友情と愛と柔らかい二つの物
「…おろ?」
「ぬぉおお!?旦那しっかり!ふんごごごご…!!おっも…!!」
耳をつん裂くような歓声が響く中、自分の身体がぐらりと傾く。
ただの石だとは思えない程硬く、大量の黒い岩石の奔流を己が身一つで砕き割ったその代償は存外軽い物ではなかったらしい。
血塗れの腕に小手として装備されていたシャクがにゅるりとステージに伸びる本体と共に、ぽふんと姿を表す小さい人形の両手で浮かびながら俺の身体を支えるが大柄で筋肉質となった俺の身体を支え切れる筈も無く、倒れる速さがゆっくりになるだけだ。
「わりぃシャク、今身体を……」
「肩を貸そう……確かに重いな、この筋量ならばわたしが精錬した黒牙石が砕かれるのも納得だ」
「はは、ありがとよイネア。あの城の素材にも使われてる黒牙石かよ…通りで硬ぇ訳だ素手だったら身体がイカれる所だったな」
自身で支えようとしたその時、イネアの右肩が俺の脇下へとねじ込まれた事でシャクがほっと息を着いてはしゅるしゅると本体が元の左腕の腕甲へと戻る。
あの黒い石で出来た技はハウィさんの城で見た黒い門にも使われている素材で出来ていたらしい。
黒牙石…地の精霊の祈りが込められた硬く、重い石でその硬度は鉄を凌ぎ、重さは石の数倍と言われている物だ。
純度が高ければそれだけ硬く、重さは逆に〝軽く〟なり、名称も変わっていく……って図書館の本に書いてあった。
「力を出し尽くしたであろうカナタ選手にイネア選手が肩を貸しながらステージを後にしマス!なんと美しい光景でしょウカ!二人に惜しみない拍手と賛辞ヲ!素晴らしい戦いでシタ!!」
実況の声に続いて盛大な拍手と歓声が鳴り響く。
拍手喝采とはこの事を言うのだろう。
前後左右、掌で奏でられる暖かで激しい心の連打音、十人十色の感情の讃美歌。
なるほど、少し恥ずかしい。
「慣れてないから恥ずかしいな〜こういうの」
「ははは!それはそうだ!わたしですら慣れていないからな!」
「なんだよイネアもかよ、ふはははは!」
…
ぷしゅう、と医務室の扉が閉まる音と共にひりひりとする背中の痛みにため息を漏らす。
「くそぅ、ひでぇあしらい方だった。治療してくれたのは有り難かったけどよ」
イネアと共に医務室に来た俺だったが、以前お世話になったドワーフの先生に──
「だぁっはっはっ!ちゃんと能力使えてんじゃねぇか!これならすぐ戦ってもええぞ!おら、治療終わり!とっとと行け!だぁっはっはっは!」
──と、手早い治療と共に手荒く背中をぶっ叩かれた。
魔法で身体活性化させて軽い包帯で両手まきまき、顔とは他にはテーピングぺたぺたで終わり。
確かに以前より治りも早くなったし医務室に来る頃には大分まともに動けるようになったけど……手形とか付いてねぇよな?ばっちんばっちん鳴ってたぞ。
「ご心配の手形ばっちり付いてるぜ旦那」
「…はよ服着よ」
いそいそと護符に収納しておいたシャツやら上着を着ながら来た道を戻る。
あの医務室はこのデカい闘技場に備え付けられた物の一つで他にもトレーニングルームや休憩室まである。
改めてなんともデカい場所だなーと、着替えながら歩いていると目の前から二つの塊が飛び込んで来た。
ちっこいのと毛玉、すなわち〝奴ら〟である。
「ぃぃぃぃぃぃぃぃぃちゃああああああんッ!」
「ゅぅううううううううううううううううッ!」
「なんのこれしきぃいいいいいいいいいいッ!!」
腰元目掛けて二つの砲弾。鍛え上げた我が体幹を舐めるなッ!愛すべきちび共の衝撃なぞ容易いわぁああ!!
叫びながら突然してきたちび共、もといルギくんとシラタマを腰を下ろしながら僅かに下がる体重移動にてぶつかる際の衝撃を足元へ逃し、ずずずと後ろに滑りながら抱き止めた。
頭をぐりぐり、ふにょんふにょん言うちび共をなでくり回し、口を開く。
「おーおー、どうしたどうしたお前達」
「迎えに来た!戦いすごかった!」
「ふにゅ!」
「そうかそうか〜おーよしよし〜」
「あの衝撃を食らったのに対してケロッとしながらなでくり回す旦那すげぇわ。うむうむ」
「シャクもお疲れ様〜!」
「……もっとなでくり回すが良い…」
ルギくんの顔辺りに腕組みをするシャクがそう呟きながらルギくんに頭をなでくり回されていた。
おう、照れてんのちょっとかわいいじゃねぇか。
「おっ、いたいたカナタちん。試合お疲れ様〜」
「試合お疲れ様でしたカナタさん」
「おお!ノンさんにランさん!試合見てたんですか!?」
声のする前方を見てみればそこにはバルちゃんのお店の従業員であるシェパードの獣人であるノンさんと、蜥蜴人のランさんが居た。
二人ともお店の制服であるウェイター姿であり相変わらずとてもふつくしい。
「シラタマちゃん達の付き添いとして店長からご一緒してます。お二人の看板効果で売り上げが助かってますからね」
「あっちにカナタちんの匂いがするって言ったら二人ともすっ飛んで行ってね〜。大丈夫だった?」
「ははは、試合に比べれば全然ですよ。そうかーお前達頑張ったか〜」
「…おかしいな…アイゼンの旦那のパンチ並みだったような気がするんだケド」
頑張った〜、と満面の笑みのちび共をわしわしとなでくり回しているのを尻目に、シャクがぽそりと呟く。
愛故の衝撃だ。見ろこのなでられながらのきゅっと目を閉じた笑顔を、実に破壊力がある。
…
「おう!来やがったな!みんな待ってたぜカナタ」
「アイゼン!?それにみんな!?」
ランさんやノンさんを連れて談笑しながら自身のパーティの控え室に戻るとそこにはアイゼンを初め、ガドゥーラのパーティ、後輩のレオルにその上司のれーちゃんことレーゲンティエさん。
そしてバルちゃんのお店、ギルドで見た人達も来ていた。
バカ拾いホテルの一室のようなこの控え室も少し狭いぐらい、もちろん俺のパーティメンバーであるゼーベック達もいる。
「試合後にみんな来てくれてよ、オレ達の一回戦突破の祝勝会をしてぇんだとよ」
「おっ、いいね、ありがてぇ……あれ、ルギくんが居ない」
ゼーベックが説明してくれた所、ふと気付くと隣りにいたルギくんが居ない。
何処だと探してみるといつぞやバルちゃんの店でルギくんに絡んでいた鼬の獣人と、青肌銀髪の目隠れの女性二人に拉致されていた。あっ、あのショタコン達も来てたんだ。
「ふへへ、ここに来れば会えるかと思ってた私天才的」
「あーっ!今日もかわいいねぇー!」
「あうあう、にいちゃ…」
「いかん、ショタコンからルギくんを離さね──ばっ!?」
ふよん。
ルギくんを助けねばと足を動かそうとしたその時、背中にあたるの〝柔らかい感触〟に電撃が走った。
気付けば胸元にすらりとした〝女性〟の両手。
そして背中にあたる〝柔らかい二つ〟の物。
耳元に熱い吐息と共に誰かが囁いた。
「見つけた。もう離さない」
「ッ──ぽっ──!?──!?」
「えはははっ!カナタとあのチビ二人しておんなじ顔してやがるぜえははははっ!」
「初心かよアイツら……なぁロス、アイツらほっぽいて始めちまおう」
「お店から提供された料理が冷える前にそうしますか…」
「カナタ…すまねぇ〜オラも腹減ってるだよ〜」
ゼーベック
「おっ、美味そうな串焼き達!酒はねぇか酒!」
ダグ
「ここにあるだよゼーベック」
ロス
「おやシラタマ、カナタから離れて良いのかい?」
シラタマ
「ふにゅっふ〜♪」
ノン
「正直なヨダレ流してシラタマちんは通常通りだね〜。あれ、どったのランちゃん?顔が険しく…」
ラン
「…ッは!?いえ、何でも!少し黒いのが渦巻いてただけなので!!」




