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ヘタレの努力家  作者: りばーしゃ
第3章 武術大会〝アーツカッチア〟
199/213

最初から決めてある




『激!闘!!レガートの森の一部で繰り広げられる試合はまさにクライマックスと言った所でしょウカー!?』




 ウワァアアアアアアアアーッ!!




 魔道具によって何倍にも拡張された彼女の声に、観客の声が爆ぜた。


 実際には見てはいなかったが、〝それ〟は巨大なスクリーン状の魔道具にて鮮明に映し出されていた。


 もちろん、映像を送るのはレガートの森に配備された、浮遊させる魔法が付与された撮影魔道具によるものだ。


 ゼーベックvs(ヤマコ)、ダグvs黒いスライム、ロスvs小僧狸、カナタvsホコラ。


 四つの場面が一度に見れるそれを、実況の言葉と共に楽しみながら観客達は興奮と歓喜の波を繰り出す。


 そして、今、巨木を猛スピードで駆け上がる姿を火薬に一気に爆ぜた。




『おおットォ!!巨木エリアにて物凄い速さで動く姿が一人ィ!!あれは──カナタ選手ダァアアアアアア!』




 ウォアアアアアアアッー!!




「待てやごらぁあああああああああッ!!」




 巨木の上、真横に真っ直ぐ駆け上がるカナタの姿に歓声が爆発する。


 いや、駆け上がるなどと言う生優しい表現などでは無い……駆け〝跳んで〟いた。




『な、なんと言う脚力ー!!カナタ選手、両腕に装備していた鉤爪を足に付け替え、巨木の体表を飛び跳ねるように登って行きマス──ああット!?』




「──あっやべ」




『カナタ選手の脚が空を切ッタァアアアアア!?』




「兄ちゃああああああああん!?」




「ふにゅううううううううう!?」




 踏み締め過ぎたか、その部分がたまたまもろかったのか、鉤爪が刺さらずざくりと木の体表を切り裂いた。


 このまま落下か、観客の誰もがその歓声を悲鳴に変えたその時、再びその声を返す事になる──




「──なんてな。…〝空脚〟!!」




 空気が揺れる…音がした。


 カナタはその宙を──蹴った。




『──…これは!?カナタ選手!宙を〝蹴り〟そのまま再び上り初めまシター!?』




 ウォアアアアアアアアアッ!!!




 まさに、歓声の噴火。感情という溶岩が、一時の冷え込みをぶち抜き、観客席を余す事なく歓声となって爆ぜた。


 そして観客も気付く、あの動きは、技は……!




『見ただろウカ!我々はあの動キヲ!技を知ってイルー!あの技はこの大会で大暴れした選手!狂狼鬼の──!!』




「ヴィレット兄ちゃんの技だー!!!」




 宙を蹴り、方向を変える事が出来るその技はまさに大会の上位に君臨する狂狼鬼のパーティのリーダー、ヴィレットの得意技であった。


 歓声を背に、カナタは前方のホコラの背中をついに捉えた。




「…おいおい!マジかよ!戻って来やがったか!!」




「お い つ い た ぜ!!今度はフルシカトさせてもらうぜぇ!あばよぅ!」




 今回のルールの勝敗が旗を手にする事だと再確認したカナタはホコラに何か仕掛ける訳でもなく、そのまま追い越す事にした。


 二人の距離は一瞬の内に逆転、今度はホコラがカナタの背中を見る事になる。


 ざくり、と刀を巨木に突き刺してはホコラは言葉を漏らした。




「…っちぃ〜…戦闘ならいざ知らず、身体能力には完敗だなこりゃ。欲張らずに戦いに専念すべきだったか、このルール、おれには相性が悪ぃぜ」







「しゃあッ!頂!上!!だぁああああああああ!!!」




「腕の鉤爪へとにゅるりーん。お、あの中央じゃね」




 巨大な枝が幾つも分かれた巨木の頂上へと勢いよく飛び出したカナタは歓喜の雄叫びを上げた。


 足の装備から腕の鉤爪へにゅるりと変化したシャクが中央部に刺さる赤い旗を指差す。


 折角追い越したというのにここでまごついて旗を取られては敵わんと、足早に旗が突き刺さるそこへと足を運んだ。


 近付いては旗に手を掛け、勢いよくそれを頭上へ掲げて叫ぶ。




「おっしゃあゲットォオオオオ!!!」




「……〜ッ。やっぱり遅かったか……」




「──ッホコラ!ならこっからもう飛び降りて──!」




「ああ待て待て!今更それを取ろうとも思わねぇ。そんかわり一つだけおれの質問に答えちゃあくれねぇか?」




 ふと大きく息を吐いては呼吸を整える音の方を見るとそこにはうっすらと汗をかくホコラの姿が見えた。


 旗を取ったならここには要はないと、すぐさま飛び降りて逃げようとしたカナタはホコラに呼び止められ、ウイングスーツのように手足に薄く伸ばそうとしていたシャク共々身体を停止。


 確かに先程とはまるで戦闘の意志を感じられ無いホコラに顔を合わせながら、アイコンタクトで答えるとその口を開いて質問に答える。


 その質問の答えは決まっていた。それはカナタがこの世界で凄す為に決めた物。




「…大切な人の為、それと共に過ごせる自身の幸せの為だ」




「……それだけの力を持って…か。それを奪う者が現れたら?」




「全力でぶっ潰す。その為に俺は力を付ける」




「敵わない者が出たらどうする」




「それ以上に力を付ける。敵うまで抗う。全力で抗う。何度も何度も。その為なら何度だって限界を超えてやる。俺は馬鹿だからな」




「危ういねぇ…だが、〝面白ぇ〟答えだ。気に入ったぜあんちゃん……この勝負、そっちの勝ちだ」




「ああ?まだ決まってねぇだろ、そっちのお仲間は──」




───通信を二つ確認、同時通信します───




 ほくそ笑んでは目を瞑るホコラにカナタが言葉を返そうとすると、ベッセルから通信が入る。


 仲間の…二人から。




『カナタ、聞こえますか?旗は手に入れました』




『おう、カナタ…こっちも…どうにか死守したぞ〜』







『ロス!大丈夫だったのか!?』




「ギリギリですね。自身の能力が無ければ血塗れの指で水中を泳ぐなんて馬鹿はしなかった所です」




 指先に軟骨を塗り、そして包帯を巻きながら、ロスはとなりに目をくるくると回しながら気絶する狸を見つめた。


 両者共にびしょ濡れなのはこの狸が戦った菅笠の少年の正体で、全ての分身を撃ち抜かれて変化が溶けて気絶し、戦いの最中でこの狸の分身の一つが見つけていた旗を取る為に潜り、そして狸を助けて岸へと上がったからである。


 その大量の小僧狸を、聖水で清めた指弾で全て撃ち抜いた影響でロスの人差し指の腹と親指の爪は割れ、自身の能力で痛みを消さなければ今頃は耐え難い激痛に見舞われ喋る事すら困難であっただろう。





『…で。ゼーベックはどうしてそんな声が疲れ果ててんだ?』




「毛むくじゃらのオカマに旗とケツを狙われてたからな……生半可な攻撃が効かねぇからここら辺一帯丸ごと凍らせてやっと逃げれた……もう身体強化する体力すらねぇよ…媒体のナイフも全部使っちまった」




 疲れた声で話すゼーベックの真後ろに広がるのは一面に凍った森と氷像。


 普通の攻撃を容易く弾き、旗と尻を狙うヤマコから逃げる為に、ゼーベックは自身の能力を込めていたナイフを全て使い、それを触媒に一気に一帯を温度を下げて凍結。


 小規模ながら森を丸ごと凍らせる事でヤマコの魔の手を逃げ切ったのだ。







「おお…それは時間稼ぎありがとな……お陰で──三つ目の旗は手に入った」




 ホコラが戦意が無いのもこれで理解した。カナタと同じく何らかの手段で仲間の状態を確認して大人しく負けを認めたのだろうと。


 ゼーベックの青い旗、ロスの緑の旗、カナタの赤い旗。


 三つがカナタのパーティの手に入った。それを意味するのは戦いの終わり。


 カナタの手にする旗が光を放つ。カナタがその視界を覆う白き光から再び目にするのは──ステージの石畳。


 レガートの森から、旗によって、結界内の魔道具によって転移された二つのパーティに実況の声が高らかに響いた。




『決まりまシタァアアアアア!勝者はスタナー・テラポス!!準決勝への進出するのはスタナー・テラポスデース!!!』




── 【再】一方観客席のシラタマとルギくん──



ルギ


「やったぁあああ!兄ちゃん達の勝ちだぁああああ!!」




シラタマ


「ふにゅーー♪」




タマ


「よぉおおーっし!良かっ──ん゛ん、けふん」




ノン


「タマ?落ち着こっか?…分かりやすいなぁ…」

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