たった一撃の為に
「はっはぁ!!おれの力を利用しやがったか!器用な奴だ!…だが──完全には使えなかったみたいだな」
「あたりめぇだよ。あんな重てぇもん受けたんだ。両腕が痛ぇよ、まだびりびりすらぁ……」
豪快に笑うアイゼンは、そのカナタのダメージを見抜いていた。
正直にそれに答えながら、カナタは黒い小手に変化させたシャクを両腕に再び付け、ぷらぷらと痺れを逃す。
(やったはいいものの……流石巨人族だな。ヴィレットの拳とは比較にならねぇ重さだ。長期戦は…俺の方が不利か)
腹にくれてやった一撃はそんなにアイゼンに効いていない事は今の様子から良く分かる。
タフさに加えてあの巨体からなる破壊力、避けてばかりはこちらの体力が削られる一方。
瞬間的に使う身体強化だけじゃダメだな──もっと……鋭い一撃を。
そんな事を考えていたカナタにアイゼンから言葉が飛ぶ。
「さぁーて、三つ巴から一対一だ。ここで一つおれから提案をしてぇ」
「提案?」
その言葉にカナタは眉をひそめた。
このままなら有利な筈のアイゼンからの提案。
一体どんな……と、訝しげに構えるが、それはカナタにも好都合な物だった。
「このままなげぇ時間やり合えば恐らくはおれの方が有利だ。──だがおれはお前と〝生存競争〟をしに来たんじゃねぇ。〝どちらが強ぇか、単純なぶつかり合い〟をしに来たんだ。そこでだ……互いに〝次の一発、全力を込めて〟真っ向から殴ろうじゃねぇか」
「!?……良いのか?このままならそっちが──」
「──良い、良い!めんどくせぇんだよ。それにあんな動きされちゃあ〝目が回る〟だろーが」
「め、めんどくさい……」
アイゼンの言葉にカナタの気持ちがずるりと拍子抜けした。
そのリーダーの言葉に仲間からも呆れの声が漏れているのが聞こえてくる。
「あちゃあ、始まったよリーダーの悪い癖」
「馬鹿やろー!折角のチャンスをー!」
「まぁまぁ。アイゼンも久しぶりの手応えでも感じたんでしょう」
ミノタウロスの男性が頭を抱え、ラミアの女性が罵倒を飛ばし、ケンタウロスの女性が嗜める。
緊張がすっかり溶けたなんとも言えない雰囲気に、カナタは小さく吹き出した。
「…ぷっ、はっはっはっは!…緊張して身構えた俺が馬鹿みてぇだ!りょーかい!そんなら次の一撃で決着だ!!」
「えっはっは!おめぇなら了承してくれると思ったぜカナタァ!!お前も〝おれと同じ感じ〟がしたからなぁ!」
豪快に笑い返すアイゼンとカナタが少し離れた…互いの丁度良い位置に歩を進めた。
「良いぞアイゼン!それが男ってもんだ!!」
「負けんなよカナタ!おめぇに賭けた!」
それを観ている客達からも潔く、分かりやすく盛り上がる言葉を囃し立てた。
既にカナタの頭に緊張の文字は無い。
──全力。その清々しいまでの二文字を打つ事が頭を支配していたからだ。
「シャク、今から全力でぶちかますから……〝俺の右腕が砕け散らないように〟保護しておいてくれ」
「……はいよん。あー、やだやだ。男ってそういうのほんと好きよねぇ……(そんな嬉しいそうな顔してちゃあ断れにゃあでしょうよ)」
カナタの言葉にぶつくさと文句を良いながら、シャクは何とも言えない顔でしゅるしゅると右腕を拳ごと、アームカバーのように包み込んだ。
全ては…主人の御心のままに。
「ぬぅん!!!!」
アイゼンが右腕を後ろへ振りかぶり、その巨大な拳へ力強く握り締める。
大樹のようなごんぶとの腕の体表には力が流れ込むように血管が浮かび、肌は金属じみた……いや、文字通り鉄へと変わっているのだろう。
見て分かるその巨拳に込められたパワーは先程の短い溜めの両手の打ち落としとは比にならないのは明白。
まともに食らえば──
「──しゃあ!やってやらぁ!!」
仮定の話しを中断し、カナタは前を見据えて集中した。
(たらればを考えてどうするってんだ。今はそんな事は無駄だ!!!)
そんな事はぶつかり合いに置いて不要の考え、意識を己の強化へと切り替え、脳内にてケスルタを呼び出し、〝能力〟を使う。
(ケスルタ、行くぞ)
──了解しました。マスターの意思から能力の使用を全身に伝達します──
(身体の筋肉を心筋に)
ぎしり──身体の筋肉が軋む。
(身体の骨を歯と同じ硬度に)
ぎりり──骨が唸りを上げる。
(かぁあ…痛え、痛え。なるほどな、身体がその場で作り変わるみてぇな感じか)
全身を、外側から、内側から、摩耗されるような、絞られるような感覚にカナタは顔をしかめた。
そして…身体へと流れては失っていく己が魔力。
それと対称的に漲ってくる身体への……力。
(ふはは。こりゃあ一撃が限界だな、右腕だけで済みゃあ良いけど)
シャクによって保護された、自身の黒く輝く右腕を見ながらカナタは微笑とともに汗を一つかいた。
だが──
(関節と皮膚を単純に強化、再生力を上げ……)
カナタはその行動を止めはしない。
相手が全力で来いと、勝つチャンスを不意にしてまで上げた案を……プライドを無下にはしない。
自分も……〝めんどくさい〟からな。短時間で済むなら有難い、後はやってから考えるべきだ──と。
「……ッ…!お、おい…カナタの奴……一体どんな能力してやがんだ!?見た目はあまりかわらねぇのに……〝凄まじい気配〟を感じるぜ!!?」
「た、ただ漠然と身体系とは聞いてはいたども……ロス、分かるだか?」
「あれは…恐らく…〝身体の中が変わって〟いる」
その異様とも言える程に、変わらないまま威圧感が増すカナタの様子に、ゼーベック達は静かにたじろいだ。
身体系と言えば見てすぐ分かる物や身体に分かりやすい変化をもたらす物。
ヴィレットの風属性による空中に作った風の足場を利用した蹴り、〝空脚〟も、シュエンの五体を自然の物に変化させる〝万象変化〟も自身の周り、または外観に影響を与える物。
だが──
「はは、聞いた事も無い……〝身体の中身が強化される身体系〟なんて…!!」
目の前、仲間である男の身体の中で溢れるような、凝縮されるかのような力の流れ。
ロスは己の能力によりカナタの身体で何が起こっているのかが少し分かっていた為、その初めて見る光景に胸が高鳴った。
そして──
「はっはぁ!!分かる!分かるぞカナタァ!!凄まじい力のうねり、その身体でのたうつ魔力の圧力がァ!!」
痛みと共に漲る身体、高揚していく精神。
だがカナタは──身体の力を抜いていた。
「そっちこそすげぇ迫力だ!!突っ立ってても肌がびりびりとしやがる!!」
最高の一撃を生む為に、己の力を余さず打ち込む為に。
その為の──脱力。
噴火前の火山の如きステージの圧力、迫力にそれを見ていた仲間、人々は口を閉じた。固唾を飲んで見守っているのだ。
一瞬で決まるだろうその──男達の力の衝突を!!
「行くぞカナタァ!!」




