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ヘタレの努力家  作者: りばーしゃ
第3章 武術大会〝アーツカッチア〟
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衝突、逃走、膠着




 ロスが菅笠すげがさの少年と対峙する少し前、カナタは木々を足場にしながら、この広大なステージを飛び回っていた。




「よっ、ほっ」




「風が心地良いねぇ。お、食えそうな果実ゲット。ほい旦那」




「さんくす。んー、にしても広ぇな…ゼーベックの奴ちゃんと着いたかな…んあむっ、おっこれ美味いな」




「ケスルタちゃんこれなーにー?」




───名称不明、付近の生物も食している事から毒物の可能性は低いです。念のため解毒薬を飲むのを推奨します───




「だってよ、旦那。このもにもにした栗色の楕円だえんやつ」




「ん、少し舌がピリるかも。飲んどこ、解毒薬じゃなくて一種の鎮痛剤のようなもんだけど。んぐ」




 木の幹にとまり、移動の際にシャクがもぎ取った小粒大の果実の残りを食す。ドライマンゴーのような柔らかい弾力のある果肉と、葡萄のようなしっとりと深みのある酸味は美味しいが、パイン寄りのピリつきがカナタの舌に転がった。


 牙狼族の村を出た際に村長であり、師匠であるヴァサーゴさんからこれからも毎日一回は飲むよう言われて貰った〝毒物を身体に慣れさせる為〟の薬を同じく護符から取り出した水筒にて飲み込む。


 修行時から飲み続けている緑色に紫が混じった錠剤。漢方みたいな匂いがする程度で味は……カナタの渋い表情から想像出来るだろう。




──旅に出るならば毒物の対処は出来ていた方が良い。なぁに、幸い私と〝毒物が効かない息子〟で先に試しておるのでな、危険は無い。安全に取り組めるぞ、はっはっは──




「うーむ、この薬からヴィレットの悲鳴が聞こえるようだ……んぐ」




「その薬副作用的なのは無いのかい旦那よぅ」




「幸い無い。多分〝今の身体〟だから大丈夫だと思うけど社畜時代のガッタガタの身体ならヤバい気がする。口から泡吹いてそう」




「…さいですか。ん…!?旦那、気づいてるか?」




「──ああ。早いな、結構真面目に移動したんだけど…」




 茂みの向こうから聞こえてくるのは草木が折れる音と足音。


 滝とほぼ真反対に位置する巨木の距離はどちらのパーティにとっても同じ。探しながらではあるが、身体系であるカナタとほぼ同じ場所に来ている事から同じ身体系、または同等の身体能力を持っていると予想を立てた。


 そしてその音の主が姿を現し、口を開く。




「おやぁ、早いねぇ?〝最短距離を真っ直ぐ〟来たんだがなぁ…」




「そりゃこっちのセリフだ。こっちも木の上から──ッ!」




「ああ、気付いたかい?〝進みながら斬り倒して〟来た」




──ッ!




 白い軌跡が瞬くと、ホコラの身の回りにあった茂みが瞬く間に消え去った。


 カナタは茂みが消える前に見えてしまっていたのだ。ホコラの真後ろにある木々が切り倒された一本道を…!


 つぅ、と冷や汗が一筋頬を伝うカナタが質問を口にした。




「…あの巨木まで競争するかい。それとも──やる(戦う)かい」




「鉤爪になっておくぜ旦那…」




 巨木の城みたくバカみたいに太い幹は既に見えている。


 主人の言葉にシャクはそっと防具形態である腕甲から戦闘体制である鉤爪へと姿を変えた。


 試すように、にやりとした笑みを浮かべてホコラは無精髭ぶしょうひげを生やした顎をさすっては言葉を返す。




「ここでやる(戦う)のも悪くはねぇなぁ…しかしお前さんと競争ってのも悪くない。なら──」




 途端、ホコラの身体が沈み込む。迫り来る白い閃光と激しい金属と金属の衝突音にカナタは歯を食いしばった。




「ッ!!」




「どっちもやろうぜ?競争しながらよぉ!!」








「いやぁああああああああッ!!!」




 森の中を男性の絶叫が木霊する。足は止まる事なく、前へ前へとひたすらに駆け進み、背後から迫る恐怖から逃げていた。


 絶叫する男の名はゼーベック。冷や汗を流し、目尻には涙を浮かべ、いつものへらへらとした表情はそこには無い。


 何故ならば背後からは茂みなどお構いなしにへし折り、千切り、放り投げて迫り来るガタイの良い、毛むくじゃらの男が爆走しているからだ。




「待っちなさぁああああああい!可愛がってあげるからぁああああああああ!!」




 装甲アーマー付きの灰色のズボンで茂みの小枝を蹴り折り、むわりとした胸毛と腕毛の剛毛が垣間見える藍色のシャツはその逞しい肉体でぱっつぱつ。


 青髭の残る口元に紫色の口紅をしたイカつい顔は誰が見ても忘れないだろう。




「来んじゃねぇえええええ!〝熱波〟!〝寒波〟!」




 走りながらも、渾身の力を込めて熱の弾を撃つ。


 しかしそれはその男が身体に込めた筋肉の膨張にて弾き消えた。何故そのぴっちぴちに膨れた腕、胸によってシャツが破れないのかという疑問はゼーベックにはもはやどうでも良かった。




「ふぅうんッ!効かないわよぉおおお!!これしきの技なんてぇえええ!!」




「効かねぇじゃねぇよぉおおお!?何なんだよこのオカマぁああああああ!!!!」




「観念してその旗と身体を預けなさぁああああああい!!」




「いやぁああああああああああ!舌なめずりしてんじゃねぇえええええええ!!カナタぁあああ!ロス!ダグぅううう助けてくれぇええええええ!!!」







「ぬーん」




 どむーん、ぼよん、ぼよん。


 伸び縮みして跳ねる黒いスライムは、ダグが発射した砲弾を頭の上に乗せて震えていた。


 恐怖での震えではない、その砲弾の重さの余韻でだ。つまり、効いていない。




「参っただな…殴っても撃っても効かないだよ…」




「ぬーんぬんぬーん」




 黒いスライムは砲弾を身体の上で転がしながら、「なんだこれー?とったどー」とでもいうようにぐにょんぐにょんと呑気に遊んでいる。


 だがしかし、完全に気を抜いている訳でないようで砲弾で遊びながらも「取りに行っていいかな?いいかな?」と思った身体の一部を伸ばしてふりふりと旗を狙っていた。




「…なんだかシラタマを思い出すだな…あっちの方がちっこくてふわふわしてて好きだども」




 カナタに懐いているあの白くて丸いふわふわの魔物を思い出しながら、さてどうするかと武器を構えた。


 幸い相手の攻撃はこちらも大したダメージは無い。動きこそすれ伸ばした身体の速さはあちらの方が上だ。


 取りに行こうとすればあちらが身体を伸ばして阻止し、あちらが身体を伸ばして取ろうとすれば砲弾を撃って止め、そのままトンファーで迎撃する…まさに千日手。


 と、不意に黒いスライムは砲弾を放り捨てた。




「ぬぅん!」




「『遊ぶの飽きたー!』って言ってそうだなぁ…限界を…越えるチャンスだなぁ、これは…!」




 ダグは──覚悟を決めた。




── 【再】一方観客席のシラタマとルギくん──


ノン


「おお、相手さんバチバチっすね〜」




タマ


「にゃははははははは!!ゼーベック必死!にゃはははははははは!!」




ルギ


「そう言えばシラタマもたまにあんな事してるね。やっぱり似て──あああぽかぽかしないで〜ごめんごめんー」



シラタマ


「ふにゅにゅにゅにゅにゅ〜!!」

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