納品
…
「うーす、邪魔するぜー」
「ふにゅ〜」
何の装飾もされていない、シンプル過ぎるドアを開いて間延びした声を一つ。
ここがどこかと言えばまだ商品も無い、後輩ことレオルの店予定の建物だ。
「ああ、先輩、おはようございま──」
「すいませんトイレ借りますッ!!!」
テーブルに着いていたレオルがそれに気付いて挨拶をしようとしていた所を必死の形相になっていたルギくんが風と共にぶった斬った。
真っ直ぐに奥にある、おトイレの場所に。
「──あの子は?」
「飯は食ったか?その原因となったミネラルたっぷりの肉を食うと良い。もろもろ食いながら聞け」
お土産として持って来た依頼品で出来たステーキの入ったタッパー(材質不明)を見せる。
何故タッパーがあるかなぞ他の異世界人の叡智だろ。材質もプラスチックじゃない耐火、耐冷らしく詳しくは考えない、めんどくさいもの。
耐熱じゃなくて耐火って何で出来てんだよマジで。バルちゃんから渡されたけどほんと材質何なんだよ。
「ミネラルたっぷり…トイレ……あー、把握しました。丁度朝ご飯まだだったんで頂きます」
うむ、同じ世界に居た人間だと理解が早くて助かる。
…
「と、言うわけで依頼品のフライシュラスプの外殻だ」
がらん、ごろん、と重々しい音を響かせて収納してあったその外殻を床へと並べる。
刃のでかい、おろし金とノコギリを合わせたような見るからに危ないこの物騒な物が──レオルの求めていた依頼品だった。
「……先輩、人間辞めてません?」
「俺が倒したのはこっちな。まだ血を啜ったりはしてないぞ」
す、と隣りの酒樽程のサイズの外殻を指し示してレオルの問いに答える。
大丈夫だ、これでもあの酒飲み戦闘狂狼男よりは人間だ。
「いやこっちもじゅーぶんデカいですって。…おかしいな、先輩僕より小さかったのに………これが身体系の能力者か……」
「お?なんだってレオル今なんつった聞こえなかったからもう一度言ってくれや。お?」
「ぎぶぎぶぎぶ。先輩すいませんっした降ろして許して」
猫の首根っこを掴むようにレオルの奥襟を持ってぶらりと宙に浮かせると、腕をタップされて降参していたので降ろす。
こんな事をするとこいつの名前の通り猫科にしか見えぬ。
「今はこんなにおっきくてたくまぷぎゅ」
ワザと艶っぽくおっさん発言をするシャクの両頬も摘んでおく。
脳の中見られて事情知られただけに余計分かるわ。
「そーいえばお前の能力なんだ?こーいう店やりたいって事は便利な能力持ってんだろ?」
「い、一応。戦闘向きじゃないですけど……」
首をさすりながらレオルはそういうと何やら紙を取り出し、さらさらと絵を描き始めた。
円柱の塊を貫通した、長い取手の道具──どうやらハンマーのようだ。
「〝具現化〟」
「おおっ!絵がせり出してきた!」
ゆっくりながらにゅにゅっと紙から出てくる半透明の物の形はまさしくその描かれたままのハンマー。
ことん、と全身を出したそれをレオルは手に持ち、口を開いた。
「これが僕の能力、〝具現化〟です。無属性、放出系のレアな物にあたる能力なんですが……えい」
「あ、おい…ッ」
乾いた、小気味の良い音が一つ。
両手に持ったレオルのモーションを静止しようと声を出したが、構わずに作ったハンマーを──へし折ってしまった。
ん……?〝脆くね?〟
「身体強化でもしたのか?」
「いいえ、してません。〝脆い〟んです。書いた物から半透明、低耐久の物質を書いた通りに産み出す事が出来るのが僕の能力です。もちろん一定時間すれば消えます、今は数分ぐらい持つかな?」
その折れたハンマーを机の上に置いてレオルは答えた。
便利な能力だ。一定時間で消えるというのもメリットになる。つまり──
「なるほど人力3Dプリンターかお前は」
「その通りですけどそれは夢が無いんでやめて下さい」
自覚はしてたのか、なんかすまん。
そんな出力された折れたハンマーをシラタマとシャクが興味深そうに触っている件について。
和む。
ちなみにあのアルミマジロの子はシラタマの頭の上、もふもふ鏡餅。
あっ、ハンマー消えた。びっくりしてる。和む。
消えた所触って不思議がってる。和む。
「一応至近距離なら出した物を自在に動かせます。浮かせたり回したり。全部自分の身体能力までですけど」
「十分すげぇじゃねぇか。俺なんぞ唯の無属性、身体系の唯の脳筋やぞ。ドリルとかも具現化出来るのか?」
「出来ますよー、元から絵は得意ですしそうでもなきゃこんな店作りたいなんて思わないですよー」
のほーんと言うレオルに軽く笑いながら確かに、と一言。
そう、こいつは絵が上手い。それに加えてこの〝具現化〟という能力なら大抵の物は加工出来るだろう──が。
「身体強化無しでか?」
身体系じゃない放出系の身体能力はたかが知れてる。
身体強化無しでこの分厚い甲殻をあの脆い能力で加工出来るとは思わない。一体どんな手段を……
「…無理ですね!頑張ります!」
まさかの根性論わろた。まぁ、時間はあるから……あ、そうだ──
「一つ作るのにどんだけ掛ける気だ。〝コレ〟使ってみろ」
「…っと。何ですかコレ?」
ポケットの一つから灰色がかった半透明な物を取り出し、レオルに投げ渡す。
これは──
「〝俺の能力の一部が入った魔跡玉〟」
「あ、なるほどー。それを使えばこんな魔物ならの甲殻なら簡単に加工が……ってえぇええええええええええ!?」
「うるっせぇ」
「あいやーうるさいねー」
「ふにゅー」
「くー」
目ん玉を丸くしながら驚き叫ぶレオルに俺たちが耳を塞ぐ。
叫びが無くなった所で足音が一つ。
「…全部出たー……」
「お帰りルギくん」
晴れ晴れとした、魂が出そうなほどの声色でルギくんがトイレからご帰還である。
スッキリとした顔しちゃってまぁ。
…
そんなルギくんが帰ってきた所でルギくんの紹介をした所で本題とも言えようその手渡した物についてレオルが食ってかかるように聞いて来た。
「いや、ルギくんの事は分かりましたけど魔跡玉ですよ魔跡玉!!なんて希少な物をぽいっと渡すんですか!!?メダルじゃないんですよ!!?」
「お前だから預けんだよバータレ」
「これ一つどんだけの値打ちあると思ってるんですか!!?増してや先輩のような〝実戦的な身体系の魔跡玉〟なんて家一つ軽く買えますよ!?」
「そーなのルギくん?」
「うん、ふつー自分の魔跡玉なんて家族か弟子ぐらいしか渡さない物だから売ればとんでもないお金になるよ。〝兵器〟にもなっちゃうもん。自然の力を染み込ませて作った魔玉とは比べ物ならないほど強いから」
血相を変えて話すレオルの様子が気になりルギくんに聞くと相当やべーらしい。
なるほど、俺はゲームを貸す乗りで渡してしまったようだ。はっはっは。
「確かに先輩の身体系の能力が少し使えるこの魔跡玉なら放出系の僕でも数日でこのフライシュラスプの甲殻が加工出来るでしょうけど……!?盗まれたり取られたりしたらどうするんですか!?」
「〝取られんな〟。もし自分の身に何かあったら全力で抵抗しろ。〝もう、ここはあの世界じゃねぇ〟んだ。構わずぶちのめしてやれ、もういい加減〝獅子〟に戻ったらどうだレオル。自由にやれ、なっ?」
ばしばしとレオルの両肩を叩いてそう良い聞かせた。
レオルは今はこんなに大人しいが…実は昔はもっと凶暴だった。
喧嘩はしょっちゅうだったし何かと食ってかかる事が多かった。その名前の通り。
俺が羽交い締めで止めた事も良くあった。今となっては懐かしい。
だから──今度はやりたい事を自由にやるべきだ。〝ここ〟には檻は無い。
「……分かりました。それならお借りします」
「あ、魔力制御の練習しろよ。出ないと多分使った時にこの店〝物理的に潰れる〟から」
「ぶ、物理的……練習法教えて下さい。まだ路頭に迷いたくないので」
よかろう。シラタマをもふもふしながら聞くが良い──あ、そうだ。
ひょいとソイツを両手に乗せる。
「レオル、コイツ預かってくれん?」
「くー」
「うわ可愛……」
小さく鳴く、ふわふわのコイツをレオルに預かって貰うと言うのはどうだ。
…
カナタ
「ほれ…もふもふだぞ……どうだ…?お前ももふもふ教に……」
ルギ
「兄ちゃん危ない勧誘になってる。止まって」
シャク
「諦めろルギ坊。このシラタマちゃんのもふもふは心地良いだろう?そう言う事だ〜」
シラタマ
「にゅっふん」




