〝魔物〟とは
しったげのぎ(秋田弁でとても暑いの意)
…
「ええ、確かに確認しました。お気を付けて」
「お勤めご苦労様です。行ってきます」
門兵さんに臨時ギルドカードを見せて国の外へと出る。
相変わらず、見上げる程の巨人でも通れそうな巨大な黒い石造りの門から外へ…では無く、横の普通サイズの扉から。
実際に巨人も通れるようになっているのだろうなと思う。巨人のサイズが実際にどれくらいかは知らんが。
「ところで兄ちゃん、なんで朝から座禅なんかしてたの?」
いつもの黒いパーカーにオリーブ色の短パンを着たルギくんが右隣りでそう疑問を飛ばして来た。
「おお、座禅知ってたのか。あれは精神修行も兼ねて魔力の修行でな、度々やるようにしてんだ。魔力を身体の中でぎゅりぎゅり巡らせてどこにあるかを把握する事で能力の強みがますんだよ」
「……にゅ?」
「ぎゅりぎゅり…巡らす…?……んん?」
俺の言葉にいまいちピンと来なかったのか、ルギくんの頭の上に乗ったシラタマと共に首を傾げては目を細めた。
「身体の中に川があるイメージだな。流れるのに邪魔な石とか小枝を退けてどんどん流れやすくするんだ。ご飯も余計な事考えて食べるより頭空っぽにして食べた方がより美味しいだろ?」
「なるほど!分かった!」
「にゅ!」
「いや飯に例えたらすぐ分かるのどうなん」
川のくだりで眉間をへにょんとしかめていた二人だったが、ご飯にしたとたんにきりりとしたのを見て胸元のポケットにいるシャクの鋭いツッコミが飛ぶ。
うむ、例えを飯にして正解だったな。
「さて……本題の依頼の品なんだが…どうやら魔物の皮らしい。甲殻が硬く、丸まって防御する動物の……〝魔物〟だとよ」
「うーん…?……どんな奴?」
少し考えこみ、やがてぽかんと口を開けるルギくん。
だよな、漠然とし過ぎて分からんよな。こういう時は……ッ!
左腕に付けた〝あれ〟へと呼びかける。
「ケスルタ先生。そんな動物は居ませぬか?」
猛獣や魔物の図鑑のデータが入った我らがケスルタ先生にお任せだ。
俺の言葉に、光の知恵の輪が周り、反応するように点滅。
───思考から予測……アルミマジロかと思われます。映像展開します───
流石ケスルタ先生、仕事が早い。
その抑揚の無い音声が終わると、知恵の輪となっていた光によってその動物の立体映像が現れてゆく。
現れたのは──
「「アルマジロやないかい」」
その映像に俺と〝シャク〟の声がハモった。
体表が銀色にキラキラせど、その動物は正に俺の記憶にあるアルマジロ……待て、〝それは〟おかしい。
「何故お前が分かる……シャク」
この〝知識〟が分かるのなぞデンイとレオル…〝異世界人〟しか分からない筈だ。
シャク…お前…何故知っている?
───回答。シャク様から私を媒体に〝カナタ様の記憶を読んだ〟からです───
その俺の疑問に、腕のケスルタが抑揚のない音声で答えた。
ケスルタ先生公認だと……?
「そゆこと。怖がらなくても良いよぉ?ウチ特殊な武器だしそういう事しないと持ち主の力ちゃーんと発揮出来ないんだもん」
───過去のデータにもそのような武器、防具が存在しています。例を挙げるならば火雷の女将、リンガーナ様のブーツがそれに当たります───
目の前に浮かび上がり、ふふんと小悪魔的な微笑を浮かべるシャクに合わせるようにケスルタ先生がそう補足してくれた。
ああ、リンガーナさんが履いてた〝ひとりでに〟脱げるブーツがそういう奴なのか。
玄関で履いていた格子状のブーツがしゃらりと勝手に外れて脱げる。
すげぇブーツだなとは思ったけど……そうか武器防具の類いだったのか。
以前シャクが「きゅーとでぷりちー」とかをほざいてたのは……把握。
「……なるほどね」
「ふふふふん」
「ドヤ顔やめれ」
小悪魔的な微笑からドヤ顔に変わったのが非常にイラついたので人差し指と中指で頬をむにゅりと挟んでやる。
「ふぁい。ひゅんふぁへん」
気の抜ける声で反省するシャクに免じて指を離す。
全く、こいつめ。黙ってりゃ美人なのによ。
と、そんな事はどうでもいい。
「で、ケスルタ先生。〝この動物の魔物〟はどんな奴なんだ?」
回りくどい言い方でケスルタ先生にそう尋ねる。
なぜ〝この動物の魔物〟と聞いたかと言うと──魔物とは〝負の感情〟によって産まれた、動物などの生命体の〝突然変異体〟である。
一般の動物などと違う所は幼体などは無く全てが〝成体として産まれる〟所だ。
種類、場所を問わず魔物は産まれ、等しく共通な所は雑食であり、意思疎通は出来ず、人を襲い、また糧にする所である。
その為、魔物を発見の際は速やかに殲滅をする事がギルド員の義務。
また、魔物は元となった生命体より外観が多少異なっており、燻るような黒い靄を身体から漂わせている為、参考にする事──と、リンガーナさんの蔵書にあった本に書いてあった。
このアルミマジロとかいう動物が変化したような魔物も──姿が違うのだ。
───表示します───
ケスルタ先生の光輪が、アルミマジロの映像を変えてゆく。
キラキラした銀色の体表の一つ一つが大きく、鋭く伸び、凶悪な鋼の装甲へと変化。
小さな口元からは鋭い牙が上下に生え、丸くつぶらな黒い瞳は邪悪な程に釣り上がった。
そして──〝負の感情に支配された証〟とでも言えよう、燻るような黒い靄が身体から漂い出す。
なるほどこれは……恐ろしい。
───魔物名〝フライシュラスプ〟。身体に着いた鋭い装甲と牙によって獲物の肉を〝削り取る〟魔物です。発見次第ギルド員は駆逐する事が義務となっております───
肉を〝削り取る〟…ね。野放しにしたら生態系が荒れる〝だけ〟じゃないな……
「……ルギくん、危なかったらすぐに逃げろよ。シラタマも」
ぽそりと、悟すように呟いた。
おろし金のように鋭そうな装甲で襲いかかってきたならば普通の人が防具無しではひとたまりもないだろう。
防具も硬い皮膚もないルギくんやシラタマなどは特に。
「うん、全力で逃げる。…所でそいつの肉…美味しい?」
───元となったアルミマジロと共に食用に分類されます。フライシュラスプの肉は歯を弾く程よい弾力をしてとても美味です───
「……ふにゅッ!!」
「いや、ぐっ!じゃねぇよシラタマ。おめー何美味いと知って目を輝かせてんだ」
考えてるような真顔からキリリと表情を変え、親指(?)を立てるシラタマにツッコむ。
こいつ……俺のシリアスを返せ……!
「いつも通りのシラタマちゃんでウチは安心したよ〜」
生暖かい目で頷いてるんじゃないシャクよ。お前はコイツの母親か。
…
かさり。
葉の擦れる音が、優しげな風によって揺れる。
鬱蒼と生い茂る林の中、木によりかかる一つの影が居た。
「さ…て。頭の命で渋々来たが……はッ……来た意味がある奴はいるかねぇ……」
着流し姿に無精髭を生やした男は高楊枝を口に咥え、僅かに抜いた腰の刃を静かに眺めながら、一人そう呟く。
直刃の刃文は──静かに日の光りを反射した。
…
カナタ
「それにしてもこのアルミマジロって奴かわいいな。魔物の方はこえーけど」
ケスルタ
───雑草、小石や砂利を餌にしてるので愛玩用としても飼われています───
シラタマ
「……」
ルギ
「……」
シャク
「美味しいのが飼われてる…!みたいな顔やめなさい二人とも」




