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ヘタレの努力家  作者: りばーしゃ
第2章 王都〜ミーション〜
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〝力〟の使い方




「…どきどきする」




 口の両端をきゅっとさせながらルギくんが水晶を見つめた。


 もちろんその突っ張った両手は俺の時と同じように水晶の方向。


 なおシラタマはモカレミジュースを飲み干して満足したのか、俺のどたまの上という定位置でふよふよしながらアホ毛さんと遊んでいる。




「…へぇ。ぼうや、珍しい能力(ちから)を持ってるのね。【勾玉の糸】…ぼうやはもしかして……いや、詮索しない方が良いわね」




「んぇ?」




 なんとも言えない間の抜けた顔でルギくんの口が開いているのが水晶に反射して見えた。


 その表情が面白かったのか、上品に少し丸めた右手で口を隠しながらくすくすとルーインさんが誤魔化(ごまか)すように笑う。


 ルギくんは普通の鬼人族でない〝忌み子〟だ。それに関係する何かを見た…あるいは聞いたのだろうか。


 何にせよ、ここで言わないあたりこの人も常識のある人だと言うのが分かって一安心。


 いやね?このどーみても子どもには早すぎる露出の多い格好の女性を警戒するなと言われても無理です。




「ぼうやは強くなりたい?」




「うん」




「なら大丈夫、必ず強くなれるわ」




「ほんと!?」




「ただし──」




 言葉を少し止めて、ルーインさんが言い聞かせるように続きを口にした。




「〝強く〟はなれるわ。だけど〝強さ〟の意味を間違えないでね。カナタ、あなたも。忘れないで」




「……分かりました」




 まるで──〝自分にも〟言い聞かせるようにルーインさんは物悲しげに微笑んだ。


 きっと普通に微笑んだのかもしれない。


 でも俺にはその人形のような綺麗な微笑みに何故かそう感じてしまった。




「ふにゅっ!」




「あだっ」




 げしり、と後頭部に突き抜ける軽い衝撃。


 シリアスな場面をぶち壊し、とぅっ!とでも言うように軽快に俺の頭の上から飛び降りたその毛玉は水晶の真ん前へともふんと着地した。




「にゅっ!」




 僕のばーん!とおててのような物を両腰…お腹まわりに当てながらシラタマが威張るように鳴いた。


 貴様、覚えておれ。




「はいはい、シラタマの番ね」




 椅子に座ったままルギくんがシラタマをひょーいと持ち上げ、自分の真ん前にある水晶へと運ぶ。


 そういやコイツの能力(ちから)は付与系・重力属性だったけど他になんかあるのだろうか。




「に゛ゅに゛ゅに゛ゅ〜」




 おててのようなものを前方に出しながら、も゛も゛も゛も゛と、効果音が出そうな程に震えながらシラタマが唸った。


 いやお前エネルギー波でも出す気か、なんだその濁声は。




「ふふふ、面白い子ね。…あら──これ……は…?」




「にゅ?」




 ふと、ルーインさんの表情が固まった。


 一体どうしたのだろうか、シラタマもぐねっと顔を傾げる。




「どうしたんですか?…はっ、まさかシラタマの能力があまりにも珍しいから…!」




「にゅー?」




「ああっ、いえいえ、別に気にしないで良いわ。魔物の能力を見るなんて初めてだから少しびっくりしただけよ。能力的には珍しい種類だけど残念ながらあなた達二人と違って〝特に見えたものは無い〟わ」




 両手を互いに左右へと振り、ルーインさんがさらりと弁解した。




「ふっ、残念だったなシラタマよ。〝特に見えたものは無い〟ってよ」




「ふにゅぇ〜…」




 そんな〜とへにょりと潰れるシラタマ。


 その潰れ毛玉をルギくんがなでなでして励ます。


 ふはは、情けとしてお前が俺のどたまを足蹴にした事は忘れてやろう。




「そうね……ただ、その子共々あなた達の能力は珍しいから気をつけなさい。決してこの詳細は伏せる事、あなたも異世界人だから言っておくけど無闇やたらと教えない事、〝情報は財産〟よ。決して自分の知ってる事を簡単に教えちゃダメ。良いように売り飛ばされるわ、命すらもね」




「…分かりました。覚えがあるんで胸に刻んで起きます」




 真剣な目つきをして話すルーインさんの言葉に頷く。


 そうだ、忘れちゃあ行けない。


 ここは〝あの世界〟じゃないと言う事を。


 大体おかしな話しだったのだ。〝タダで、見返りも無く、保証も無く、物を教える〟など。


 脳を()ぎるのはかつて働いていた時の記憶。


 給料を上げて欲しくて必死で自分の能力、ツテを使って働いた結果、手に入ったのは〝変わらない給料〟。


 カンが良い人ならばすぐ分かる、〝手柄の横取り〟をされたのだ。


 そして、何かを言うならば〝権力、(ある)いは暴力〟という力の抑止。


 何かを得る為には何かが必要だ、そして何かを失ったならば何かが手に入ってなければおかしい。


 金であれ、技術であれ、情報であれ、食物であれ…命であれ。


 この世界でそれは顕著(けんちょ)だ。とても厳しく、分かりやすく結果は出る。


 お金の為に働く、それも良いだろう。だがこの世界では〝生きる事〟が何よりも重要だ。


 もちろん人によって優先順位は違う、それによって〝アイツら〟──奴隷商人のような奴らが出てくる。


 まぁ、その為のギルドがあるわけなんだが……念には念、準備としての心構えはしておいた方が良いだろう。


 今度は〝前の世界〟と違う。俺は〝コイツら〟を守ってみせる。




「ま、そんなとこね。あなた達はこの後どうするの?」




「…あ、ああ。そうですね。ギルドに向かった後、宿に向かうつもりです。何かの素材が売れないとお金が無いんで」




 少し考え込んでいたため、遅れながらもルーインさんの言葉へ答える。


 そう、哀しきかな、一文無しなのである。


 昼飯はバルちゃんが奢ってくれた為なんとかなったが宿屋ばかりはそうは行かない。


 ギルドに簡単な依頼でもあれば受ける事も視野に入れてる。


 最終手段は……そう、シラタマの好物でお馴染みの光る菌類……『安心きのこ』を売る。


 王都じゃあ中々手に入らないってヴィレットが言ってしな。




「あらそう。…所であなたのその左腕のベッセル…起動させた?」




「ん、ああそう言えばまだ起動させて無いですね。後で良いかなと」




 つい、とルーインさんが俺の左腕に着けているそいつを指を指してふと気づく。


 設定とかめんどくさくなりそうだからと宿屋が取れたらにしようと思ってた。




「ならさっさとした方が良いわ。便利だから、〝すぐ済む〟わよ?」




「あ、はい。えーと?魔力を流せば良いんだよな」




「あ!カナタさんちょっと待っ──」




 そのタロンさんの言葉は間に合わず、既に俺の意識は〝すぐ済む〟というルーインさんの甘い言葉に誘導され、左腕に着いたベッセルへと向いていた


 魔力を流せば説明が出るってハウィさんが言ってたな。おいしょっと。


 


───認識しました───




「おん?声が…?──あだだっ!?」




 抑揚(よくよう)のない、機械的な声が響いた思うと、脳内へと流れ込むように鋭い痛みが突き刺さった。


 飛び込む様々な文字の羅列、駆け巡る様々な数字──ああ…ッ!クソったれ!なるほど、そういう事かッ!




「──って〜…ルーインさん、アンタ〝ワザと〟教えなかったな?」




「〜♪ 残念、もっと面白い反応するかと思ってたのに」




「…すみませんカナタさん。ですがバルムから教えて貰わなかったのですか?〝今〟なら何故そうなったのか分かると思いますが……」




「…くー、痛かったぁ。〝説明〟が急激に流れ込んできた代償…ね。いやぁバルちゃんのお店が騒がしくなって聞けなかったんですよ。このルギくんが大人気で」




 そう、あの痛みの正体は説明が頭に叩き込まれたせい。


 本来ならば少しで良いのに普通に流してしまったのであの頭に小さいトゲが駆け巡るような痛みが走ったのだ。




「あー、何も知らない、思い出したくなーい」




「ふにゅおお……」




 現実逃避するように表情の固まったルギくんがわしわしとシラタマを撫でまくる。


 ああ、そこそことでも言いたげにシラタマの目尻が垂れ下がっているがそれに対してルギくんの目は死んだ魚のようだ。


 おのれ、あのショタコン共め。この痛みも本来なら負わなくて良かった筈なのに…!




「ああ…あの子達ね、察したわ。お詫びにモカレミの実をおやつに持って行って良いわよ」




「「わーい(ふにゅー)」」




 ルーインさんもあのショタコン二人組は知ってるらしい。


 いやね、別に何も一線を超えた訳じゃないし危害を与えた訳じゃないんだけどさ……ねぇ?ほらこのルギくんのおやつを貰えるも分かった瞬間の笑みをご覧よ、和む。




「兄ちゃん後でどんな機能なのか教えて?」




「ああ、良いぞ。ギルドに行く道すがら教えるよ」







 ぱたん、と店の扉が閉まる音が鳴った。


 その扉の向こうには店を後に、ギルドへと向かうモカレミを頬張る長身で筋肉質な男と、青白い毛玉の魔物を乗せた白髪の少年。




「──それで、〝何〟が見えたのです?ルーイン」




 テーブルの上にあるグラスを片付けながらタロンがそう彼女へと聞いた。




「【封印】されていたわ。あの〝魔物だけじゃなく全員〟ね」




 あの二人は能力の影響もあるだろう、それとも(あらかじ)め……〝誰が〟がしたのか、本能が〝自ら〟掛けたのか。


 いずれにせよ、分からなかったの確かだが、あの二人は危険ではない。




「危険は?」




「あの〝魔物〟だけが分からない。リュラやエリラと違って【聖霊】でもないし。唯一分かるのは〝今は敵対していない〟って事だけね。あとこれは私の個人的な意見は──」




「うん?」




 悪戯気に笑いながら彼女が口を開く。


 まるでそれは友人を応援する女性のように。




「カナタは【嫉妬の化身】が好みそうな人だなぁって。連絡しちゃおっと」




「……知りませんよ。久しぶりの大会を見にここへ来るのを知ってる癖に」




「もしもし元気ー?あ、今ね──」




「大会が荒れませんようにと祈っておきますか……」




 血の雨が降りませんように。


 そのバーテンダーの呟きは水の流れる音と共に消えていった。




ルギ


「兄ちゃんギルドで何売るの」




カナタ


「あの魚の魔物の牙がまだ数本あるからそれを売るつもり。最終手段は…まて、シラタマまだ何も言っていないぞ。痛いからアホ毛を引っ張って講義をするな」



シラタマ


「ふにゅー!」

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