第四王女ボニー
「ボニー! お前がローランド王国第一王子ナジーラ殿と結婚せよ!」
我が父ながら意味が分からない……いきなり何を言っているんだろう?
ローランド王国は分かる。五百年ぶりに大陸を統一した最強の国家だ。
第一王子ナジーラ様も分かる。魔王を打倒し大陸を統一した勇者にして初代国王ムラサキ・イチロー・ローランド公。そんな偉大な男を曽祖父に持つ最強の血筋だ。彼以上に最良の血筋は大陸に存在しないだろう。
で……そんな最強の血筋を持つ男になぜ私が? こんな征服する価値もない大陸から遠く離れた島国の娘なんかが……
「輿入れ予定のキャサリンが! 護衛のキクテッツと駆け落ちしおったのだ! 我が国随一の美貌を誇るキャサリンを……キクテッツめが! 拐かしおったに違いないわぁ!」
はぁ……キャサリン姉さん……
バカだバカだとは思ってたけど……あれほど火遊びはやめてって忠告したのに。確かにキクテッツは護衛隊の中では強い方だし顔だっていい。顎も鼻もカクカクしてて凛々しい男前だと思う。だからって大国の王子を捨ててまで選ぶほどなの? 小さい島国だけど私たちはグレブリント王国の民なのよ? ましてやキャサリン姉さんは第一王女。ローランド王国の機嫌を損ねたらこの国なんて一瞬で滅ぼされるんだよ? なんでそんなことも分からないの!?
「ユーリやランジェはすでに純潔ではない! ジェリルはまだ八歳! もうボニー! お前しかおらんのだ!」
ユーリ姉さんもランジェ姉さんもすでに結婚してるってだけなのに! なによ純潔じゃないって! 父上の言い方ひどすぎるよ!
「確認しますけど……私でいいんですか? 本当に?」
「我が王家にはもうお前しかおらんだろうが! お前みたいな色黒の細い女でも! お前が行け! だが心配することはない。どうせ行き先はローランド王家の後宮だ。大陸中から集められた数多の美姫がひしめいておる。お前など歯牙にも掛けられることはない。だから気にせずキャサリンの身代わりとして務めてこい!」
はぁ……
そんなこと分かってるよ……
だからって父上までそんなこと言わなくても……少しは自信持たせてよ……
そりゃあキャサリン姉さんは顎のラインもカクカクしててセクシーだし……鼻だって太くて角ばってて見栄えの良さが堪らないし……
それに引きかえ私は……
はぁ……
行くしかないって分かってるけど……
モテモテの姉や妹に挟まれて……誰からも相手にされない私……これでも王女なのに……
身体目当てや財産目当て、権力目当ての男すら寄ってこなかった私が……大陸を支配する王家の後宮に入るって……
結婚てよりこれもう人質だよね? 逆らいません。その証に娘を差し出します、っていう。
知らないよ? 私なんかを差し出して……この国が滅ぼされても……
国王たる父上から言われたのが三日前。今、私は船に乗っている。私たちのグレブリント王国が位置するのはローランド王国から遥か西。だいたい船で十日ぐらいかかるそうだけど……
船は嫌い……島国育ちの私なのに。
こんなにも気持ち悪い……吐き気が止まらない……
こんなのがもう九日も続くなんて……
まさかキャサリン姉さんはこれが嫌で逃げたの? でもあの島のどこに? どうでもいいや……あぁ……気持ち悪い……早く着かないかなぁ……




