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ヘタレの努力家  作者: りばーしゃ
第3章 武術大会〝アーツカッチア〟
205/213

対、炎雷流武術一派!




 鉄球が、大気を切り裂き、唸りを上げて砂塵を、砂丘を弾き飛ばして突き進む。


 鉄球からは込められた能力により、水飛沫をあげ、それは凍り、纏わり、巨大化していく。


 距離を稼ぐごとに、唸りを上げるごとに、それはまるで生き物のように砂上を泳ぐ。


 カナタの投擲にて放たれた、無数の能力が込められた立った一発の砲弾は、通り過ぎた箇所を削ぐように、標的《無数の火炎弾》目掛け、氷龍となって雄叫びを上げた。


 火炎弾と、砲弾が──接触。




──ッ!




 砕け、爆ぜる音と共に一面が──白く染まった。




『炎雷流武術一派の放った無数の火炎弾と、スタナー・テラポスの放った氷龍が激突ーッ!!辺りは水蒸気で真っ白ダァー!』




「ケッ、相打ちかよ!行くぜカナタ!」




「援護は頼んだぜロス!ダグ!振り落とされんなよゼーベック!!──行っくぜぇええッ!!」




 ゼーベックを肩に担ぎ、カナタは両脚に力を込め、飛び跳ねる──滑歩かっぽ、獣人達が使用する、一本脚による長距離移動法。


 カナタの身体能力、己が身に自身を付与する能力ちから、身体強化魔法が相まった〝それ〟は、瞬く間に彼等の方へ接敵した。





「オレを上に投げ飛ばして突っ込めカナタ!ぶちかましてこい!!」




「りょーかいィ!!──うおらッ!!」




 カナタの投擲にゼーベックの身体が宙に高く舞う。


 投げ飛ばした張本人は霧の中へと突っ込み、手甲を装備した右拳を振りかぶった。


 歯を食いしばり、意識を集中。みちみちと筋繊維に力が、魔力が、能力がたぎるように右腕にいくつもの血管やすじを浮かばせる。




「──ッ!回避体制!」




「──ッちぃ!霧の中からこんにちわぁあああッ!!!」




 霧を身体が突き破ると同時に、確認した四人に向けて拳を振り落とした。


 予測を立てていたのか、こちらを向いていた黄色に前髪に赤褐色のポイントカラーを入れた女性が叫んだ為、四人が衝撃波にて砂塵と共にカナタを中央に吹き飛ばされ、散らばった。




「にゃはは、なかなか速えじゃねぇか!!だが一人でたぁ──」




「──ムクゲ!上だ!!」




「囮か…ッ!!」




 わざわざ敵陣中央に躍り出て来たカナタにけしかけようと、掌に炎を宿すムクゲだが、サキシマの声に上空を見上げた。


 そこには両手の指にナイフをずらりと構えたゼーベックがギラリとした笑みでこちらを向く──




「──斬雨ざんう組曲スートォ!!!」




「──ッく、ハズした…ッ?──ッいや!これは──結界かッ!」




 両手の刃が八つの軌跡を宙に描く。四人を囲うように円形に刺さったそれを見て赤髪に痩せ型の男、ソウゲはその攻撃に疑問を浮かべたが、それは違うと確信した。


 ゼーベックの攻撃は、まだ終わっていない!




「カンが良いねぇ!!飛べカナタァ!!──氷刃ひょうば斉唱ユニゾン!!」




──ッ!!!




 霧が、消えた。


 掛け声にカナタが飛び上がると、ナイフで出来た結界の間に何かが煌めいた。それはゼーベックの操る気流により、激しく無作為に舞う。


 ナイフの結界で乱れ咲く、氷の花嵐──!!




『ゼーベックの選手による大技が炸裂ーッ!!カナタ選手の一撃を囮に、先程発生した霧の水分による細氷ダイヤモンドダストが炎雷流武術武術一派に襲いかかッタァアアアアッ!!!』




「〝空脚くうきゃく〟!」




「ナイスぶちかましだカナタ!」




「どうよ手ごたえは」




 空を蹴る技、〝空脚〟にてさらに飛んだカナタはゼーベックを再び肩に担ぐように回収した。


 ひとまずは…と、ハイタッチをしたが、カナタはこんなに簡単に決まる筈は無いとゼーベックに問う。




「ああ、効いてねぇ、〝全部溶かされた〟な。見ろ」




「おおう!?火柱が!?つーか火炎弾また来てんだけど!?」




 ナイフで作った結界ごと、轟々《ごうごう》と大きな火柱が立ち上がった。


 細氷の刃が一瞬で蒸発、再びその場に霧が発生。こちらへと飛んでくる火炎弾に騒ぐカナタにゼーベックがいたっていつもの声色で諭した。




「んな、慌てんな。あれはオレが逸らす。そしたらオレに構わず他の三人を相手しろ」




「あ゛あんッ?おめーはどうす──」





「── 気流の諧謔曲スケルツォ




 答えようとしたカナタだが、ゼーベックの技による突風により言葉を中断された。


 気流の盾により、火炎弾は逸れ、目的を失い何処かへと燃え尽きるだろう。


 そして、自身の身体を足場にして滑空するように火柱の方へ向かうゼーベックの姿を、落下しながら見ては気付く。




「──上昇気流で浮かびやがったか…!了解ィ…おめーは〝ソイツ〟と存分にやり合えよ!!!」




 火柱が消えたそこには、両脚に炎を激しく燃やしながら宙にとどまるムクゲの姿があった。


 着地したカナタの元には合わせるように飛びかかる三人の姿。


 その不利な状況に対してカナタは笑顔さえ浮かべていた。




「来いよゼーベックゥウウウウッ!!!炎雷流武術えんらいりゅうぶじゅつ──!!」




「ムクゲェエエエエッ!!!灼熱の──!!」




「三対一だがこれも闘いよ──炎雷流武術えんらいりゅうぶじゅつ──!!」




「「炎雷流武術えんらいりゅうぶじゅつ──!!」」




「別に構いやしねぇ──風雅総体術ふうがそうたいじゅつ──!!」




 上空で、地上で、叫びが弾けた。




「──炎月波!!」




「──変奏曲ヴァリエーションズ!!」




「「「発破はっぱ!!」」」




「──飛び諸手もろて!!!」




──ッ!!




 衝撃波と共に、大気が震えた。




『な、なんと激しい衝撃音ーー!!空中でムクゲ選手の炎の刃とゼーベック選手の熱弾!地上で三人による正拳突きとカナタ選手の飛び込むような諸手突きが激突ゥウーー!!カナタ選手は本大会で初めてでしょウカ!?風雅総体術ふうがそうたいじゅつという名前の体術とはなンダ!?三仙の一人、〝アルフ〟の作り出した風雅暗殺術ふうがあんさつじゅつにも似た名前のこの技は一体なンダーッ!!!』




「「おおおおおおおおあああああああッ!!!」」




 上空で、二人が叫ぶ。


 炎を、大気を震えさせながら、二人の拳が、脚が、思いが交差した。


 一方で、三人の拳を諸手で受けたカナタはそのまま体術勝負へと持ち掛けた。




「我らに拳で対抗する気か!?」




「安心しろよ!お前らが思ってる〝動き〟はしねぇから──ッよ!」




「拳の上を!?──ッぐっ!!」




「サキシマ!!炎雷流武術えんらいりゅうぶじゅつ──」




 サキシマの放った左の拳を、ぬるりと避けると思うとカナタはその上に片手で逆立ちをした。


 まさかそんな動きをするとは思わなかったサキシマは面食らったようにカナタの放った蹴りを防ぐ。


 宙にいたカナタの隙を狙おうと、ソウゲの右足に稲妻が走る。




「──立ち三日月!!」




 右足がカナタの腹部に当たると、その勢いでカナタの身体が後ろにぐるりと周り、その勢いのまま視線だけがソウゲに向く。




「──返し三日月!!」




「うおあっ!?」




「ソウゲ!!」




 カナタの代わりに、ソウゲの身体が無防備に宙を舞った。


 逆立ちで着地したカナタが、ぼそりと微笑んでは呟く。




「──〝的〟は出したぜ──ロス」




──ッ!!




 一発の銃声が響いた。


 鮮血の花が開く。




「──ぐあッ!?腕がッ…狙撃だと!?」




 砂上に、薬莢の排出される金属音が響いた。


 男は静かに通信機である腕時計型のベッセルに向かって口を開く。




「良い動きですよカナタ。貴方のアクロバティックな動きは相手を寄り狙いやすい──ダグ、僕が援護してる間にフィールドを整えて」




「だーいじょうぶだよぉ〜。さっきから空に向かって〝ぶっ放しまくって〟るだぁ〜!」




 空に──雲が出てきた。




── 【再々】一方観客席のシラタマとルギくん──



ルギ


「あぎゃー!カナタ兄ちゃんが技を使って!!ゼーベック兄ちゃんが空飛んで!!ロス兄ちゃんが──!!」




ラン


「おおおお落ち着いてルルルルギくん!!え?え?カナタさんが三仙のような技を!?え?そう言えばヴァサーゴさんって──」




ノン


「ランちゃん?貴女も落ち着いて?タマ?貴女はシラタマと何食べながら観戦してるの?」




タマ


「んえ?」




シラタマ


「にゅえ?」

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