覚悟を決めろ(色んな意味で)
「ケスルタ、このお金収納お願い」
───了解しました。百万バイス、収納します───
人工精霊であるケスルタにお金をしまってもらうべく、左腕に着けているベッセルへと話しかける。
ほわん、とおよそ五センチ程の三つの輪が互いに組み合わさった知恵の輪のような光がそれぞれゆっくりと回り出し、ケスルタが起動する。
抑揚の無い、中性的な声質で俺の言葉に答えると、三つの輪のひとつが離れ、テーブルの上に置かれた百万バイスを囲む。
囲んだ光の輪の回転が早まるかと思うと、ぐねり、と空間が歪み、一瞬の内にお金が消えてしまった。
やだ、くそ便利。
───百万バイス、収納完了しました。ご使用の際は声をお掛け下さい───
「おいおい、そいつぁ…人工精霊か?アイツめ、完成させやがったのか」
ケスルタの抑揚のない声が響くと、ファウストさんが驚いたように口を開いた。
アイツとは──まぁ、アルの事だろう。お城とかで聞いた口調からして知った仲っぽいし。
「一応、試作機らしいです。機能は後々増えていくだとか」
「なるほどねぇ……なら〝もう少し〟って事か」
「え、何がです?」
「ああ、いい、気にすんな。こっちの話しだ。それよりもお前大会出るんだって?」
ぼそりと口にしたその言葉に思わず聞き返したが、さらりと流されてしまった。
少し気になるが、それで機嫌を悪くされても困るので忘れよう。
「耳が早いですね?バルちゃんの店でなんやかんやありましてね、出ますよ」
「ああ、そのバルムから通信で聞いたよ。お前も災難だったな、あの女誑しがいるパーティ、腕は確かだ。ついこの間俺が直々にぶちのめしたからな」
「そういえばトウカさんがギルドで何やら一悶着あった人を仲間に迎えたとか言ってたような…騒ぎを起こしたのはゼーベック達の事だったのか……」
ギルドマスターが認める女誑しだってよゼーベック。
俺の中のお前の今の印象女好きのトラブルメーカーやぞ。
ヴィレットとは違うベクトルで困った奴だなおい。
「そうか、あの男はソウコの所へ行ったか。ソウコのチームなら心配は無いな…若干一名心配だが戦闘趣味なだけでルールは守るしな」
やれやれ、と一息ついてファウストさんが項垂れた。
あー、戦闘趣味ってシュエンさんの事かー。確かにぐいぐい来てたけど暴れてはいなかったからなー。
「もし──ゼーベックがなんかやりそうだったら……止めろ。つかぶちのめしていいぞ、許す」
「合点承知」
ファウストさんの言葉に敬礼一つびしぃ!
ギルドマスター直々の命令、承りました。
いや確かにアレは被害が出る前に止めねば、また二次被害が出る。
「あいつレベルはお前ならぶちのめせるだろ。まぁ、そのくらい出来ないと中々優勝なんて出来ないだろうがな。今回の大会は中々粒が揃ってるぜ」
「粒が揃ってる?」
「おう、そうだ。ソウコの奴が率いる〝陰陽化怪流〟、前回準優勝のヴィレット率いる〝狂狼鬼〟、この大会の元となった国【ガンゼルド】から来た武術集団〝炎雷流武術一派〟、その他にも他の国からわらわらと来てやがる。お前達がどこまで行けるかは知らんが頑張りな」
気怠げにじとーんとした目でファウストさんがそう簡単に口にした。
ええ、アイツ前回準優勝なん……狂狼鬼って、ヴィレットまんまじゃん……あ、トウカさんが俺の事嗅いで『これは確か狂狼の…』って言ってたけどそう言う事か。
そして知らない単語がちらほらほろり。これはやはり知る必要がありそうだ。
「まぁ、頑張ってはみますよ。優勝の報酬は見てみたいですし。ところで図書館とかどっかあります?歴史とか地理うんぬん知りたいんですけど……」
「おお、そうか。図書館なら……地図見せてやるよ。こいつをベッセルに読み込ませろ」
ぷぃーとファウストさんの左腕から映写機のように四角く青白い光りがテーブルに向かって放たれた。
青白い光りは形を様々に変え──これは凄い。
「おお…!立体地図…!」
その中央には確かにこのデカいギルドの建物、そして周辺には全く同じ街並みが事細かに映し出されていた。
なにこの技術凄い。
「大気に含まれる魔力をどーにかこーにかしてるらしい。詳しく知らん」
「さいですか。それでは…ケスルタお願い」
───了解しました。マップ情報を受け取ります───
ケスルタにそう頼み込むとまたもや三つの輪の内のひとつが外れ、マップ周囲を飛び回った。
「まずは、周囲、そしてこの国と周辺、んでこの世界全体だな。不明な所もあるが知りたかったら自身でマッピングしろ」
「分かりました」
───マップ情報、受け取り完了。以降は表示が可能になります───
ファウストさんの言葉により、マップの映像が次々と縮小され、この世界全体の地図となった。
読み取り終わったケスルタの光りの輪が元の知恵の輪に戻ると、応答するかのようにくるくると回る。
改めてこの世界でけぇ。そしてこの王国もデカいぞおい。バルちゃんの店あそこか。
なるほどなるほどと思っているとファウストさんがマップをしまい、俺へと訪ねて来た。
「この後はどうすんだ?」
「お金も頂いたので宿を探そうかと。色々あって疲れましたし」
牙狼族の村から出て、地図を見て場所確認してたらルギくん漂流してて、助けたら奴隷商とバトって死にかけて……そんで国に来て……濃ゆくねーか。そら疲れるわけだ。
「まぁ、そら疲れるだろうな。なら良い場所教えてやるよ。このギルドの真裏に真っ直ぐ行った所に〝ホノイカヅチ〟って言う宿屋がある。本来なら今の時期は新規お断りだが俺が連絡しといてやるよ。お前の性格なら可愛がられるだろ」
「ありがとうございます!……可愛いがられる?」
そう言ってファウストさんが左腕につけているベッセルで何処かに通信を始めた。
ありがたいお言葉に頭を下げたが疑問が一つ浮かぶ。
可愛いがられる…とは?そして今の時期は新規お断りなのは……
「──大丈夫だってよ。……どうした。別に危ねぇ店とかじゃねぇから安心しろ。新規お断りなのは単にこの時期めんどくせー客がいるからだ」
「良かったー」
「ちなみにその近くに遊郭通りがあるから行く時は気を付けろ」
「良くないー」
ホッとするのもつかの間に頭を抱え込む。
ありがたい情報なのだろうけどありがたく無いー。
「変な奴はぶっとばせ。まぁ警備はいるから大丈夫だ。そんなに怖いか遊郭」
「前の世界では怖い所でした。少なくとも俺には関わりの無い所ですし、行きたいとかは思わないです」
思い出すのは怖い記憶。
餌としか思ってないような目線が怖いんです。俺はそこよりも後輩や友人と飯とお酒飲む方が良いんです。
あっ、イジメのトラウマが……
「…まだ暗くはないから大丈夫だろ。そこも連絡しといてやるよ。幸い〝運が良い〟みたいだし」
「アリガトゴザイマス……」
「うし、下行くか。頭乗るぞ」
「うす」
ぴょいんと頭にのるファウストさん。
覚悟決めねばなるまい。
カナタ
「女性は怖い。へいケスルタ、怖い人達から逃げる方法」
ケスルタ
───カナタ様の身体機能ならば余裕を持って可能です───
ファウスト
「諦めろ」




