トレイナとナジーラ
疲れた……
私のしょぼい魔力でも昼まで魔法を使い続ければ空っぽにもなるよね。あぁ疲れた……いつもは空っぽになるまで使うことなんてないし……
でもこれだけやったんだからお昼も食べていいよね。お腹ぺこぺこだもん。
それに比べてナジーラは元気いっぱいな顔してる。最終的に額と額をくっつけるだけじゃなくておへそにまで手の平を当ててきたからぶん殴ってやった。まあ、簡単に避けられたけど……
「ナジーラ様ぁーー!」
あ、トレイナちゃんだ。取り巻きもいる。
「どうした?」
「もぉー。お忘れですか? 本日のお昼はご一緒するお約束だったじゃないですかぁ。今日は我が領から届いた槍岩魚をご用意してますの」
「そうだったか。おい、ボニーも来い。腹がへってるだろう?」
ナジーラのバカ。そりゃあ確かに減ってるけど……
「あらあら、グレブリントの王女殿下もいらっしゃいましたか。よかったらどうぞ。我が領自慢のノノヤフク湖から獲れた逸品ですのよ?」
その顔は勝ち誇ってる顔だね。お前みたいな田舎者じゃあ食べたこともないような料理を食べさせてやるっていう。
「すまんな。野暮用がある。またの機会を楽しみにしておく。ではナジーラ、また明日な」
「そ、そうか……明日は遅れるでないぞ?」
だからあなたが早すぎるんだって。
部屋に帰ろう……
なんだか食欲がなくなっちゃった。疲れたし……もう寝ようかな……
ナジーラは細いけど……やっぱりトレイナちゃんみたいな丸っこい女の子が好きなのかな……
トレイナちゃんのところって今はドナハマナ伯爵領になってるんだよね。すごいなぁ……絶対うちより広いんだろうなぁ。あんな子が第一夫人にふさわしいんだろうね……
え、私何を考えてた? もしかしてナジーラのことが……?
無理無理無理! 私なんかがこんな大国の第一王子の正室になるなんて!
私はこうして部屋住みで毎日お風呂に入れて美味しいものが食べられたらそれで……
あ、それはそれで贅沢すぎるかな……
着いた……もう寝よう……
「おかえりなさいませ。魔力がほぼ空になっておられるようですが大丈夫ですか?」
忘れてた。マリーさんがいたんだ。
「うん……大丈夫。寝るね……」
「かしこまりました。では夕方にまた参ります」
「うん……」
「ナジーラ様ぁいかがですか? 槍岩魚はお味はぁ?」
「旨い。部位に応じて調理法を変えているのだな。見事な手並だ」
「ありがとうございますぅ! ノノヤフク湖には他にも美味な魚が多くおりますのでいつかナジーラ様と一緒に里帰りできたら……なんて、キャッ恥ずかしい」
「考えておこう。だがいいのか? 俺が廃嫡されたらそれどころではないと思うぞ?」
「え? な、ナジーラ様が廃嫡? そ、そんなこと……」
「心配するな。俺が廃嫡されたとて弟がいる。あいつは俺と違って優秀だ。お前達のこともしっかり頼んでやるさ」
「その……頼む、とおっしゃいますと……?」
「第何夫人になるかは知らんが面倒を見るようにということをだ。だから俺が廃嫡されたとて何の心配もいらん」
「ご、ご冗談を……」
「さあな。全ては父上のご判断一つだ。俺は王子であっても王太子ではないからな。いつまでも炎上王子の名を返上できぬ者など……勇者の血筋たるローランド王家に相応しくないと言われても反論できぬ」
「さ、さようですか……」




