない強大な魔力をお持ちなのですよ? もしも粗相でもして機嫌を損ねてしまえば……一瞬にして灰燼と化しますよ?」
え……そ、そうなの? いや、それはまあ分かってるけど……でも国王ってもっと寛大なものじゃないの?
で、でもナジーラが廃嫡なんて……そこまでしなくても……
「いい……一言だけでも文句言いたい……あいつの頑張りを見てあげて欲しいって……」
「さようですか。どの程度の覚悟をされているのかは分かりませんが、場を整えるぐらいは可能です。本気ですね?」
「う、うん。このまま廃嫡されるなんてナジーラが可哀想だよ……」
本当にそう思う……
でも、なんで私あいつのことでこんなに……




